特集「気象分析力を武器とする企業」は、ひまわり8号の本格運用を契機に広がる気象ビッグデータ活用の行方を探る。第1回はひまわり8号の実力と可能性を紹介する。

 2015年7月7日、気象庁の最新静止気象衛星「ひまわり8号」の本格運用が始まった。ひまわり8号の登場によって、利用できる画像が従来機7号のモノクロからカラーになった。画像の水平解像度も500mと2倍に、30分おきだった画像の更新間隔が日本近郊は10分の1以下の2分30秒まで縮まった。

気象庁が7月7日に運用を始めた気象衛星の「ひまわり8号」(気象庁ホームページより)
気象庁が2015年7月7日に運用を始めた気象衛星の「ひまわり8号」(気象庁ホームページより)

 ひまわり8号は画像を解析することで得られる情報量が格段にアップし、台風や集中豪雨の予兆をより正確に得られるようになる。海面の状況や水温などの情報も詳細に知ることができる。NTTデータ系の気象情報会社であるハレックス(東京都品川区)の越智正昭社長は「ひまわり8号の画像で海面のプランクトンの分布がわかれば、どこがいい漁場か判断できる。わざわざ捕れないところにリスクをとって行かなくても済むようになるのでは」と期待を寄せる。

 まさに2015年は日本で「気象ビッグデータ」の活用が本格化する元年とも言える。

空路上の積乱雲を即時警告

 ひまわり8号の気象ビッグデータをいち早く活用し始めたのが、気象情報会社のウェザーニューズである。「飛行機の運航に影響する積乱雲は急速に発達し解消するので、ひまわり7号の30分間隔のデータでは観測や判断が難しかった。特に積乱雲が発生する空域は情報が1時間に1~2回のケースが多い」(ウェザーニューズの村瀬瞳SKY(航空気象コンテンツサービス)オペレーションリーダー)。

 ウェザーニューズはひまわり8号の画像を利用して、積乱雲の発達をほぼリアルタイムで検出するサービスを開発し、7月9日から航空会社への提供を始めた。

 ひまわり8号の撮影した画像を認識して、雲などが積乱雲に発達する特徴を持つかどうかを分析。積乱雲と判断した場合、モニター画面に赤色などでアラートを表示する。ウェザーニューズの担当者や顧客である航空会社が画面上でルートと照らし合わせて影響があるかどうかを判断できる。

ウェザーニューズがひまわり8号を利用して積乱雲の情報を提供する、航空会社向けサービス
ウェザーニューズがひまわり8号を利用して積乱雲の情報を提供する、航空会社向けサービス

 航空会社はウェザーニューズの情報を基に、経路や高度を変えて対処する。安全が最優先ではあるが、こうした回避行動は飛行機の目的地への到着時間の遅延や予定外の燃料消費につながる。積乱雲の発生が予想されるものの、実際には発生していないことがわかれば、不必要な回避をしなくても済むようになる。

 ひまわり8号のデータは積乱雲の発生だけでなく、噴火などによる火山灰の影響予測にも活用していく考えだ。「衛星から送られてくるデータがカラーになったことで、画像認識で雲なのか火山灰なのかを正確に見分けられるようになった。火山灰のほか黄砂や霧の検知にも適用していく」(安部大介執行役員)。

 火山灰が空に放出されると、空域を通過する飛行機のエンジンが吸い込んで故障する原因になるだけでなく、近くの空港が閉鎖されることがある。「火山灰が流れていく方向が変われば、閉鎖中の空港の再開が近いと予測でき、航空会社に出発に向けた準備をすべきといった情報が与えられる」(同)。

顧客の要望でサービスを作る

 ウェザーニューズは航空会社や海運会社に対して、気象情報を基にした運航の支援サービスを提供している。ひまわり8号の運用開始で、「観測網が日本ほど緻密でないアジア地域での情報量を増やせる」(村瀬リーダー)と言う。前述の積乱雲の警告情報は支援サービスの契約者に提供しているものだ。

 同社は「シンボリックカスタマー」と呼ぶ顧客の要望を基に共同でサービスを開発するのが一般的だという。例えば、大韓航空とは天候と空港の設備から、どの方向から着陸すべきか、他の空港に回避すべきかといった判断のための情報を提供するサービスを開発した。その後、メニューを一般化し他の航空会社にも提供している。

 悪天候の場合、安全を優先すれば他の空港に回避するのが得策だ。ただ乗客に不便をかけ満足度の低下につながりかねないし、追加の交通費の支払いなどで航空会社に数百万円の費用がかかってしまう。そこに航空会社のニーズがあった。

 航空会社によってはウェザーニューズ側に各パイロットの情報も提供しており、経験などの保有スキルによって分析後に与える指示を変えている。まさに分析結果だけでなく、どのように活用するのかの“処方箋”の情報まで与えることで成果に結びつける「指示型」によるデータ活用の典型例と言える。

産業界で広く活用される気象情報

 気象の情報は様々な産業と業務で活用が進んでいる。人の消費や行動だけでなく、機器や設備の稼働効率や故障などにもに大きな影響を与えるからだ。

気象情報をビジネスに活用している主な例
気象情報をビジネスに活用している主な例

 スーパーやコンビニエンスストアなどの流通業では天気や気温の変化を基に、来店客数を予想したり、季節商品の発注や入れ替えを判断することはよく知られている。

 機器のメンテナンスを行うインフラ企業やメーカーなどでは、故障に関する大量のデータを分析し天気との相関を見いだしているところもある。製品によっては気温、気圧や湿度などの条件で故障原因が異なることを突き止めて、顧客を訪問する際に持参する補修部品などの種類を変えている企業もある。

 太陽光パネルや風力発電装置関連の事業者は、日照時間や風の強さや向きなどの気象データを基にして、事前に最も適した設置場所を見いだしている。設備投資に対して得られる利益、つまりROIに直結する。

 米国では一歩先に気象ビッグデータの活用が進んでいる。

この記事をいいね!する