医師向けの医療用画像の診断支援サービス「ヒポクラ」を手がけるエクスメディオ(高知市)は、人工知能(AI)を活用した論文の無料の検索サービスを今年7月末に開始した。特定の単語が含まれる論文を検索するのではなく、質問者が知りたい内容を推測して候補となる論文を提示する。

「Bibgraph」を、ヒポクラの利用者向けに提供を始めた。今泉英明取締役最高技術責任者CTO&Co-Founderは「知りたい内容をどのようにクエリーとして入力するのかを厳密に考えなくていいので、より手軽に疑問を解決できるようになった」と利点を説明する。
例えば、「花粉症に対して点鼻のステロイドって即効性はあるのでしょうか?やはり数日間は点鼻の抗ヒスタミンを併用した方が良いのでしょうか?」や、「昼夜逆転に対してロゼレム(不眠症の治療薬)の使用は効果があるのでしょうか?」といった話し言葉の質問に対して、適切な論文を提示できる。症例が希少で日本語での報告が少ないような病気について適切な論文を提示できた例もあるという。
米国の国立医学図書館の医学・生物分野の論文データベースである「PubMed」の文書を、「Word2Vec」と呼ぶ機械学習の手法で自然言語処理し、単語をベクトル化して論文に使われる単語の類似度を把握。「質問文」「期間」「対象論文の種類」の3つを指定すると、論文のタイトルとアブストラクト(概要)を表示。概要はグーグル翻訳を利用して日本語も表示する。
医療分野以外の掲示板も学習
PubMedの論文は基本的に英文のため、日本語の質問でも適切な検索ができるようにいくつかの工夫を行った。例えば、医療用語は日本と海外で異なる場合があるため、日本語から英語へのマッピングルールを追加した。また、「柔軟な質問を理解させるため、医療論文だけでなく他の分野の質問掲示板の情報も学習データに含めた」(今泉CTO)と話す。
これらについてAIが提示した論文が質問にマッチしているかどうか、ユーザーに評価をしてもらっている段階だ。例えば、タイトルと概要のどちらをどの程度重視すべきか、質問の中でどの単語が重要なキーワードとなるのかといった点である。
ヒポクラは皮膚科や眼科の専門医がそれ以外の専門の医師に対して診断の支援を行ったり、医師同士が情報を交換したりするサービスだ。エクスメディオは補助金や寄付を基に無料で提供しているが、十分に匿名化した医療情報の病院や製薬会社、医療機器メーカーなどへの販売を始めている。収集した画像などのデータは、深層学習(ディープラーニング)に基づく自動診断技術の開発に活用したい考えだ。ただし「医師に対して参考情報として提示するには、医療機器としての認証を受ける必要があると考えている」(同社)との段階だ。