家庭にAIが入ってきた──ロボット掃除機に、AIエアコンやAIスピーカーなどの発売が続く。生活環境データはスマートホーム構築の礎となり、キラーアプリが待たれる。

 家庭にも人工知能(AI)が本格的に入ってくる。AI活用による家事の自動化だ。家事の負担を軽減し、外で働ける時間を増やしてくれる。

人工知能(AI)を搭載したパナソニックのロボット掃除機「ルーロ」の新機種。走行した軌跡をマッピングして間取りとゴミの多いところを学習する
人工知能(AI)を搭載したパナソニックのロボット掃除機「ルーロ」の新機種。走行した軌跡をマッピングして間取りとゴミの多いところを学習する

 既にロボット掃除機が自動で家の床をキレイにしてくれるが、10月下旬にはパナソニックがAI技術を搭載したロボット掃除機「ルーロ」の新機種「MC-RS800」を投入する。掃除時間は、実に従来機種に比べて約50%短縮する。

 決め手になるのは、AI「RULO AI8.0」だ。新たに搭載したカメラセンサーを用いて自己位置推定と地図作成を同時に行うSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術によって自己位置を認識し、走行した軌跡をマッピングすることで部屋の間取りを学習する。ゴミの多い外周(壁際、隅)からしっかり掃除するラウンド走行からスタートし、その後に内側を塗りつぶすように、ルート走行を行う。

 「従来機種は自己位置が認識できないので、部屋全体を網羅するにはランダム走行しかなく、時間を要していた。今回のルート走行によって掃除時間が従来に比べて約50%短縮する」(パナソニック アプライアンス社ランドリー・クリーナー事業部商品企画部クリーナー商品企画課主務の川島抽里氏)。

ロボット掃除機でゴミマップ作成

 従来機種にも搭載されていたハウスダスト発見センサーと作成した部屋のマップの組み合わせによって、ゴミがたまりやすい場所が分かる「ゴミマップ」を作成する。掃除終了後にスマートフォン向けの専用アプリ「RULOナビ」でゴミマップを見ることができる。

 下の写真は、スマートフォンに表示されたゴミ累計マップだ。その下のグラフは、掃除1回ごとのゴミの量を示している。右端の「09/02」は9月2日を意味している。棒グラフ1本は1回の掃除を示す。具体的にはロボット掃除機が掃除を開始して充電台(ステーション)に戻るまでを1回と数えている。

 パナソニックは今回、従来の赤外線と超音波のセンサーに加えてレーザーセンサーを新たに搭載した。これによって約2cmの幅の細い椅子の脚まで認識できるようになり、細い椅子の脚の際までしっかり掃除することができる。

パナソニックのロボット掃除機専用アプリで、 ゴミがたまりやすい場所が把握できる
パナソニックのロボット掃除機専用アプリで、 ゴミがたまりやすい場所が把握できる

 「カメラセンサーやレーザーセンサーを搭載することによって本来の掃除力を高めたうえで、掃除の時間を約50%短縮させた。ロボット掃除機に対するアンケート結果では、確実に掃除をしてくれるかというベーシックなところが気になることとして挙げられていた」

 2015年にパナソニックが実施したアンケートでは、購入前に気になることは「どの程度ゴミが取れるか」(1位)、「部屋のすみの掃除ができるか」(2位)、「ゴミ捨てやお手入れが面倒でないか」(3位)が上位となった。

 川島氏は「当社は昔から掃除機を作ってきた。ロボット掃除機にも、これまでキャニスター型掃除機で培ったノウハウが生かされている」と強調する。ゴミを吸い込むメーンブラシには、キャニスター型掃除機と同仕様のブラシを使用。サイドブラシで掻き集めたゴミを確実に吸い込むことが可能となっているという。

AIで体感温度を予測するエアコン

 AIの活用は、ロボット掃除機だけではない。三菱電機は、機械学習によって少し先の体感温度を予測して、利用者が不快になることを防ぐ運転ができるエアコンを開発した。

 3分後から30分後の体感温度を予測する赤外線センサー「ムーブアイmirA.I.(ミライ)」を搭載するのは、「霧ヶ峰FZシリーズ」と「同Zシリーズ」の計18機種。11月上旬から順次発売する。

 体感温度の予測に必要なのは、現在の体感温度、室外環境(外気温・日射)の変化、住宅性能(室温に影響する性能)の3要素だ。具体的には、現在の体感温度、室温、外気温、日射熱の影響があるかどうか、エアコンのパワーといったデータを取得する。

