新潟の中堅スーパーのマルイは、気象と来客店数について1カ月程度の実績データを利用して機械学習を行って、将来の気象から来店数を予測する。商品の発注にも段階的に活用していく考えだ。

 米国では一歩先に気象ビッグデータの活用が進んでいる。

 グーグルの出身者が設立した米ウェザービル(その後クライメートに名称変更)は2011年、オープンデータを利用して、農家に個別の条件の収入補償保険を提供するサービスを始めた。

 具体的には、米国家気象局と米農務省が提供する、天気や土壌に関する公開データを取得して、10兆もの膨大な地点のシミュレーションを行い個別のリスクを判断している。さらに天気のデータから干ばつなどの被害に遭ったと思われる農家を判定し、保険金を自動で支払う。まさに気象ビッグデータを分析し、フルに活用する企業と言える。

 2013年末には予測モデルの先進性などに目をつけた食料メジャーの米モンサントがクライメートを9億3000万ドルで買収。ベースの技術を保ちつつ、農家に対して作物の生育を支援するサービスにビジネスモデルを転換した。

 こうしたなか、日本でもひまわり8号の登場や、気象情報会社のデータ活用への取り組みによって、大容量、高頻度、高精細の気象ビッグデータを活用する企業が増えつつある。

1キロメッシュの情報で来店数予測

 新潟市の中心部から車で西に1時間弱の場所にある中堅スーパーのマルイ(新潟県見附市)の巻店。同店は8月から天気予報などを基に来店客数などを予測するサービスを導入した。1日単位や1時間ごとの来客店数を気象データなどから予測し、その場でレジの担当者を増やしたり、今後の人員配置を計画したりできるようにするのが目的だ。

スーパーのマルイの店内の様子
スーパーのマルイの店内の様子

 気象と来客店数について1カ月程度の実績データを利用して機械学習を行って、将来の気象から来店数を予測する。気象データはハレックスが気象庁から観測データを直接取得して、同社のコンピュータで演算。1キロ四方のメッシュの単位で独自に導き出した予報を利用している。日次単位であれば1週間先まで、1時間単位であれば72時間先までの天気や1日単位の最低・最高・平均気温の予測を知ることができる。

スーパーマルイ巻店(新潟市)は日々配送する商品の発注端末に天気の情報を表示する
スーパーマルイ巻店(新潟市)は日々配送する商品の発注端末に天気の情報を表示する

 店舗や拠点の多い企業にとっては、1キロメッシュのピンポイントの予測情報が役に立つ。例えば、新潟県では気象庁が上越、中越、下越の3地方の単位で主な天気予報を出している。しかしマルイの巻店は新潟市にあり下越地方ではあるが、ちょうど中越との境目に位置している。このため「参考にすべき天気の情報で、迷うことがあった」(山口友和巻店店長)。

気象の変化で商品発注を自動化

 マルイは来店客数の予測だけでなく、商品の発注にも段階的に活用していく考えだ。

 まずは、店舗の発注端末の画面にもハレックスから配信される気象の情報を表示した。店舗の担当者が乳製品など毎日発注・納品する「日配品」について数日後となる納品日の天気を考慮するためだ。「従来も朝礼などで気象について言及していたが、店内の現場での業務に追われると天気のことを忘れがちだった。どのように気象を考慮した発注を意識付けするのかは今後も考えていく」(マルイの計算管理室 金子正道課長)。

 次の段階として、天気や温度の変化に応じて商品の需要を予測して、自動で発注するなどの仕組みを導入する。季節の切り替わりのタイミングで品切れが起きないようにしたり、特定の温度になったら特に売れる商品を見つけたりしたい」(山口店長)としている。

 マルイはこれらの気象情報をハレックスのデータを活用するIT企業オーエムネットワーク(新潟市)のクラウドサービスを介して利用している。オーエムネットワークはマルイなど顧客の要望を聞きながら、温度や湿度、天気など気象の変化による各商品の需要を予測するサービスを開発している。

サプライチェーンの効率化目指す

 気象情報を活用して店舗だけでなく、サプライチェーン全体の効率化を図る動きもある。

 日本気象協会(東京都豊島区)は気象情報を用いて食品ロスの削減に役立つ予測技術の開発に取り組んでいる。季節商品を中心に天候の急激な変化などで返品が増え、それが物流の輸送コスト、ひいては二酸化炭素の排出にも影響してくるからだ。

 メーカー、卸・流通会社、小売店の連携でサプライチェーンの最適化を目指す取り組みだ。メーカーとしてMizkan Holdings(ミツカン)など、卸として国分、小売業としてドラッグストアなどを展開するココカラファイン、ローソンなどの企業が参加している。

 夏季に取り扱いが急増する季節商品である冷やし中華用つゆの売り上げを予測した。決定係数0.97という高い精度で予測できたという。この0.97という数字は予測の計算式から導かれた値によって、実際の売り上げの97%を説明できるという高いレベルである。2014年までの5年間、南関東(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)を対象に分析を行った。

 この精度は、気温と売り上げの単純な回帰計算から得られたものではない。天気予報で予測された気温と売り上げの単純な回帰式から得られる決定係数は0.59にとどまった。これは41%が気象で説明できないということだ。

 そこでデータを詳しく見ると、「売り上げが上昇する時期は平均気温の上昇曲線とよく一致するものの、売り上げの減少する時期は平均気温の下降曲線とあまり一致しない」ということが分かった。平均気温がいったんピークに達すると、気温がまだそれほど下がっていないのに需要が急激に減少してしまうという。

 このため日本気象協会は、「気温が上昇する時期と、下降する時期では気温に対する消費者の感じ方が違う」ことを予測のモデルに組み込んだ。そのうえで「アンサンブル予測」と呼ぶ技術を活用した。

 具体的には予測モデルを作る際に利用しているデータを少しずつ変化させることなどで、複数の予測値を計算する。そしてそれらを重ね合わせることで、最終的な予測をする方法だ。これは「アンサンブル学習」とも呼ばれる機械学習技術の一つである。

日本気象協会などが目指すサプライチェーン全体の効率化
日本気象協会などが目指すサプライチェーン全体の効率化

AI手法も取り入れ精度に磨き

 日本気象協会は2014年度から経済産業省の事業として、3年の計画で需要予測技術の開発プロジェクトを進めており、2017年度には需要予測サービスの本格的な事業化に乗り出す考えだ。

 2015年度は品目をアイスコーヒーや冷やし麺などにも拡大し、全国規模での需要予測の実証実験に取り組む。さらに大学など研究機関の人工知能(AI)研究者の協力も得て、小売店への来店客数を気象情報とAI技術から予測する方法の開発にも乗り出す。

 日本気象協会などは最終的には豆腐のような日配品については毎日、麺つゆや鍋つゆのような季節の商品については毎週、需要予測の情報を発信し、物流の効率化を進めたい考えだ。

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