変わり種の人寄せと思われたハウステンボスのロボットホテルなど新技術への取り組み。実は次世代のサービス産業の可能性を探る場であり、実際の成果も出始めている。特集の第1回は、まず同園のテクノロジーマップを紹介したい。

 長崎県佐世保市の大村湾に面した巨大なテーマパークであるハウステンボス。東京ディズニーランドの実に3倍という広大な敷地内のホテルやレストラン、アトラクションなどに2015年夏以降、次々とロボットが現れて働き始めた。

 当初はテーマパークの話題作りのためととらえられたが、ハウステンボスの社長であり、大手旅行会社グループのエイチ・アイ・エス(HIS)会長でもある澤田秀雄は本気でホテルやサービスの産業を変えようとしている。一体、何が始まろうとしているのか。

サービス産業を変革する

 澤田は「世界一生産性の高いホテルをここで実現して、サービス産業を変革する」と言ってはばからない。背景にあるのは強い危機感である。

 HISが地元の産業界などからの強い要望でハウステンボスの経営権を握ったのは2010年。園内に有料と無料のゾーンを設けたり、イベント内容などを見直したりすることなどでそれまで開業以来18年間赤字だった事業が1年目から黒字化した。さらに利益は増え、2015年9月期にはHIS全体の経常利益のおよそ4割の92億円を稼ぎ出すまでになった。

ハウステンボスの入場者数と損益
ハウステンボスの入場者数と損益

 しかし約3割という高い利益率を誇るハウステンボス自体がこれ以上高い利益を上げるには限界がある。欧州テロの多発などイベントリスクが高まるなか、旅行業のHISグループとして海外での売り上げを上積みするにも新たな仕掛けが必要だ。

 こうした課題を解決したうえで、新たな成長の推進力となるのがロボット、そして人工知能(AI)の活用である。

ロボットが働く社会の実験場

 ハウステンボスにはそれをかなえる舞台装置が揃っている。敷地面積は1.52平方キロメートルで、ホテルが5つ、20の店舗に20のレストランがある。そして発電所まで備えている。つまり「ハウステンボスは1つの国のようなもの。私有地内で、新しいテクノロジーを周囲や規制を気にせずに試すことができる実験場」(澤田)なのだ。

ハウステンボスの園内では様々な実験を展開している
ハウステンボスの園内では様々な実験を展開している

 実際、2013年にTOTO、三協立山、東芝、パナソニック、長崎県などと取り組んだスマートハウスをはじめとして様々な取り組みを行っている。

 今年6月末から順次試験的に導入しているスマートゴミ箱はあらゆるものがインターネットにつながるIoT(Internet of Things)の代表事例と言えるものだ。センサーが取り付けられておりゴミがたまったらアラートを発するので、満杯になるまで回収する必要がない。これにより定期的な回収の必要がなくなる。

 米国では街中に多くのゴミ箱があり、スマートゴミ箱を導入することで大きなコスト削減効果を実現している。一方で日本では屋外にゴミ箱が設置されていないので、ハウステンボスのような場が貴重な存在となっている。スマートゴミ箱は2つのメーカーが実験を展開している。

 それぞれの実験は話題作りの面もあるが、実際にはテーマパークやホテル、レストランといったサービス業の近未来をいかに実現していくのか、HISグループがいかにして成長していくのかという戦略の根幹を成すものである。

 また、将来くるであろう、ロボットが多く働く社会で、人とロボットがどのように作業を分担していくのか、人はどのような仕事をすることになるのかという課題も探っている。

 これらの実験で試しているのは、多くの従業員がいなくても、社会インフラが脆弱でも、顧客が満足して過ごせるホテルを実現することだ。HIS社長の平林朗は「従業員を配置できないような、電気や水道のインフラが弱い世界の秘境にもホテルを開業できるかもしれない」と真顔で説明する。

 現在は実験を終えているが、スマートハウスもそれを目指して自家発電にこだわった。太陽光、風力、磁力で発電し、海水と太陽熱を利用して冷暖房するなど環境に配慮した実験場だ。スマートハウスには澤田も実際に住み込んで検証した。

変化を続けるロボットホテル

 こうした実験の集大成と言えるのが昨年7月にオープンした新型宿泊施設の「変なホテル」である。1号棟として、72室を開設した。ちなみに「変な」は「常に変化する」の意味も込めているという。

宿泊者の荷物を預かって所定の位置に運ぶ、安川電機の工作ロボット(ハウステンボスの変なホテル)
宿泊者の荷物を預かって所定の位置に運ぶ、安川電機の工作ロボット(ハウステンボスの変なホテル)

 変なホテルはハウステンボスの他の高級ホテルとは離れた小高い丘の区画に建設されている。

 ホテルに向かって丘を登っていくと、途中で芝刈りロボットが動いて作業をしていた。そしてホテルのロビーに入るとまず目につくのが、ピアノの演奏や館内の案内をするロボット。冒頭に紹介したロッカールームなど様々なロボットが出迎える。

 宿泊者はまずフロントのロボットの音声案内に従って、タブレットに宿泊者名を記入し、そのデータと予約者情報をマッチングしたうえで、チェックインに必要な情報を入力する。

 照合が完了し手続きが終わると、フロント前にある装置からカードキーが発行され、それを持って部屋に行く。その際に部屋番号を入力することで、荷物を一緒に運んでくれるロボットを使うことも可能だ。

 その後、部屋の前でカードキーをかざして、自分の顔を登録。以後、顔認証のみでもドアを解錠できるようになる。(文中敬称略)