車ビッグデータ特集の第2回は兵庫県加古川市が舞台だ。同市では車のデータを活用して、2割程度のコスト削減を実現する「改革」が進められている。自動車メーカーに頼らず、車のデータを収集する点が特徴だ。

 加古川市が所有する公用車79台にOBD2端末、42台にスマホ端末(10月中に約230台追加予定)を搭載して、位置や速度、加速度などのデータを収集。道路の凸凹状態やゴミの収集量、冠水状況などを調べて、対策を打つというプロジェクトだ。

 ちなみにOBD2は、車の状態を自己診断するために使うインターフェース。コンピューターにつないで使う。速度やエンジン回転数、スロットルの開度、水温や電圧、燃料の残量といった車の“生データ”が取得できる。

 データの活用ソリューションを提供するのは、ゼンリンデータコム、構造計画研究所、日建設計総合研究所、東京大学で構成する「加古川モデル」のチームだ。このプロジェクトは、具体的な経済効果を試算している。

 例えば、「道路維持コストを年間2割削減することが可能になる。限られた範囲の道路で不定期に行っていた路面調査を公用車を使って簡易的、日常的に計測することによって調査費用を削減できる」(ゼンリンデータコムのネットサービス本部Web-GIS事業部の足立龍太郎副部長)と言う。2割削減できる理由は公用車に取り付けた端末が収集する走行データ(位置情報、加速度)にある。

 「もし公用車の走行で自治体の管理範囲を1週間程度でカバーできるようであれば、5年に1回全域調査することに比べて50(週)×5(年)で250倍の頻度で計測できるようになり、計測時の不確実性が大幅に抑えられる」と、足立副部長は解説する。公用車の稼働によって道路の劣化状況を日常的に把握することで、応急措置から事前予約、計画的な道路インフラの維持管理を実現する。その結果、修繕コストや応急処理でのコストが下がるというわけだ。

 今回導入するシステムは一般に、100台規模の公用車管理で500万円の導入費用、年間200万円の運用コストを見込んでいる。ただし、データ利活用アプリケーション、管理台数、導入自治体の地域、設置車両(機器仕様)の諸条件で変動する。加古川市の場合、機器の初期費用や初年度の運用コストなどで2000万円以内を予定しているという。

車両の揺れから道路の状態を把握

 道路の状態はどうやって把握するのか、その原理を説明する。下の図にあるように、凸凹の道路を走ると、平坦な道路に比べて車両の揺れが大きくなる。その揺れの大きさをスマートフォンなどに搭載された加速度センサーで取得する。

 下図の右側のグラフは、横軸は揺れの大きさ、縦軸は確率密度をプロットしたもの。確率密度は単位計測時間当たりに、揺れの大きさが検出される頻度を示している。例えば、ある場所で1秒間に100回の加速度の値が得られたとして、平坦な道路であれば計測された100個の加速度の値(揺れの大きさ)は狭いレンジで取得される。一方で、凸凹の道路であれば、100個の加速度の値は広いレンジで分散して取得されるというわけだ。

デコボコ(凸凹)の道路を走行すると、平坦な道路に比べて車両の揺れが大きくなる。揺れの大きさは加速度センサーで取得できるので、凸凹の状態を把握できる
デコボコ(凸凹)の道路を走行すると、平坦な道路に比べて車両の揺れが大きくなる。揺れの大きさは加速度センサーで取得できるので、凸凹の状態を把握できる

 また、「ゴミの量を2割減らしたい」という加古川市の要望に対して、加古川モデルのチームは「8倍以上のコストメリットと運用上の効率、地区ごとにゴミの量が分かる成果という点で優位性がある」(足立副部長)ソリューションを提案する。

 ゴミ収集車にスマホ端末を取り付けるだけで地区ごとのゴミ収集量を把握できる。ゴミ収集車がゴミを積載して重くなると、走行時の車体の揺れがゆっくりになる。「揺れの変化は重さの違いの平方根に比例する。GPS(全地球測位システム)情報とひも付けることによって、どの巡回ルートで重さの変化が大きいか類推できる可能性がある」(足立副部長)と言う。各地区のゴミの量を見える化して、減量対策を検討する。

 加古川市の要望を受け、冠水箇所の把握やカーシェアリングの導入、渋滞箇所の把握、市内パトロール経路や時間帯の見直しなどにも取り組む予定だ。

岩手県からスパリゾートハワイアンズへの検索が急増

 車ビッグデータの活用は公共領域にとどまらない。交通情報のナビタイムジャパン(東京都港区)は2012年に交通コンサルティング事業を開始し、事業規模は年間数億円に成長した。新しい道路が経済や観光に与える効果などを見える化している。

 例えば、同社は今年3月に全面開通した常磐自動車道の効果を分析した。「常磐道と東北道の経路選択分析」と「宮城~福島の観光流動」分析だ。前者は、2015年3月2日~4月30日と前年同期の携帯カーナビのプローブデータを活用。左下の図にあるように、東北自動車道利用者の約30%が常磐道へと転換したことが分かった。こうした分析結果は、高速道路管理者にとって有効な情報になる。

ナビタイムジャパンは道路開通の効果や、観光施設の集客圏の分析を提供
ナビタイムジャパンは道路開通の効果や、観光施設の集客圏の分析を提供

 一方、後者の観光流動の分析に活用したのは、経路検索条件データ。つまり発着地や日時などの条件を蓄積したデータだ。抽出対象はナビタイムのサービス「PC-NAVITIME」「ドライブサポーター」「カーナビタイムfor Smartphone」。対象期間は2014年と2015年の3~7月だ。

 「2015年目的地ランキング福島県TOP10」の1位はスパリゾートハワイアンズで、前年比で19%経路検索が増えた。また、宮城県(検索増加率79%)や岩手県(同129%)からの検索が大幅に増えたことが判明した。「スパリゾートハワイアンズとしては、福島県(37%増)はもとより、宮城県や岩手県からの旅行客を対象にした集客戦略に生かすことができる」(ナビタイムジャパン交通コンサルティング事業の太田恒平チーフエンジニア)。

 物流の最適化にも車のビッグデータが効果を発揮する。

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