 各データは1秒以内のリアルタイムに取得し、約1分ごとに分析している。エアコン接地面(壁)の温度や窓からの輻射熱の影響などを360度センシングできる。人が窓近くにいるかどうかで体感温度は変わってくる。

 三菱電機静岡製作所ルームエアコン製造部技術第一課専任の中川英知氏は「住宅性能を決めるのは、主に断熱性と気密性。2枚の断熱ガラスを使っている家と、1枚ガラスしか使っていない家とでは、断熱性が違う。隙間がある部屋なのか、そうでないのかも住宅性能に影響する」と話す。

設置後1週間で住宅性能を把握

 エアコンを設置して約1週間、その家の住宅性能を学習する。「外気温が何度の時、設定温度を維持するのにエアコンの空調パワーをどのくらい使っているのかを機械学習アルゴリズムが学習する。1週間後にその家の住宅性能を把握できるようになる。その後も学習を継続し、アップデートしていく」(中川氏)という仕組みだ。

三菱電機のエアコンは少し先の体感温度を予測して、先回りで運転状況を変更する
三菱電機のエアコンは少し先の体感温度を予測して、先回りで運転状況を変更する

 その結果、体感温度を先読みしてエアコンの運転を切り替えることによって快適な状態を維持していく。これまでは不快な状態になってから運転が切り替わり、対応が後追いになっていた。

 三菱電機静岡製作所営業部ルームエアコン販売企画グループの黒飛早絵氏は、「AIで少し先の体感温度を予測することでエアコンの無駄な動きが減り、省エネ性能も向上した。当社が目指す『快適』と『省エネ』の両立も実現した」と説明する。

 同エアコンの開発に至ったきっかけは、2016年3月に三菱電機が実施したアンケート結果だった。設定温度や風向き/風速の変更について、「よくする」が17%、「たまにする」が49%で合計66%と高かった。エアコンで温度を変更する回数は平均1日3回。その数字から「快適が維持できず不快」な思いをしている実態が浮き彫りになったのだ。

クラウドにつながるAI家電

 このAI家電分野で先行してきた国内メーカーの1社がシャープだ。

 AIによって料理レシピを薦める電子調理器「ヘルシオAX-XW400」。音声対話で献立の相談に乗ってくれる。「何を作ろう?」「急いでできるものを教えて」といった漠然とした相談でも、家族の好みや旬の食材を使ったお薦め料理をAIが判断する。

 また、AI対応冷蔵庫も発売済み。購入済み食材からお薦めの料理を提案することもできる。

 音声応答によってアドバイスしてくれるAI洗濯乾燥機もある。「久しぶりのお洗濯ですね」「洗濯物がたまっていませんか」「洗濯物の量が多いときは洗濯キャップを使ってくださいね」と声をかける。シャープIoT通信事業本部IoTクラウド事業部プロダクトマーケティング部部長の中田尋経氏は次のように話す。

 「例えば、天気が悪いときに、たまたま洗濯乾燥機を回す必要になったお父さんに向かって『今日の洗濯指数は10。1日乾かないかも。シワが気にならない衣類は、乾燥運転を使えば、早く乾くよ』と洗濯乾燥機がアドバイスしてくれる」

モノの人工知能化AI×IoT=AIoT

 シャープが目指すビジョンが「モノの人工知能化 AI×IoT=AIoT」だ。家電をクラウドに接続してAI化して、もっと人に寄り添う存在になることを目指す。中田氏はAIoTの必要性についてこう解説する。

 「これからの家電は、お客の暮らしの習慣や好みを理解して学び、暮らしに気の利いた提案や働きをする役割を担うようになる。だからクラウドのAI(知恵)と情報(知識)を使う。その賢さを分かりやすく人に伝えることが重要。動作の経緯をお客に音声で伝えることで安心感を生む。その結果、家電はともだちのように親しみがわく存在になる。そのためにクラウドの音声対話(認識・発話)を使う」

 さらに将来像については、「今後、AIoTが進化していくと、エアコンをつけるだけで天候情報と洗濯機の状況を読み、『部屋干しモードがあります。切り替えますか』と気付かせてくれるようになる。いちいちリモコンを捜す手間なく、『お願い』と言うだけで部屋干しモードに切り替えるといったことが実現できるようになる」(中田氏)と言う。

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