ノーリツ鋼機の子会社で遠隔医療診断支援サービス最大手のドクターネットは、深層学習(ディープラーニング)など人工知能(AI)を活用する医療画像診断支援ビジネスに関するスタンスを明らかにした。今年6月に代表取締役社長に就任した長谷川雅子氏はこう話す。
「当社は、AIを活用する医療画像診断支援エンジン(アルゴリズム)を実用レベルに進化させるプラットフォーマーを目指している。国内外、自社・他社製を問わず、エンジンに“高等教育”を授ける役割を担っていきたい。そのために、当社に日々約3000件集まってくる症例データを活用する」
ドクターネットは常勤放射線科医のいない医療機関などへ向けて、CT(コンピューター断層撮影装置)、MRI(磁気共鳴画像装置)などの放射線診断領域で遠隔読影支援サービスを提供する。400人を超える放射線科医師が参加し、日々3000件の症例データが蓄積されている。これがAIの学習データとして貴重であり、ドクターネットの強みとなるわけだ。
そこで国内外の医療画像診断支援エンジンを開発している会社と一緒になってエンジンを進化させて、商品化も一緒にやっていく。
当社と組まないと難しい
「AIを活用する医療画像診断支援ビジネスを立ち上げていくためには、当社の存在が必ず必要になる。高等教育というエンジン開発における最後の工程を経ないと実用化までたどり着けない。エンジン会社単独ではできないということだ。日々の読影というプロセスを持っている当社と組まないと難しい」と長谷川氏は言い切る。
ドクターネット社内では、AIによる診断支援が医師の診断をいつ置き換えるのか、その 時期をうかがっている。結論としては「すぐには置き換えられない。10年後の世界として考えている」(長谷川氏)とみる。
その前に現実的なビジネスモデルの構築を進めていく戦略を取る。その際、戦略の要諦としているのが、現場の読影医や臨床医の抵抗を減らすこと。それが考慮できない会社は長期的な目標を立てるばかりで、ビジネスとして成立しないと考える。
ドクターネットは、医療画像診断支援システムの導入に関してはまず、「正常か異常か」「精密検査が必要か必要でないか」というスクリーニングに活用しようとしている。どこから開始するか、遠隔医療診断支援サービスに組み込み、検証し、見極めていく。その際に各社のAIエンジンを適材適所に配置していく。
長谷川氏は「1年ぐらいで法制度がクリアになっていくと思う。そのタイミングで導入していきたい」と展望する。
脳や心臓など各領域における優れた専門医の診断データとセットになった高精度な教師データを使って学習させる医療画像診断支援エンジンの開発はもとより、実用化するためにはドクターネットの存在かが欠かせないという長谷川氏の主張は説得力がある。
