国を挙げて企業間データ共有の取り組みが始まるが、成功への近道はシンプルだ。一つ軸を定めて可視化することから、その価値も見えてくる。ソフトバンクは月間220億件もの位置データを世界から集め、可視化する仕組みを作り上げた。
ソフトバンク傘下の位置情報会社のAgoop(東京都港区)は今年6月、世界各地の提携企業からデータ共有を受けて、世界中の混雑している場所をビジュアルに表示する「混雑マップ」のサービスを始めた。
誰でも無償のスマートフォンアプリを利用して、全世界の任意の地点のおよそ20分前の人の動きが分かるというものだ。例えば、ロンドンのバッキンガム宮殿前に人の流れが多いといったことがほぼリアルタイムに分かる。3時間前の過去にさかのぼって推移を見ることもできる。
このような世界に向けたサービスを開発し、無償で提供するのには訳がある。
ソフトバンクは以前から自社ビジネスで活用するために日本国内の人流データを収集してきた。「ラーメンチェッカー」などのスマホアプリの利用者の位置情報や通信可否など接続の状況について、許諾を基に匿名化データとして取得。ポイントごとの混雑度と実際の利用状況を携帯電話の基地局の設置や設定などの改善に生かしてきた。また、希望する企業や自治体にも流動データとして販売してきた。
一方で米携帯電話会社のスプリントや英アームを買収するなど、事業は全世界に拡大している。米国ではデータを取得し始めているが、その他の国や地域はほぼ手つかずだった。
そこで全世界のデータを収集し、統一の形式で分析できる仕組みを構築した。データ収集の対象をこれまでの日本や米国を中心としたものから、世界230の国・地域まで一気に拡大。その中の81カ国・地域においては、日本のように通信の接続可否に関するデータの分析が可能になっているという。
収集したデータは混雑マップに活用するほか、ダッシュボードとして分析処理したデータを可視化している。それが左上の画面である。端末がどの地点でどの方向にどの程度の速度で動いているのかを可視化したものだ。このほかどのポイントで端末の利用者のログデータが多く発生しているのかを色合いで表現したりもできる。
このダッシュボードの機能はまず今年11月にソフトバンクグループの業務で利用を始めて、その後外部の顧客への提供を検討する。この仕組みを主導するAgoopの代表取締役社長兼CEOであり、ソフトバンクAI戦略本部の柴山和久本部長は「全世界の旅行者のインバウンド分析、世界各地の経済状況の分析などへの活用を提案していきたい」と説明する。AIを活用し、「ロンドンのA地点はなぜ混雑しているのか」といった、話し言葉でのデータ分析の指示や問い合わせなども視野に入れている。
世界から月間220億件のデータ
今回、ソフトバンクは世界各地からAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)経由でデータを集めて価値化するための仕組みを構築。世界の位置情報を活用したサービス事業者と提携して、グローバルのデータを取得し混雑マップを提供することにした。柴山本部長は「具体名は言えないが、10近い事業者とアライアンスを組んでいる」と明かす。
アライアンス先の事業者に対して、ソフトバンク側の位置情報データプラットフォームに情報を送信するためのソフトウエア開発キット(SDK)を配布。共通の手順でAPIにアクセスしてもらい、各事業者には送信したデータの量でその対価を支払っているもようだ。
集めるデータは全世界で月間220億件にものぼる(1件は人の位置のポイントデータ)。そうした大量データの分析処理のために今年4月、AI戦略本部を新設して深層学習(ディープラーニング)を活用する体制を強化した。
活用用途や利用範囲で3種類
多様なデータを外部企業と共有する取り組みは今まさに始まったところと言える。各社とも様々な用途で活用を始めている(下図)。

こうした各社・団体の取り組みから、適切なデータを集めて価値化するための条件が見えてくる。データを容易に取得できる手段を用意したうえで、目的と分析・活用の軸を明確にすることだ。メリットを感じてもらえれば、データを進んで提供してもらえるようにもなる。