車のビッグデータ活用は幅広い。特集第3回は、商用車プローブデータの分析で道路補修や配送ルート最適化を支援する富士通、新たな手法でテレマティクス保険の開発に乗り出したアクサ損害保険などの取り組みを紹介する。

 「これまでにない6万台に及ぶトラックのリアルタイム走行データを基に物流の見える化を実現。民間企業に対して、倉庫の配置場所や、配送時期や時間帯に応じた最適な配送ルートを提案できるようになる」

 こう力強く語るのは、富士通交通・道路データサービス(FTRD、東京都港区)の島田孝司社長だ。FTRDは富士通が7月1日に設立した全額出資子会社で、商用車プローブデータの分析と道路補修支援サービスを提供する。

1秒ごとのリアルタイムなデータを活用

 富士通は2012年から、同社といすゞ自動車が共同出資するトランストロンが提供するネットワーク型運行管理サービスを利用する輸送事業者の商用車プローブデータを分析して、安全運行のための情報を提供してきた。2014年から商用車プローブデータを活用した道路利用実態の分析サービスも提供し始めた。

 一方、2013年には自治体などにスマホのモーションセンシング機能を活用した「道路パトロール支援サービス」を開始。こうしたサービスを引き継いだのがFTRDだ。

 10月に提供開始を予定しているサービスの1つが「定点モニタリングデータサービス」。列島5断面(東北・関東・近畿・本四架橋・関門海峡)を境にして、商用車の出発地と目的地間の経路を分析することによって、主要路線の交通量と発着地分布を地図上で見える化して提供する(下の図)。1カ月分の商用車の走行データを活用している。

富士通交通・道路データサービスの分析サービス例
富士通交通・道路データサービスの分析サービス例

 さらにこの情報を基に、最適な倉庫の配置や配送時期や時間帯に応じた最適な配送ルートを提案していく。道の駅の利用分析データサービスやヒヤリ・ハット地点のデータ分析サービスなども展開する。

 島田社長は「トラックのデジタルタコグラフがネットワークでつながっており、1秒ごとのリアルタイムなデータ(位置、時間、速度、加速度など)を活用できる点が当社の優位性だ。毎年2万台のデータが増えている」と力説する。

自動車保険は5割引になるか

 アクサグループは、欧州でテレマティクス保険を販売しており、安全運転している加入者は保険料が最大で5割引になる。走行距離が月間1000km以内と短ければ10%割引、アクセルとブレーキのデータを基に安全運転しているかを判断して最大40%割引にするというもの。

 日本では、ソニー損害保険が2月に開始した「やさしい運転キャッシュバック型」やあいおいニッセイ同和損害保険が4月に始めた「つながる自動車保険」がテレマティクス保険の先行組だ。前者は、車両の加減速データを基に加入者の運転特性を点数化。点数に応じて保険料を最大2割安くする。後者は、トヨタの通信サービス「T-connect」の利用者を対象に、1km単位の走行距離に応じて保険料を決めている。将来的には、運転特性を保険料に反映させる。

 欧米では平均保険料が年間10万円以上で、若年者の場合は年間20万~30万円。一方日本では平均保険料が年間7万~8万円と、欧米に比べて安い。若年者は十数万円かかり、ソニー損保はここをターゲットにする。

 また、日本ではリスクの高い人とそうでない人で保険料があまり変わらない、従って欧米と同じビジネスモデルでは成り立たない。車のデータを取得するために後付けの車載器の購入が必要だと、なかなか普及が進まない。日本ならではのローコストなビジネスモデルを作らないと成り立たないと指摘されている。

 そうした中、アクサ損害保険が新たな手法でテレマティクス保険の開発に乗り出してきた。

 同社ネクスト・イノベーションプロジェクト統括の輪島智仁氏は「なかなかチャレンジできなかったが、ネットサービス開発を手掛けるスマートドライブ(東京都港区)の北川烈社長と話す中で日本ならではのテレマティクス保険の方向性を見いだした」と話す。両社は4月に業務提携を発表。8月には産業革新機構がスマートドライブに6億6000万円を出資すると発表。アクサも出資した。

 アクサの保険加入者にOBD2端末を提供し、走行データを収集。運転のスタイルを見える化する。「事故を起こした人がどんな運転スタイルなのか、アクセルやブレーキの踏み方から見えてくる。今年10月ぐらいには、実証実験をスタートしたい。保険の許可を取るためには1000件ぐらいデータがないとダメだ。加入者のデータは少なくとも万単位は必要になる」(輪島氏)と言う。

 費用を下げるポイントは、OBD2端末の費用をスマートドライブのデータビジネスで回収することだ。北川社長は、自動車整備工場や車のディーラー、ガソリンスタンド、ローン会社、カード会社に「個人の運転特性データ」を販売しようとしている。

 北川社長は「例えば、自動車整備工場の場合、エンジンの状態が分かるので、車検の前でも故障が起きそうなタイミングで顧客にアプローチ可能だ。顧客からすると、常に車検に出しているのと同様なので、車に何かあっても安心だと思う。ガソリンスタンドでは、ガソリンタンクの容量が分かるので、給油が必要な車に対して近くの安いスタンドをレコメンドできる。人々の運転データを集めた交通ビッグデータについても、危険地区マッピングや渋滞情報などを提供できるかどうか、検証を進めている」と明かす。

車のデータを活用したアイデア

 9月18日から3日間、千葉県柏市で「HackCars Days 2015」という、短期・集中的な共同作業でソフトウエアの開発や技術、アイデアを競い合うイベントが開催され、エンジニアやデザイナーなどが集まった。

9月に開催された「HackCars Days 2015」の模様
9月に開催された「HackCars Days 2015」の模様

 主催はトヨタIT開発センター、マツダ、富士重工業の3社。三井物産、双日、日立建機が協賛した。国内自動車メーカーが共同でハッカソンを開催したのは初めてだ。

 本イベントの実行委員長の長田祐氏(トヨタIT開発センター開発・調査部開発Gプロジェクトマネージャー)が開催告知サイトで述べているように、「現状は自動車メーカーは別々に独自のフォーマットでデータを集めて利用しているが、今後は統一のデータフォーマットや基盤を作らなければ、本当の意味で有効なデータ活用にならない。今回はその布石だ」。

 優秀賞に輝いたのは、「DoRoad by市川電産」。走行データから運転が荒くなるなどひどい走行が多く、ひどい形状が多いと判断される道路「酷道」を機械的に算出。音楽や匂いで、ドライバーの安全で快適な運転を支援する仕組みなどを提案した。

 ほかにも、日本で年間4万件以上起こる野生動物との「接触」情報を周辺を走る車と共有するサービスや、車の自撮りサービス、車にペットと同様の愛情を持ち感情移入できるようにするサービスなどが注目された。

 協賛社の参加者の1人は「自動車メーカー自身、収集する車のデータをまだまだ生かせていないと感じているようだ。個人的には車のデータを一番生かせるのは自動車保険だと思う。事故対応に効く」と語った。

 自動車産業は部品製造、ディーラーやガソリンスタンドといった流通など関連産業の裾野が広く、日本の成長を左右する基幹産業だ。このハッカソンが目指すような基盤整備で車のビッグデータ対応が進展すれば、関連産業にも広がり、本特集で見たように物流、観光にも影響が及ぶ。日本の全体ビッグデータ活用が一気に進展する可能性を秘める。それが車のビッグデータである。

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