現在のRESASには、36種類ものメニューがあり、使いこなしが難しいとの声もある。そこで、人口・産業・観光分野の専門家が実際の分析事例を交えて、戦略を検討する際のポイントを解説した。
このセッションには、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局参事官の五十嵐智嘉子氏、東京大学工学系研究科教授の坂田一郎氏、経済産業省地域経済産業グループ調査企画官の山田雄一氏の3人が登壇した。自治体での分析事例を交えて、地域経済分析システム(RESAS)の活用ポイントを解説。司会進行は内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局の内田了司氏が担当した。
まち・ひと・しごと創生本部では2015年7月、自治体職員の地域分析に関する経験・ノウハウの共有化を図ることを目的に、RESASを活用した分析事例を公募した。この結果、自治体から30件、個人から5件の応募があった。このセッションでは、ここで集まった分析事例も紹介された。
人口・産業・観光の分析ポイントを解説
人口戦略の専門家である五十嵐氏は、自治体が人口戦略を検討する際のポイントを解説。過去から現在の人口推移と将来の推計を見える化した上で、対応策(経済対策や移住対策、出産・子育て支援対策など)と有効性を検証する方法を説明した。
具体例として、熊本県合志市の分析結果を紹介した。同市では、どの年齢の人がどこへ転出し、どこから転入してくるのかを分析。年齢階級別純移動数の時系列分析を行ったところ、男女ともに大学卒業時に転出超過となり、特に男性の転出が多いことが判明した。FROM-TO分析から、転入は県内近隣自治体からが多く、転出する先は福岡県と東京都が多いことが分かった。
ビッグデータを用いたイノベーションマネジメントを研究している坂田氏は、産業戦略を検討するポイントを解説。RESASには自治体全体、産業別、個別の企業・取引という3階層の集計機能があるが、この間を行き来して「木を見て森を見ず、あるいは森は見てるが木を見ていないという状況に陥らないようにすることが重要」だと指摘した。
大阪府堺市は、個別の企業間取引が把握できる産業マップを活用して、電子部品・デバイス・電子回路製造業の取引動向を分析。この結果、仕入れでは域内の取引が少なく、川上企業が集積している東京都と大阪府を中心とした取引が多いことが判明した。同市は、付加価値額が高い業種であることから、当該産業を強化・育成することで、資本蓄積や設備への再投資の創出が期待できると分析。当該業種の仕入れ企業と一体支援する施策が、経済活動と雇用創出の面で効果が高いと判断した。
観光政策の専門家である山田氏は、観光戦略を検討するポイントを解説した。同氏は、地域での観光振興の取り組みを強化する際には、「観光地マーケティング」という概念が重要だと指摘。マーケティングに関わる環境分析では、「3Cフレーム(地域・顧客・競合の分析)」という分析手法を活用するのが一般的だと説明した。
富山県高岡市では、自地域の動向を把握するために、2014年7月の休日における流動人口を500メートル単位で分析した。この結果、高岡古城公園などの地域風土に根ざした歴史的・文化的資産が観光の中心になっていることが分かった。そこで、今後は観光客をほかの歴史的・文化的資産に回遊させることで市内での滞留時間を増やし、環境収入を向上させることを課題だと位置付けた。
ビッグデータの組み合わせで無限の可能性
セッションの最後には、RESASを使いこなすポイントが解説された。具体的には、(1)異なるマップ(メニュー)のデータを組み合わせることで、重層的な分析が容易に実践できる、(2)「人口」「産業」「観光」の垣根を越えた分析を行うことで、本質的な地域活性化策の検討が可能になる、(3)多様なビッグデータの組み合わせで、政策立案やビジネスに無限の可能性が生まれてくる--という3つだ。