変わり種の人寄せと思われたハウステンボスのロボットホテルなど新技術への取り組み。特集の第2回は、究極の効率化を進める「変なホテル」の裏側を伝える。変なホテルのロボットのノウハウは自社と外販の両方で活用していく考えだ。

 変なホテルの円滑な運用で重要なポイントとなるのが、フロント業務である。「24時間365日稼働しても壊れないロボットを探した。普通のロボットは3時間も連続で稼働したら休ませないといけない。それじゃあだめなんだ」(澤田)。

 そうしてたどり着いたのが科学博物館などに置いてある同じ動きをする「模擬ロボット」である。連続で動かしても壊れず、狙い通りの結果だった。澤田は「ロボットになんでもかんでもやらせるのではなく、何ができるのか分かればそこに特化して効率を上げていけばいい。ロボットで重要なのは運用だ」と説明する。

 改善面ではロボットの話す言語を増やしたり、ロボットを2台から3台に増やすことで、段階的に人手を減らしてきた。

 フロントで問題となるのは、外国人の宿泊客が来た際の対応だった。当初、外国人に対応できるのは英語で案内できる1体のみだったため、フロントが混雑したり、従業員が実際にフロントに出て対応するケースが頻繁にあった。これに対して今年7月には3体とも日英中韓の4カ国語を話せるようにした。なかでも日本語は音声認識もできるようにしており、氏名を名乗るだけでいい。現在はパスポートをスキャンして、予約情報を引き出せるシステムを開発しているところだ。

 部屋の顔認証システムも改良した。当初はフロントに宿泊者の顔を登録する装置を置いていたため、混雑時に待ち時間が生じることがあった。この登録作業を各部屋のドアのカメラでできるように改めた。

 このほか芝刈りや窓ふきなど様々なロボットを導入し、省力化を推し進めた。開業時に6種類82台だったロボットは、今年7月に16種類182台と100台も増えた。

10分の1の人手で運営可能に

 こうして変なホテルの1号棟の開業時には30人の従業員で切り盛りしていたが、2号棟が開業し倍の144室となっても今年末には6人体制まで削減する見通しだ。「朝昼晩と深夜のシフトを考えれば、実質1人で運用するようなもの」(澤田)であり、都合10倍の効率化を図ったと計算することもできる。

変なホテルにおける主な改善項目と従業員数
変なホテルにおける主な改善項目と従業員数

 効率化を図ることで、ホテルの運営コストを下げ、より安価な料金で提供できるのはもちろん、ホテルの開業する場所の自由度も高まる。

 例えば、エネルギーの供給などインフラ面に不安があるような場所だ。ここでスマートハウスで試していた自家発電のノウハウが生きる。変なホテル自体も、水素エネルギーや太陽光での発電を行っている。今年7月には、九州電力への余剰電力の売電を始めるまでになった。

 一方で今年7月に開業した「変なレストラン」ではロボットがお好み焼きを焼き、ビールやジュースを注いで出してくれる。パフォーマンスも楽しめるが、将来のレストランを予感させる光景だ。

 レストラン内でも省人化の取り組みが始まっている。例えば、レストラン内では従業員の後を、「お皿下げ」のロボットがついて回っている。特定の物体をカメラで認識し、その後を追尾するロボットを応用したものだ。昨年冬に開発を始め、今春にパレードで複数のフロート車を追随して連動させるのに活用した。変なレストランで、お皿の回収ロボットとして応用したのだ。

AIの活用も開始、半年試す

 AIは実験を始めたばかりである。変なレストランの入り口において、顧客と対話しながら、来場者の好みとメニューのマッチングをしたり、居住地を質問して学習したりしている最中だ。日本IBMと連携して開発しており、認知システムの「Watson」を活用している。

変なレストランをAIで案内するロボット(左)と、その案内内容を表示する画面(右)
変なレストランをAIで案内するロボット(左)と、その案内内容を表示する画面(右)
変なレストランをAIで案内するロボット(左)と、その案内内容を表示する画面(右)

