データ共有から生まれる理想のビジネスが「データプラットフォーム」だ。データを提供する人、集約して分析をする人、そこから価値あるアプリを作る人、参加者の間に商流が生まれる。コマツのLANDLOGはその可能性を秘めたプラットフォームだ。
建設機械情報サービスの「KOMTRAX」で建機業界だけでなく、全産業のIoTデータ活用のお手本と言われるコマツ。その同社がプラットフォーム戦略を転換した。
今年7月、NTTドコモ、SAPジャパン、オプティムと計4社でぶち上げたのが「LANDLOG(ランドログ)」である。コマツは以前からスマートコンストラクションとして展開してきたプラットフォームサービス「KomConnect(コムコネクト)」の資産とノウハウを提供。NTTドコモは5Gなど通信の最適化、SAPとオプティムはIoTや分析のノウハウなどを担当する。得意分野を持ち寄り、4社の共同事業として会社を設立。今年10月に運用を始める計画だ。
ランドログは土、機械、材料など様々な「モノ」を軸としてデータを収集して、現場単位で分析したり、アプリなどで利用したりできるようにするのが目的である。「建機だけでなく、材料や人員、地形などすべてのデータを管理し、分析・活用できるようにする」(コマツ スマートコンストラクション推進本部本部長の四家千佳史執行役員)。

サービスを構築するにあたり、3000以上の現場で利用されてきたコムコネクトのデータ収集・蓄積・分析の機能はランドログに取り込む。一方でコムコネクトのスマートコンストラクション、トラック運行、3次元測量支援、林業の4つの既存のアプリはランドログのAPIから利用できるようにする。
さらに今年10月の時点には新アプリも投入する。自社の建機やトラックの稼働状況を可視化し、足りない現場にリソースを回したり、材料の配送や回収ルートを最適化したりすることができる。施工などのデータを基に3次元の画像を生成し、それと実際の現場の画像を比べることができるAR(拡張現実)のアプリも試作している。

コマツがランドログでオープン化に乗り出した背景にあるのが、建設現場で扱うデータの多様化である。ドローンの空撮や3Dスキャナーなど高性能カメラのデータを掛け合わせて分析することで工事の進捗がより精緻に見えてくれば、作業員やトラックのリソースなどとの最適化も可能になる。
四家執行役員は「すぐには無理だろうが、ランドログに他社や異業種が続々と入ってきて賑わうことで、新たな発想のアプリが出てきてほしい。すべての企業にオープンであり、競合他社にも利用してもらいたい。建設生産のプロセスの全体を可視化し、それらのデータを誰でも簡単に活用することで、現場の安全性や生産性を今まで以上に高めていきたい」と説明する。
異業種との連携も大きな目的だ。「公共事業に関わる事業者の中には精度の高い地層や地下の情報を持っているところもある。そうした事業者にもぜひデータを提供してほしい」(四家執行役員)。
ランドログをアプリなどから利用する際の料金などについては検討中だが、定額や従量のほかに「収入や利益を契約に応じて共有するレベニューシェアも想定している」(同)という。
こうしたプレーヤーを呼び込むため、データの分析や可視化の機能も充実させていく。地形や地盤による工事コストの差、最適な材料などを分析できるようになる。例えば、地形をドローンで撮影することで実際に使われた材料の量が推定でき、それに対してトラックなどで現場に搬入した材料との差異も確認できる。
作業や建機の効率化にも取り組む。ドローンなどの現場の各種カメラで撮影した画像を深層学習で分析し、「それぞれの作業者が何をしているのか、トラックが待機中なのか積み込み中なのかといったものを分かるようにしていきたい」(四家執行役員)。

現場に置くデータ収集支援の「箱」
現場でデータを収集しやすくし、共有を促進する秘策がある。コマツはエッジボックスと呼ぶ箱をオプティムなどと開発中で、現場に置くだけで様々なデータをランドログと連携できるようにするのだ。通信機能が組み込んであり、ドローン、3Dカメラなど各機器から得た画像などのデータを適切に前処理し、必要なデータだけを送信するという。
エッジボックスにはGPS(全地球測位システム)などを活用し、正確な位置を測定するための機能も持つ。ドローンなどが飛行して取得した位置データを後から計算して高精度に補正できる。
エッジボックスのコストも現時点で未定だが、四家執行役員は「(音声アシスタントの)Amazon Echoと同じで、ランドログのサービスを活用してもらうための仕掛けでもある。100万円では使ってもらえないだろうし、現場のレンタルであればさほど高くならないだろう」と言う。
こうして各社のデータがランドログに集まってくると、それぞれのデータを比較することで、効率性を判断したり、互いにリソースを貸し借りしたりすることも可能となる。
ただし、まずは各事業者がデータを自社内など特定の範囲で利用することから始める。四家執行役員は「制度面の進展を見据え、サービスを利用する企業間でのデータの連係について検討したい」と意欲を見せる。
家電情報を生活クラスターで分析
家庭の情報を活用するためのIoT基盤サービスの開発も進んでいる。例えば、ソニー出身者が設立したスタートアップのインフォメティス、東京電力の送配電を手掛ける東京電力パワーグリッド(東電PG)の取り組みがそうだ。こちらは生活クラスターを軸にデータを収集し分析する。
家電の稼働状況を知ることで、住人の行動を推定。その情報を生活関連のサービス事業者に提供することを想定している。どの家電製品がどのように使われているのか把握できれば、マーケティングやサービスの高度化に活用できる。

家電製品の利用状況を高精度に把握し、そのデータをIoT基盤サービスに蓄積。住宅やセキュリティ、宅配など他の産業に対して情報を提供していく。現時点で提供するデータや連係先などの詳細は決まっていないが、AIでデータを分析することで、住民の行動だけでなく、嗜好や感情を把握するといったことも検討している。
データの発生源はインフォメティスの電流センサーである。各家庭の玄関などにある分電盤に1個取り付ける。センサーは、テレビやエアコン、掃除機などの家電が電源ケーブルに出すノイズ波形を学習済みであり、各家庭の波形からどの家電が動いているのかをAIで推定する。2018年にサービスを始めて、開始後にまずは100万契約を目指す計画だ。