世界最大の総合建機メーカーである米キャタピラーがデジタル変革に挑んでいる。あらゆる顧客の課題を解決する、最強のデジタルプラットフォーム構築を目指す。

中堅ゼネコン、水谷建設が手掛ける神奈川県厚木市の工事現場。3D対応の油圧ショベルで整形作業を行っている。丁張りは不要に
中堅ゼネコン、水谷建設が手掛ける神奈川県厚木市の工事現場。3D対応の油圧ショベルで整形作業を行っている。丁張りは不要に

 「これまで6日かかっていた宅地造成などで実施する整形の作業が4日でできるようになった。大幅な工期短縮であり、生産性向上を実感できた」。こう話すのは、中堅ゼネコン水谷建設(三重県桑名市)事業本部施工計画部ICT施工推進室の加藤純二所長代理だ。そのカギを握るのが「3D建機」でのデータ活用だ。

 水谷建設は建設機械を使って工事をする施工業者だが、今年1月から神奈川県厚木市にある住宅地と工業団地の造成工事に、3D(3次元)対応にアップグレードした中型油圧ショベルを1台導入している(上の写真)。米キャタピラー製「320E」だ。冒頭の発言は、実際に使った効果に関する率直な感想だ。

 3D対応の建設機械(3D建機)は、3Dの設計データを取り込んでいる。そのため、どのくらい掘ったらいいか、削ったらいいか、建機自身が把握している。通常は、木の杭と糸を使って工事すべき箇所を指し示す丁張りが不可欠だが、3D建機の場合は不要になる。

 運転席のモニターに、どこまで削ったらいいかを表示するマシンガイダンス機能があり、オペレーターはそれに従い操作すればいい。マシンコントロール機能を使うと、設計面まで達すると機械が動かなくなる。建機版の半自動運転車とも言える。しかも、作業をしながら掘削した範囲を測量できる。そのために整形などの土木工事(土工)が終わった後に、あらためて測量する必要はない。また測量の結果、NGだった場合の手直し作業もなくなる。

あえてキャタピラーを選んだ理由

 3D建機に関しては、国内ではコマツの存在感が際立っている。同社は昨年2月、「スマートコンストラクション」というコンセプトのソリューションを発表。工事現場と施工の見える化によって作業効率を一気に改善する課題解決策として、建機や建材を賃貸する全額出資子会社のコマツレンタルが主体となって提供している。

 例えば、2人の作業員なら多くても1日数十ポイントしか計測できなかった測量が、ドローンによってわずか10~15分で数百万ポイントを計測できる。測量撮影データをサーバーに転送し、1日以内で現場の3Dデータが自動生成される。精度±数cm以内と現場の状況を精緻に反映できるなど、工事現場に大きなインパクトを与えると注目されている。

 施工完成図面から施工完成形の3Dデータを作成。現況の3Dデータとの差分を取れば、施工すべき範囲・形・土量を正確に把握できる。施工データは3D建機に送信され、現場はすぐに施工の開始が可能になった。3D建機には熟練オペレーターのノウハウも数値化して提供しているので、初心者でも熟練者並みの仕事ができてしまうという。

 実は水谷建設も以前、コマツレンタルから声をかけられたが、断っていた。理由は「ドローンなどによる現況の測量から現場の3Dデータの作成までコマツレンタルに丸投げしなければならず、3Dデータに関する処理技術を身につけることができないと判断した」(加藤所長代理)からだ。

 そうこうするうちに、国土交通省がまず土工について、調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新まですべての建設生産プロセスにおいて3Dデータを使って生産性を向上させる施策「i-Construction」を打ち出し、2015年11月に構想を発表した。3億円以上の公共事業ではi-Constructionを義務づけ、それ以下の工事でもi-Constructionを推奨するようになった。

 これまでの土工は、測量から設計、施工、検査、維持管理・更新までのプロセスのうち、3Dデータを使っていないのは施工だけだった。ただ実際には、発注・納品が2Dだったことで、情報化施工を行うために2Dの設計図を3Dに作り直し、再び検査を2Dで行う、あべこべの事態が起こり、情報化施工の普及が進まない一因になっていた。これを解消するために、国交省はi-Constructionで3D図面の発注・納品をうたっている。

 いずれにしろ、3Dデータによる情報化施工を推進するために、コマツはスマートコンストラクションを打ち出したのだが、キャタピラーは対応するソリューションとして「CAT CONNECT」を2013年から世界で展開している。

3Dデータのクラウドを提供

 キャタピラーは3Dデータの取り扱いに関して、コマツとは違うスタンスをとっている。3Dデータは顧客の工事品質に関わるため、顧客が手がけるのが基本と考えている。ただ、キャタピラーは顧客の支援を徹底して行っている。「顧客が求めることに応えていくためにデータ活用の様々なソリューションを揃えている」と、キャタピラーの日本法人であるキャタピラージャパン コンストラクション デジタル&テクノロジの松村秀雄ICT担当部長は話す。

 顧客の要望に対して柔軟に応えられるように、3D建機はもとより、3Dデータに関するソフトウエアやクラウド環境といったデジタル技術を必要に応じて提供し、支援できる体制を敷いている。3Dデータに関する技術を社内に蓄積したい水谷建設は、コマツレンタルよりもキャタピラーと組む方が得策だと考えた。

 水谷建設は、キャタピラーが提携している米トリンブルのテレマティクス「ビジョンリンク」の画面で、厚木市で3D建機による作業の進捗状況を、三重県桑名市の本社で監視している(下の写真)。施工対象の地域には色が付く。その中でも、設計図面通りの高さに仕上がった場所と、油圧シャベルで土砂などをすくうバケットが通っていない、つまり施工していない場所は、色の濃さが異なっており、進捗が一目で分かるようになっている。

ビジョンリンクによって、進捗状況が正確に把握できる(厚木市の工事現場)
ビジョンリンクによって、進捗状況が正確に把握できる(厚木市の工事現場)

 3D建機はGPS(全地球測位システム)を搭載しているため、油圧シャベルのバケットの軌跡が把握できる。「1秒ごとのバケットの位置(xyz=3次元)データを蓄積している。だから、日にちを指定すると、その日のバケットの軌跡が分かる。仕事の状況をモニタリングできる」(水谷建設の加藤所長代理)と言う。

 2016年9月1日、水谷建設は事業本部施工計画部に、ICT施工推進室を設置。「今後キャタピラーの3D建機を増やしていく」と宮嶋賢二・ICT施工推進室長は話す。

 さらに「2カ月に1回社員教育を実施して、3D建機だけでなく3Dデータの取り扱いについても教える。情報化施工を担える人材を育ててi-Constructionに対応する土工の受注を増やしていきたい」(加藤所長代理)。そのためにキャタピラージャパンや販売店のキャタピラーウエストジャパンが様々な支援に動く。

 キャタピラージャパンとしても、「3D建機に関する使い勝手を随時ヒアリングして改良を重ねて、情報化施工の推進に貢献していきたい」と、松村ICT担当部長は話す。

この記事をいいね!する