 澤田は「AIは英語であれば十分な認識能力があると思うが、関西弁であったり、子供やお年寄りの言葉をどれだけ正確に認知できるのか。6カ月程度様子を見れば使えるものかどうか判断できるだろう」とみる。AIが使えると判断できれば、変なホテルのフロントでの臨機応変な対応に活用していきたいという。

ノウハウを外販する新会社を設立

 こうして得た変なホテルのロボットのノウハウは自社と外販の両方で活用していく考えだ。

 自社では来年3月に千葉県浦安市に変なホテルの3号棟を開業することを明らかにしている。愛知県蒲郡市にあるグループのテーマパーク「ラグーナテンボス」の周辺や、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)のある大阪市内での開業も検討している。

 一方で「世界の企業からも多くの引き合いがある」(澤田)として変なホテルのフランチャイズ展開や運営ノウハウの提供を、新たなビジネスとしていく考えだ。

 こうした取り組みを専門に扱うため、今年7月にロボットの新会社を設立したという。ホテルも含んで幅広い業種・業務に対してロボット活用のノウハウを提供していくものとみられる。「受付の高性能なロボットがあれば、どんな企業にも売り込むことができる」(澤田)。

右腕となるCTOを外部から登用

富田直美 経営顧問&CTO
富田直美 経営顧問&CTO

 澤田自身はロボットなど先端技術に詳しいわけではない。本格的に取り組むため2014年にハウステンボスに招いたのが富田直美であり、右腕として動いている。

 富田はピクチャーテルやオプスウエア、パラレルスやアークサイトなどビッグデータ系の米国IT企業の日本法人の社長を歴任した人物で、2014年10月にハウステンボスに入り、経営顧問&CTOとなった。「ハウステンボスが単なるテーマパークではなく、社会という生態系のなかで様々な実験ができること、利益を出しながら社会貢献をしていることなどに共感した」(富田)という。

 米国系企業のトップを歴任しただけあって、富田は「やると決めたら実行のスピードが大事。アジャイル型で走りながら修正していく。変なホテルはそうして改善を重ね、1年間で大幅な効果を出した」と言う。

 富田は様々なロボットのメーカーと交渉して協業を始めている。ハウステンボスはさながらロボットのショーケースのようであり、各社とハウステンボスを舞台とした実験が行われている。

 目下の課題はやはりAIの活用である。「AIは本場である英語での活用と高度化が進んでいる。日本語での活用をなんとかして高度化したい」(富田)。

3年後には園の運営も半分に

 園全体の運営もロボットなど最新のテクノロジーで効率化していく考えだ。例えば、園内の状況を高性能なカメラで把握することで、省力化につなげることができる。カメラ映像の分析から何か困っているという動作であることを判別した際に「まずはロボットが近づいていって状況を把握し、必要に応じて従業員を呼び出したりする」(澤田)といった活用が考えられる。

 こうしたロボットと人の連携などによって、澤田は「3年後には運営に必要な人員は半分になる。人を減らすのでなく、より創造性が求められるような他の仕事をしてもらう」ともくろむ。

 一方でビッグデータの活用は緒に就いたところである。

 東京ディズニーランドのおよそ3倍という広大なハウステンボスの敷地のなかで、どの程度の来場者が来てどのように回遊しているのか。現時点では詳細なデータとして把握できていないが「今後、データを蓄積して分析・活用していきたい」(澤田)としている。

 ドローンは当初、変なホテルへのルームサービスの手段として検討したが断念。農業分野で本格的に活用していく考えだ。

 現在、ハウステンボス内に植物工場の建設を計画しており、その生育状況の把握や管理に各種センサーを搭載したドローンを活用することを検討している。ドローンはCTOの富田が活用から操縦まで高いノウハウを持っている。

ドローンの飛行区画を設け、来場者も操縦を体験できる
ドローンの飛行区画を設け、来場者も操縦を体験できる

 現在、変なホテルの近くにあるレストラン内に小規模な植物工場を設置しているが、生産性の高い植物工場で取れた作物を園内の様々な施設で消費することも視野に入れる。

 少子高齢化の問題を日本の産業界はどう解決していくか。ハウステンボスが、その未来を占う壮大な実験場となっている。(文中敬称略)

この記事をいいね!する