あずさ監査法人はビッグデータ分析に基づく監査へ全面的に移行する。2014年に「次世代監査技術研究室」を設置し、2017年3月期の監査対象企業中、約160社に対して全体の取引データを分析対象とした精査的手法で監査を実施した。2018年3月期では全対象企業で同手法を採用する。

 東芝など企業の不祥事が取り沙汰される中、監査法人の役割が重要度を増している。あずさ監査法人は、昨年9月、監査品質向上への取り組みをまとめた「AZSA Quality 2016」を発行した。その中で打ち出したのが、ビッグデータを分析した監査への取り組みだ。

 従来の監査は、監査人の知識や経験、勘に基づいて、不正や誤りが起きやすいと判断されるポイントにおいて、一部の取引を抽出し重点的に分析するという手法がとられていた。

既に約160社でデータ分析による監査

 2014年7月に「次世代監査技術研究室」を設置し、ITを活用した新たな監査技法を研究・開発、導入してきた。昨年AZSA Quality 2016を打ち出したことに合わせて、部分的に導入してきたデータ分析の手法を本格的に取り入れることになった。

 ITの進化により、一部の取引を抽出して分析する試査ではなく、全体の取引データを分析対象とした精査的手法が実施できるようになってきたのだ。導入は2カ年計画で進めており、2017年3月期の監査対象企業については、各事業部で重要と判断した上場企業で導入し、約160社に対してデータ分析に基づく監査を実施することができた。

 2018年3月期以降はすべての上場企業で実施する(妥当な理由がある場合は除く)。同法人の監査対象社数は3470社で、うち上場企業は713社(2017年3月31日時点)に上る。

 具体的な手法は次のようなものだ。企業の持つ財務および非財務データ、さらには企業が取得した外部データなどを入手し、対象となるすべての取引について各データ間の関係性を分析する。可視化ツールなどを使いグラフ化することで異常なデータが含まれているかどうかが分かり、その異常なデータを詳しく検証する。どのような分析をするかは、監査人が企業ごとに個別のシナリオを描き検討する必要があるという。監査人の知見、経験とデータ分析を組み合わせた手法だ。

あずさ監査法人は監査方法を全面的に移行する
あずさ監査法人は監査方法を全面的に移行する

 また、同法人が所属するKPMGが開発した、より高度な仕訳分析ができるツール「eAAT(Electronic Account Analysis Tool)」や、独SAPの統合基幹業務システム(ERP)のデータを自動で分析して監査調書を作成する「KAAP(KPMG Automated Audit Procedures)」などの導入にも取り組み、より効率的な監査の手法を模索している。

 「これまでのような監査人の経験や勘のみに頼る属人的なノウハウではなく、データ分析の結果から判断できるようになったことで、組織としての監査品質が向上しているという手応えはある。こうしたデータ分析が進めば進むほど、組織としてのノウハウは向上していくと考えている」と次世代監査技術研究室室長/パートナーの小川勤氏は語る。

知識をつなぎ合わせる人材

 今後の課題は人材の育成だ。会計の知識、IT技術の知識、データ分析の知識の3つをどう融合させるかに重点を置く。

 「現在は、この3つの知識をすべて持っている人材はまずいない。このような知識を持っている人、それぞれの知識をつなぎ合わせることができる人を育てていかなければならない。データ分析者には会計の知識を、IT専門家にはデータ分析の知識を、会計士にはデータ分析でどのようなことができるのかを学んでもらっている」(小川氏)。

 今後は統計解析などを取り入れ、分析の高度化を進めるとともに、将来的には人工知能(AI)の導入も視野に入れる。

 小川氏はさらなる進化の方向性について、「企業の会計システムのグループ会社間の統一・連携が進めば、親会社で子会社も含めてより詳しいデータ分析ができるようになり、海外子会社の管理強化に効果を発揮すると考えられるが、日本ではまだ少ない。また、現状では守秘義務の問題があり実現は難しいと考えられるが、各監査会社の情報を匿名化し規模別・業界別に統計解析による分析を行うことが可能となれば、監査の品質はより向上する可能性がある」と語る。

この記事をいいね!する