ホンダはブランド施策の検証システムを10月に試験導入し、来年から本格運用する。独自の構文解析技術を開発して、既存ツールに比べて意味理解の精度を高めた。

 「ホンダのブランドに対してより好きになり、ファンになっていただきたい。たくさんの信頼と共感を得たい」

 こう話すのは、ホンダ広報部Web・社内広報ブロックの永留真衣チーフだ。

 その背景には最近、ホンダのブランドがほかの自動車メーカーに比べてなかなか上がっていないという現状がある。例えば、英インターブランドが算出した2016年「グローバル日本ブランドランキング」では、日本企業の中でトヨタ自動車に次いで2位と高位に付けているが、トヨタ(16%増)や富士重工業(12位、39%増)、マツダ(13位、36%増)など他の自動車メーカーの上昇率が2桁台なのに対してホンダは6%と伸び率が低い。

 リコール問題があって一時的にブランドが下がったが、最近戻りつつある。しかし、もっと上げていきたいという社内認識がある。

 「広報部としては、世の中の声にしっかり傾聴したいと考えてきたが、現実は十分にできていなかった反省がある。今年はじめにVoS(ボイス・オブ・ステークホルダー)プロジェクトのキックオフにこぎ着け、IT部の人にいろいろと要望を出して、世の中の声を正しく把握できるシステムを開発してもらった。(2016年)10月から試験導入してブランド施策が世の中にどう受け入れられたのか、検証したい」(永留チーフ)と言う。

 イノベーション推進室情報企画ブロックの加藤拓巳氏は、今回開発した検証システムについて、こう説明する。「ホンダのブランドが、まず世の中の人にどう見られたいのかを決めて、それを測定する仕組みを開発した。世の中の人がホンダのことについて発信してくれないとブランドにならない。メディアやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)、ブログ、株主のレポートを毎日集めてきて、独自に開発した構文解析技術で分析して、攻めと守りのPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを回していく。リスクを早く検知して、ブランドの毀損を最小化するというアプローチを取ることができる」。

ミラーとサーモの2指標

 ホンダが目指す姿に共感してもらっているか、ファンになってもらえているのかを把握するために2つの独自指標を開発した。1つは「Mirror Score(ミラースコア)」。文字通りホンダの姿を映す鏡であり、伝えたいホンダの姿に対して、消費者や株主などのステークホルダーがホンダをどう思っているのかを表す指標だ。ホンダとステークホルダーのギャップを確認できる。

 もう1つの指標は「Thermo Score(サーモスコア)」。温度計の意味で、ホンダの企業活動によってファンの感情を高めることができたかを測る。つまり、ファンを増やすことができたのか、失うことになったのかが分かる指標になる。

 「ホンダに対して単純にいいとか、カッコイイと言ってもらっているかを把握するというものではない。ホンダとしては、どういう言葉を使ってブランドを語ってもらいたいか、しっかりと定義している。ホンダとして創出したい感情があって、そこにちゃんと合う感情表現になっているかどうかを測ることによって、ファンの気持を知ることができる」と加藤氏は2つの指標が体系づけられていることを強調する。

2つの独自指標を作り、ホンダとステークホルダーのギャップが分かり、ファンを増やしたのか減らしたのかが分かるようにした 出所:ホンダ
2つの独自指標を作り、ホンダとステークホルダーのギャップが分かり、ファンを増やしたのか減らしたのかが分かるようにした 出所:ホンダ

2つの指標をしっかり体系化

 下の図にあるようにミラースコアでは、ホンダの姿として、夢・信念の実現に向けて「自由闊達」な企業文化のもと、「ヒトのため」という視点を持ち、「チャレンジ」精神を持って挑む企業と定義している。そのうえで「自由闊達」なら「若い・元気」や「異能の集団」など、「ヒトのため」なら「ヒト中心」や「役立つ」など、「チャレンジ」なら「諦めない」や「独創的」など、「信頼」なら「高品質」や「安心安全」など、「新しい」なら「先進的」や「世界初」など、それぞれ3つずつのキーワードを定義している。

 サーモスコアでは、「期待と失望」や「驚きと無関心」、「喜びと悲しみ」、「好きと嫌い」、「満足と不満」など9つのキーワードで体系化している。

2つの指標それぞれでキーワードを定義して体系化している 出所:ホンダ
2つの指標それぞれでキーワードを定義して体系化している 出所:ホンダ

 指標の算出に際しては、まずデータを集めてきてスクリーニングする。「(サッカー日本代表の)本田圭佑」や「(クルマのフィットに対して)フィットネス」といった紛らわしい言葉、特定のURL、特定のID、異常なツイートを除外する。次に書き間違いを含めた表記の揺れを無くしている。

 続いて独自に開発した構文解析によって、様々な表現を正しくとらえるようにしている。「すごい」や「若干いいよね」などの強弱表現、「もう恋なんてしないとは言わない」などの多重否定の表現、「昔は良かった」などの比較表現、「ホンダのフィットっていいの?」などの肯定疑問に対しても、正しく把握できる点がこれまでの構文解析と違うところだという。方言にも対応できるようにした。

 その後、それぞれの表現をタグ付してスコアリングする。その際、「ツイッターやブログのように件数が多い書き込みは影響が大きくなってしまうので、各媒体を均等な重みにして最終的にスコアを出している」(加藤氏)。

 加藤氏は独自構文解析技術についてこう解説する。「既存のテキスト・マイニング・ツールではできない意味理解を可能にしている。辞書の精度を上げている点と、ルールを作り込んでいる点にポイントがある」。一例が潜在的意味理解というやり方だ。その言葉の周りにある言葉を見ている。「クルマのフィットとフィットネスのフィットは違うことを統計的に処理している。例えば、「体」という言葉が出てくるとフィットネスであると判断している」(加藤氏)。

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