電通は、深層学習(ディープラーニング)技術を活用したテレビ視聴率予測システム「SHAREST(β版)」を開発。今年12月までに実証実験を終了して、来年から本格運用に入る。テレビ視聴率の安定的な予測を自動で実現して、予測業務の半減と、最終的に広告効果の向上を目指す。

 SHARESTの開発は、2015年10月からデータアーティスト(東京都港区)と共同で進めてきた。SHARESTは、過去の視聴率データや番組ジャンル、出演者情報、インターネット上の閲覧傾向などのデータを教師データとして、深層学習アルゴリズムに学習させて放送前のテレビ視聴率を予測する学習モデル。電通は7月からSHARESTを活用して、関東地区で1週間内の放送枠の高精度な視聴率予測を実践する検証プロジェクトを実施している。

大量の参照データを視聴率予測に反映
大量の参照データを視聴率予測に反映

 これまで放送前のテレビ視聴率の予測については、過去の平均視聴率(局ごと、時間帯ごとなど)といった限られたデータを基に人間が行ってきた。最近では、放送前に番組に関する情報がどの程度検索されているかや、出演者の視聴率に及ぼす影響など、参照できるデータが増えてきた。

 しかし、こうした大量の参照データを人手で視聴率予測に反映させることは時間がかかるし、精度を上げるのも難しかった。そこで、テレビ視聴率の予測に利用可能なデータを深層学習技術の活用で解析して、性別・年代など約20のターゲットごとに視聴率を算出し、予測精度を上げることになった。

予測と実測値に高い相関係数

 検証プロジェクトでは、キー5局の全番組に対して、SHARESTで予測値を出して、予測値と実測値の相関係数やズレの絶対値を見て学習モデルが使えるレベルなのかどうか検証している。

 現段階で予測値と実測値の相関係数は0.91~0.96。相関係数の最大は1だが、1を目指すことが目的ではなく、1に近づけるなかで予測業務をスピーディーに効率化していく。

 予測視聴率は、広告主が求める出稿量やターゲット層に対して、どの時間帯や番組でCMを流せば要望に応えられるか、CM放送の計画を立てる業務などに活用する。

 実験では複数ブランドのCM素材があった場合、それらをどの番組で流すとより効果的なのか、について検証を重ねている。平日月曜日~金曜日に放送されているニュース番組や情報番組などの帯番組は、SHARESTのテレビ視聴率予測データを基にCM素材を自動的に割り付けると効果的である、ということが分かってきている。

 イレギュラーに編成された番組や、2時間枠の特別番組などに対しては、テレビ視聴率予測値に人間の修正を加えて精緻化してCM素材の割り付けを行う。こうした「AI+人」でのハイブリッド運用も検証している。

 働き方改革を進める電通では、AI対応による自動化は、業務の効率化に大いに効果があると見ており、視聴率予測業務が半分になると期待する。今後、複数ブランドを抱えるクライアント数社を対象に、視聴率予測を基にしたCM素材の割り付けによる効果検証を予定するが、自動化が進めば、対応クライアントの数を大きく増やせる。

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