世界最大の総合建機メーカーである米キャタピラーがデジタル変革に挑んでいる。特集の第2回は、建設現場で浸透する情報化施工のメリットと、キャタピラーのデジタル投資への姿勢について解説する。

 こうした「情報化施工」のメリットをまとめよう(下図)。これまで述べてきたように、情報化施工のメリットの1つは生産性向上にある。ただ、それだけではない。操作が少なくなり、緊張を強いられる場面が減るために、オペレーターの疲労が大幅に低減される。また、従来の施工法に比べ、仕上がりの精度が大幅に向上する。常に測定をしながら施工するために、現場全体で品質が向上する。

CAT CONNECT(グローバル版)の概要
CAT CONNECT(グローバル版)の概要

 さらに正確な施工によって機械の稼働時間が短くなるため、燃料費と機械部品の摩耗が低減される。丁張りと検測の作業が不要なため、その分の人件費を抑えることができる。そして安全性が向上する。機械の周りの危険な場所に検測作業員が立ち入らずに済むために、作業員と機械の接触事故を防止できるからだ。

 さて、あらためてキャタピラーのCAT CONNECTについて説明しよう。3D建機などのICT建機と世界で40万台の建機がネットワークでつながっているビジョンリンクで実現するソリューションだ。ビジョンリンクで現場の全施工データ(測量、設計、車両)から3D建機などのICT建機の稼働データまで一元管理が可能。3D建機との双方向通信によって、オフィスにいながら作業効率と現場の安全性を高めることができる。

 グローバルで展開しているCAT CONNECTは、機械管理、生産性、安全性、持続性の4つの領域をカバーする(下図)。このうち国内では、生産性の項目の中でi-Constructionを意識して、生産性を高める施工管理をクローズアップして顧客に説明している。勘や経験に頼った従来の施工から脱却し、情報化施工を推奨。省人化や熟練作業員の不足への解決策を提示する。

情報化施工がもたらす6つのメリット
情報化施工がもたらす6つのメリット

 キャタピラーアジア・太平洋地域上級役員・マーケティング・販売担当のフィリップ・ポロック氏は、「CAT CONNECTを使っていただければ、競合よりも優れていることが実感できる」と自信たっぷりに話す。キャタピラーはi-Constructionへの対応にとどまることなく、データ分析による顧客へのサポートも強化している。

データ分析に長けたアドバイザー

 日本キャタピラーは昨年11月、埼玉県秩父市にある秩父ビジターセンター内に、コンディションモニタリングセンターを設置した。データ分析に長けたアドバイザー職をつくり、機械管理に関して顧客のサポートを強化するようになったのだ。アドバイザーは現在5人。そのうち2人がセンターに常駐している。

 ビジョンリンクのデータを見て、機械の位置や稼働状況、コンディションなどを監視している(下の写真)。さらに、建機のエンジンオイルや冷却水などの分析、機械の点検、修理履歴データのチェックのほか、建機が使われている現場などに出かけていって、オペレーターに対して運転の指導なども行う。そのときは、プロのオペレーターが同行する。

埼玉県秩父市にあるコンディションモニタリングセンター
埼玉県秩父市にあるコンディションモニタリングセンター

 特別にサポート契約を結んでいる顧客に対しては、アドバイザーが定期的にレポートを作成して様々な改善提案をする。従来に比べて機械が複雑になり、収集できるデータが多くなったため、顧客に対してより分かりやすく適切な管理のやり方やメンテナンスの方法などアドバイスしているという。

 「i-Construction対応の3D建機は極度な負荷がかかっていないことや、効率良く使えば燃費が良くなることが分かった。無駄な使い方がなくなり、施工時間が短くなる。修理も、3カ月に1度から半年に1回に減った。1週間の工期が4日で終われば、機械にも人にも優しい。環境にも良い」と、アドバイザーの1人である、キャタピラーイーストジャパンのプロダクトサポート事業部カスタマーソリューショングループの鷲見豊主務は話す。

リストラでもデジタルには投資

 1925年設立のキャタピラーはグローバルで「建機の歴史」を作ってきた老舗企業だ。同社が三菱重工業と合弁でキャタピラー三菱を設立したのは62年。87年には三菱重工・明石製作所の後身と合弁して、新キャタピラー三菱として新たにスタート。以来、国内2カ所の生産拠点(兵庫県明石市と神奈川県相模原市)で、油圧ショベルやブルドーザー、トラクターなどを生産し、販売してきた。2008年、社名が現在のキャタピラージャパンに変わり、2012年以降、キャタピラー本社が単独で所有し、今日に至っている。

 これまでキャタピラーは、データ活用などデジタル技術に関してどの程度進んでいるのか、あまり報じられてこなかった。しかし、「1990年後半から建機の位置などのデータを収集して活用してきた。ここ数年はかなり積極的にデータを活用し、機械管理だけでなく生産性などもみることができるようになった」と、ポロック上級役員はデータ活用先進企業であることを強くアピールする。

 その一方でキャタピラーは業績不振に苦しんでいるのも事実。いまだに世界最大の建機メーカーに変わりないが、ここ数年売上高が大幅な減少に転じている。2015年の売上高は470億1100万ドルと、2014年に比べて約15%落としている。2016年の見通しも悪く、「400億~405億ドルの間と予測している」(2016年第2四半期決算での発表)。資源価格の下落基調の継続と新興国経済の低迷によるものだ。2016年下期には追加人員削減も予定されている。

 キャタピラーはここ数年、「大規模な事業再構築策を実施しコストを引き下げて厳しい状況を乗り切ろうとする一方で、R&Dとデジタル技術への大規模な投資は継続している。これらの投資によって車両や作業場所が相互につながり、またデータや予測分析へのアクセスが可能になり、キャタピラーと顧客にプラスの影響をもたらす」(2015年決算発表資料)と発表している。

 建機の巨人、キャタピラーはデジタル化を加速することで、課題を解決するソリューションを広く深く提供するように舵を切っている。どんなゴールを目指しているのか。その答のヒントになる取り組みが、オーストラリアで展開されている。

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