データ分析の専門部署を設置する企業が出始めたが、その業務内容やミッションは確立されているわけではない。国内だけでなく世界でもビッグデータ活用の先頭グループに位置する、ソフトバンクとリクルートのビッグデータ専門組織のトップが議論を繰り広げた。

 パネリストとして登壇したのは、ソフトバンク ビッグデータ戦略本部本部長代行の柴山和久氏とリクルートテクノロジーズ専門役員の西郷彰氏の2人。モデレータは、データ分析の専門企業であるブレインパッドの代表取締役である草野隆史氏が務めた。同氏は、データサイエンティスト協会の代表理事も務めている。

ビッグデータ専門組織は4種類

 草野氏は冒頭、ビッグデータ専門組織は主として、(1)専門組織型、(2)事業部門型、(3)専門組織+事業部門型、(4)システム部門型--の4種であると、日経ビッグデータの分類を基に解説した。

ブレインパッドの代表取締役、データサイエンティスト協会代表理事の草野隆史氏(左)
ブレインパッドの代表取締役、データサイエンティスト協会代表理事の草野隆史氏(左)

 そのうえで、パネリストが率いるビッグデータ専門組織が、どのような役割を担っており、どのような経緯で組織が立ち上げられたのかを聞いた。

 2人のパネリストはともに自らの組織は専門組織型に分類されると回答した。ソフトバンクの柴山氏が属するビッグデータ戦略本部はもともとネットワークを改善するため基地局のKPI(重要業績評価指標)を分析する情報企画統括部という組織だった。現在のビッグデータ戦略本部は、蓄積したノウハウやデータを使ってIoT(Internet of Things)活用の新事業を企画開発するため今年6月に改編されたものだ。

 西郷氏が在籍するリクルートテクノロジーズは、リクルートホールディングスのグループ内でITに関する組織を集めた機能会社である。その中にビッグデータ分析を担う専門部隊を組織している。このビッグデータ専門組織がグループ企業のマーケターやサイトの企画や開発者と協働しながら、さまざまなプロジェクトを推進している。

AIなど先端技術で現場の課題を解決する

 モデレータの草野氏は、「ビッグデータ専門組織の仕事は企業によって異なるし、まだ地位や位置付けが確立されたわけではない」として、どのようなミッションの下でどんな業務に取り組んでいるのかを尋ねた。

リクルートテクノロジーズ専門役員の西郷彰氏
リクルートテクノロジーズ専門役員の西郷彰氏

 これに対してリクルートの西郷氏は、自らが率いるビッグデータ専門組織のミッションを「グループ各社の競争優位性を強化すること」として、具体的な取り組みの例を説明した。

 リクルートのグループでは転職の紹介や斡旋のビジネスに取り組んでいる。こうしたビジネスでは、転職を希望する人との調整や仲介を担う第三者が介在する。大量の希望者がいる場合には、このプロセスにおける人手による作業がボトルネックになり、売り上げの向上を阻んでいた。

 そこで約2年前から、そうしたビジネスの現場の仕事を人工知能(AI)などの先端技術で機械に置き換える取り組みを始めたという。

 この結果、人手が必要な仕事の一部をITで代替できるようになり、「売り上げが目に見えて伸びた」(西郷氏)。従来はレコメンデーションなどの仕組みを開発する仕事が多かったが、現在は「人工知能的なものにシフトしている」(同)という。

必要なデータがなければつくり出す

 柴山氏は、ソフトバンクのビッグデータ分析組織について、「システムを構築し、基盤データを集め、これを分析するという3つの軸で組織をつくっている」と説明した。

ソフトバンク ビッグデータ戦略本部本部長代行の柴山和久氏
ソフトバンク ビッグデータ戦略本部本部長代行の柴山和久氏

 ソフトバンクでは、ネットワーク回線の品質を改善するため基地局に関する多くのKPIを収集し分析を行っていたという。しかし分析結果に基づいて施策を打っても、あまり効果に結びつかなかった経緯がある。

 そこで実際にユーザーがサービスを利用できているのかどうかのユーザーエクスペリエンスに関する指標を取得できる仕組みを開発し、2011年ごろから分析を始めた。

 柴山氏が代表取締役を務めるグループのデータ分析会社Agoop(東京都港区)が許可を得たユーザーのデータを収集する仕組みを作って分析した結果、「基地局のKPIよりも詳細な状況が分かり、適切な施策が打てるようになった」(柴山氏)という。基地局のKPIは回線がつながった人の状況しか分からなかったが、端末まで対象にすることでつながらなかった人の状況を把握できるようになったのだ。一見、正しそうなKPIだと思っていても「実はそうでないケースが少なくない」(同)。

 こうした取り組みから、柴山氏は「必要なのに世の中に存在していないようなデータは、自分たちでつくり出す。そうしないと正しい分析はできない」と強調する。Agoopの情報は人の動きを示す人流データとしても活用しており、国勢調査による人口統計などでは不可能だった時間帯別の推定人口密度などの状況が把握できるようになった。

 最後にモデレータの草野氏が「専門組織の立ち上げにはハードルがあるが、それに見合ったアドバンテージがあることを分かっていただけたのではないか」と述べ、「データが差異化を生み出す時代と言われているが、専門組織があるからこそ必要な投資をして、先駆けて取り組めることがある」と締めくくった。

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