「BigData Conference 2015 Autumn」1日目のセッション「自動車のIoT化が他業界のビジネスを変える~デジタルトランスフォーメーション~」では、タイムズ24タイムズカー プラス事業部 部長の内津基治氏、損害保険ジャパン日本興亜(損保ジャパン) 自動車業務部長の梅本武文氏が登壇。両社が提供する自動車×IoTサービスの開発背景や現状について語った。モデレーターは一橋大学教授 神岡太郎氏が務めた。
タイムズ24のカーシェアリングサービス「タイムズカープラス」。街中や商業施設にあるタイムズ駐車場のうち約7200カ所にある車両を、24時間365日予約・利用できる利便性が受け、今や会員数50万人のサービスに成長した。
「約1万3000台配置した車全てと通信し、全国のタイムズ駐車場と情報センターをオンラインで結ぶシステム『TONIC(Times Online & Network Information Center)』にデータを集めている。速度やエンジン、ドア、キーの状態、ガソリン残量などのデータを車から受け、会員予約データやハザード点灯などのデータを車に入れる。データのレシーブとプッシュを日々行っている」(内津氏)。
同サービスに入会するには、免許証とクレジットカードとメールアドレスの3つの個人情報が必須となる。これらは利用した車とひも付けられるため、タイムズ24側では誰がどの車でどこへ行ったか、リアルタイムで把握している。
そうして蓄積したデータを用いて「ミヂカ、オトク、ベンリをサービスコンセプトとして掲げ、(駐車場がある商業)施設オーナーも顧客も喜ぶサービスを展開すると同時に、収益力を上げる施策を行っている」と内津氏は語る。
商業施設に一定時間駐車すると顧客が特典をもらえる集客施策は、双方がWin-Winになれる送客サービスだろう。顧客により使いやすいサービスだと感じてもらうために、パネルでワンタッチすれば利用時間の延長申請が可能になるなど、改善を続けている。
保険会社だから提供できる安全運転支援
3月から企業向け安全運転支援サービス「スマイリングロード」を全国で提供する損保ジャパン。事故後に補償を提供するのが従来の損害保険会社だが、顧客に事故を未然に防いでもらおうと、同サービスを提供している。
開発の背景には、ASV(先進安全自動車)やコネクテッドカーの拡大など自動車の技術革新や少子高齢化による国内保険市場の縮小、保険会社がビッグデータを用いた取り組みを行う海外事例の増加などがあったと、梅本氏は振り返る。
「個人は1300万台、法人は300万台の自動車データを持っている。それらのデータと走行データと事故データとの相関性を見て分析することは、保険会社にしかできない」(梅本氏)。
同サービスでは、車に取り付けたドライブレコーダーから走行データをはじめとする各種データを収集。集めたビッグデータを解析し、ドライバーや管理者に対し、安全運転診断などの情報を提供する。
ドライバーの運転状況を見える化し、効率的で効果的な運転指導を支援し、管理者に代わりドライバーをほめて事故を減らすPDCAを回すサービスである。
データを使い顧客の行動を変える
IoTを用いた新たな挑戦をする裏で、当然苦労はあった。内津氏は「事業を始めたのは6年前で、当時『3年で黒字を目指す』と目標を掲げていたが未達に終わり、上に『もう1年続けたい』と頼み、ようやく5年目で黒字化に成功した」と、サービスの業績安定までの長い道のりを振り返る。
タイムズと比べると、自動車×IoT分野で後発の損保ジャパン。ビッグデータを活用するだけでは不十分で、顧客の行動変容を促すための仕組み作りを意識して、データを用いることの重要性を感じているという。
国としても自動車に関わる問題は大きなテーマだ。国土交通省では自動車局を設け、安全と利便性の高い交通システム、自動車の環境や安全対策の推進に向けて動いている。
神岡氏はそう説明した上で、「既存事業に危機感をおぼえている会社は山のようにある。山積する自動車の問題と自社サービスとをどう結び付け、ビジネスチャンスにつなげるのか見出し、最初の一歩を踏み出すことが重要だ」と締めくくった。