熊本県や地元の金融機関などが出資するくまもとDMC(同県熊本市)は、ビッグデータを活用した地域のマーケティング分析に乗り出した。食品成分やPOS(販売時点情報管理)、ナビゲーション検索などの民間データを購入し、分析の知見を蓄積しながら取り組んでおり、9月末には自治体など外部に分析結果の納入を本格的に始める。観光や食などに関連したデータを掛け合わせて分析することで、地域の競争力強化につながる施策を見いだす狙いがある。
くまもとDMCは観光庁が定める地域連携DMO(デスティネーション・マネージメント・オーガニゼーション)の1つであり、熊本県、肥後銀行、熊本未来創生投資事業有限責任組合が出資し2016年12月に設立。民間組織としてデータを活用した地域のマーケティングに取り組んでいる。例えば、地方創生を推進するうえで、地元の食材を活用して特産品を生み出すというのが全国で課題となっている。ヒット商品ができれば、地元に来る観光客の土産品になるほか、全国で購入してもらえる可能性があるからだ。
こうした戦略のデータ分析体制を構築するため、地元銀行の田中伴茂氏、地元出身で東京のマーケティングリサーチ会社出身の小柳和賀子氏の2人をデータ分析担当のマーケティング本部マネージャーとして配置した。「ビッグデータから出てきた分析結果から、課題に対してよりピンポイントに打ち手を提示することを目指す」(くまもとDMC管理本部の木下浩昭グループマネージャー)。
話し言葉のように分析結果を表示
くまもとDMCの分析事例として取り組んでいるのが、ビッグデータを活用した地元名産品の開発である。eBASE(東京都中央区)の食品成分情報データと、True Data(東京都港区)のID-POSデータを掛け合わせて分析している。「売れている食品にはどのような成分が入り、どのような対象をターゲットにするのか、そして地元の特産品を生かすことができないのか分析している」(小柳マネージャー)。
データを解析できるだけでなく、「打ち手を見いだして実行と検証に向けたPDCAを回すことができるシステムを整備する」(田中マネージャー)との狙いから、分析のクラウドサービス「Data Diver」を提供するデータビークル(東京都港区)の取締役である統計家の西内啓氏の支援を受けて、データサイエンティスト以外でも打ち手を見いだせるようにした。
例えば、ジャムを分析すると、50代の男性が購入すると単価が上がり、ブルーベリーが成分として入ると単価が高くなり、オレンジだと低くなる傾向などが分かるという。これらの分析結果がツール上で話し言葉に近い形で提示される(図)。

目的地の検索履歴データはナビタイムジャパン(東京都港区)から購入した。同社のスマートフォン向けのアプリを利用し、観光客がどのスポットを検索しているのかを分析している。検索結果から、どのスポットを目指しているのかに加えて、グルメやお酒のスポットなのか、文化施設なのかといった分析も行う。
また、Agoop(東京都港区)から購入した匿名化された人流データは活用に向けてクレンジングをしている最中だ。「時間帯や曜日ごとの人の流れを把握し、エリアやスポットごとに観光客の入りを平準化することなどを考えている」(田中マネージャー)。
DMOのなかでここまでデータ分析を前面に打ち出しているケースは珍しい。「自治体にとって、民間データの購入と分析人材の確保という課題がある。これらは全国に共通したもので、くまもとDMCには熊本県外の自治体などからもデータ分析の相談が来ている」(小柳マネージャー)と言う。