世界最大の総合建機メーカーである米キャタピラーがデジタル変革に挑んでいる。特集の最終回はオーストラリアで進む、情報化施工の近未来の姿から紹介したい。

 オーストラリアでは、情報化施工の普及が日本よりも進んでいる。

 「土工の生産性を大幅に高めることができた。例えば、作業の手直しがなくなり、施工のスピードが上がった。従来よりも早く作業を終えることができるようになった」

 オーストラリア・メルボルン市に本社を置く建設会社、マックス・ブライト&サンズ マネイジングディレクターのグレン・ブライト氏はこう話す。下の写真は、同社が手掛けるメルボルン水道局の貯水池の堤防盛り土工事現場。土工の生産性を大幅に高めることができたのは、米キャタピラー製やコマツ製の3D建機を導入して情報化施工を取り入れたためだった。

マックス・ブライト&サンズが手掛けるメルボルン水道局の貯水池の堤防盛り土工事
マックス・ブライト&サンズが手掛けるメルボルン水道局の貯水池の堤防盛り土工事

施行の証拠を3Dデータで提出

 ブライト氏は「3D建機を導入する前は、測量と丁張りを作る作業に時間とコストがかかっていた。作業現場は、傾いた地形もあったり、崖だったりと測量や丁張りはかなり複雑な作業だった。施工の作業でも、どこまで掘ったか、オペレーターがわざわざ建機から降りてチェックしなければならなかった。3D建機による情報化施工によって、降りなくても、コックピットの表示画面で一目瞭然になった」と話す。

 ブライト氏は続ける。

 「低地に池を作る際には、いろいろな層を作る。何回かの施工によって何段階かで仕上げの高さにする。3Dデータだけで様々な高さの施工を積み重ねていくことができる。最終的に設計通りに何層にわたって掘ったかを、証拠として3Dデータを元請けや施主に見せられる」

 マックス・ブライト&サンズでは、大きな工事だけでなく、小さな工事でも3D建機を使っている。ブライト氏は「今まで抱えていた課題はほとんど解決した」と絶賛する。

 なぜ3D建機で生産性を高めようとしているのか、日本とは背景が異なるようだ。日本は高齢化が進み、10年後には建設現場で働く作業員が3分の2に減ると言われている。

 オーストラリアの場合は、移民を受け入れていることもあって、人口は増えている。「少しだけ高齢化の問題はあるが、若い人も雇えている」(ブライト氏)と言う。

 しかし、「国土は北米大陸並みに広いにもかかわらず、人口が2100万人しかいない。しかも約7割が東部に住んでいる。こうした条件の中でインフラを整備するには、データ活用は欠かせない」とポロック上級役員は強調する。

 しかも、決定的な問題がある。建機オペレーターの給料が高いことだ。実に「日本の2倍」(ポロック上級役員)。だから3D建機の導入を積極的に進めて、オペレーターの負担を軽くして働く時間を減らすことに注力してきたのだ。

 こうした顧客の抱える課題に、キャタピラーは3D建機やビジョンリンクによって応えてきた。その結果、ほかの国よりも3D建機の導入が早かったというわけだ。「工期が短縮されれば、元請けや施主にも喜ばれ、評判が口コミで伝わる。次の仕事を取るうえで他社との差別化になる」(キャタピラー・オーストラリア コンストラクション・デジタル&テクノロジのシステム・アプリケーション・スペシャリストのクリストファー・バレット氏)。

他社建機の機械管理も実現

 さて、日本よりもさらに進んでいるのは、マックス・ブライトのように、キャタピラーやコマツという異なる会社の3D建機をビジョンリンクで機械管理している点だ。バレット氏はこう解説する。

 「世界で40万台の建機がネットワークでつながっているビジョンリンクは、他社の建機のデータを取り入れて一緒に管理する初めてのプラットフォーム。キャタピラーは他社よりもリードしている」

 キャタピラージャパンの松村ICT担当部長によれば、他社の建機も含めて1つの画面で位置や稼働のデータを見られるようにするやり方はいくつかあるという。1つは、発信器を統一するやり方だ。例えば、ビジョンリンクの画面で見られるようにするには、トリンブル製の発信器を装着すればいい。マックス・ブライトは、コマツの3D建機にトリンブル製発信器を装着している。

 もう1つは、位置や稼働のデータを統一する方法だ。米国では業界団体のAEMP(Association of Equipment Management Professionals)が、位置や時間、燃費など11項目の基本的なデータについては統一した規格を策定している。項目数を増やす動きもある。ちょうど2カ月ほど前に、そのAEMP規格がISO(国際標準化機構)に格上げされた。建機関連のデータの標準化が進む流れができてきたが、キャタピラーはいち早く統一規格に対応し、顧客の利便性を高めてきた。

アプリを顧客や第三者が開発

 キャタピラーは「デジタル・プラットフォーム」に関するアニメーションビデオを作成し、全世界の社員に見せている。デジタル・プラットフォームとは、「データをかみ砕き、役に立つ情報に置き換え、顧客とキャタピラーの業績を上げるための提案をする、デジタル・ソリューション」だ。「大きなジョウゴのようなもので、取り入れたデータを混合し、解読し、分かりやすい形で次のアクションを提案するもの」

キャタピラーが目指す「デジタル・プラットフォーム」のイメージイラスト<br>出所:キャタピラー
キャタピラーが目指す「デジタル・プラットフォーム」のイメージイラスト
出所:キャタピラー

 まずはプラットフォームの基盤「CONNECTIVITY」を構築。この基盤は、キャタピラー製、他社製に関わらず3D建機などすべての機器からのデータ、世界中のディーラーからのデータを呼び込む。それらのデータを統一するための通訳に相当する変換器「SYMPHONY」を基盤の上に載せる。次に統一したデータを蓄積するスペース「DATA LAKE」を3層目に構築してビジネスに役立つ情報を優先提示するように調整する役割を持つ。

 さらに統一したデータを役立つ情報に変換して多くの関係部署と共有可能にする。顧客が探す情報へと瞬時にたどり着ける「SERVICES」を4層目に構築。そして、そうした情報を様々な形で活用できるようにするアプリ=「APPLICATIONS」が5層目に載る。

 6層目には、「CUSTOMMER HUB」が載る。1カ所からすべてのデータにアクセスでき、キャタピラーや顧客企業自身、第三者の企業が開発したアプリケーションにアクセスするのもここからになる。

 イノベーションを迅速に進めるためのツールボックスも用意。ディーラーや顧客がキャタピラーのアプリ作成に参加できるという。これら6層が積み重なったとき、キャタピラーが目指すデジタル・プラットフォームが完成する。

 この新しいプラットフォームのおかげで顧客はどこにいても、使い慣れたデバイスで必要な情報を入手でき、今何をするべきなのか、正確に判断を下せるようになる。顧客の業績向上に役立つ。ディーラーもデータの活用で顧客に様々なサポートを提供できるようになる。

 キャタピラーも、顧客のデータを活用して新しい建機を開発できるようになり、製品の生産性向上を図ることができるようになる。デジタル・プラットフォームの開発によるデータ共有は、機械やエンジンを遥かに超えるサービス提供につながる。

 このビデオを見ていると、先端を走るICT企業のように映る。最近、建機などのハードウエアを作る能力はないが、ICTに強いサードパーティーが建機プラットフォームを提供する動きがあり、キャタピラーが危機感を抱いている。彼らがディファクトスタンダードを握る前に、最強のプラットフォームを構築して顧客を囲い込めるかどうか──新しいデジタル技術を持つ企業と積極的な連携を取りながら、キャタピラーのデジタル変革は加速していく。

この記事をいいね!する