深層学習を活用するビジネスが、人の「眼」を代替する分野から立ち上がってきた。特集の第2回は、物流センター省人化に活用する佐川急便と、ロボットで顧客分析に取り組む三越伊勢丹の取り組みを紹介する。

 画像認識能力に長けた深層学習が生み出す「機械の眼」は、物流現場にも広がる。

 佐川急便のある物流センターでは今年、深層学習を活用する実証実験を検討している。深層学習技術によって宅配便の荷物を識別して、人に代わって仕分け作業を自動化する試みだ。

 例えば、多数の荷物の画像を学習済みの深層学習アルゴリズムが荷物の輪郭を見れば、容積が分かる。へこんでいるかどうかも識別できるので、気を付けなければならない荷物は、低速ラインに回すことができる。汚れや破損も識別できる。

重量データと掛け合わせがポイント

 もっとも、深層学習による荷姿の識別だけでは省人化できない。重量データと掛け合わせることがポイントになるという。

 例えば、重い荷物については、低速ラインに流すといった具合だ。もし水のような荷物を高速ラインに流すと危険なので、低速ラインに流す。ゴルフバッグやタイヤなども低速ラインに回すことになる。壊れそうな荷物も、当然低速ラインに流す。「壊れモノ」とか「上積み厳禁」といった荷物のマークやラベルを読み込むのは、深層学習アルゴリズムだ。

 3カ月間の実証実験では、現場で使えるようにするためにはどうしたらいいか、要件定義からベルトコンベアの設計まで検証する。また、荷物の積み上げ、積み卸し、運搬などを請け負うマテハンベンダーがどんな機器を用意すればいいかも探る。その結果を受けて、今年度末までに本格稼働を目指している。

 下の図は、深層学習技術の活用による宅配便の荷物の自動仕分けを説明したものだ。従来は人が行っていた仕分け作業の一部を自動化する。物流センターの作業者がベルトコンベアに宅配便の荷物を投入すると、まず重量を測定する。続いて、カメラで撮影した画像を深層学習で開発した「荷姿AI自動判別&自動一次仕分け判断」アルゴリズムに投入して、高速ラインに流すか、低速ラインに流すか自動的に振り分ける。

佐川急便とNTTデータの深層学習技術による荷物の自動仕分け
佐川急便とNTTデータの深層学習技術による荷物の自動仕分け

 今回の実証実験に取り組む、NTTデータ製造ITイノベーション事業本部コンサルティング&マーケティング事業部デジタルコンサルティング統括部の大野有生課長は実験のポイントについて、こう解説する。

 「今回、佐川急便や鈴与など(の物流企業)から教師データの画像を提供していただいた。例えば、鈴与の3PL(サード・パーティー・ロジスティクス=荷主企業から物流全体を包括的に請け負う)倉庫に出向いて化粧品などを中心に撮影した。動画も含めて合計で2万枚の画像データを集めたが、実際に使ったのは約4000枚のデータ。画像データの角度を変えたり、アップにしたりするなど擬似的に何十倍から何百倍まで増やした。それらを教師データとして、深層学習の学習済みモデル『荷姿AI自動判別』を開発した」

 ちなみに、今回使用した深層学習のモデルは20層のCNN(畳み込みニューラルネットワーク)だった。

 電子商取引(EC)の急増によって物流に対するニーズは高まっている。にもかかわらず人手不足という大きな課題に直面しているのが、現状だ。この課題を解決するために、人の「眼」に成り代わって深層学習アルゴリズムが様々な形状の宅配便の荷物を識別するというのは、かなり画期的なことだ。人手不足解消という課題の解決につながる、効果が明確な事例だと言える。

 佐川急便には、全国に二十数カ所の物流センターがある。1つの物流センターには約200のバース(荷物を卸す場所)があり、1日中、約200人が立って仕分けをしている。この作業が自動化されれば、この約200人は別の作業に移ることができる。あるいは、人手の確保に奔走する必要がなくなる。全センター合計で、約4000人規模の人員を削減できる効果がある。

 さらに、自動化によって大量のデータが上がってくる。まさに「ロジスティクスIoT」だ。上述したように、荷物のマークやラベルに加えてロットナンバーなども読み込めば、トレーサビリティーに対応できる。リコールのときにそのロットナンバーを追跡できるのだ。どこにロットナンバーを付けたらいいか、NTTデータは、JANコードを扱う一般財団法人流通システム開発センター(東京都港区)と話し合っているという。

三越伊勢丹は来店者属性を分析

 深層学習による「眼」は百貨店でも活用が進む。高精度な画像認識力を活用して、来場者の性別・年代を識別して時間帯ごとにカウントする試みが、8月9~21日に伊勢丹新宿本店で行われる。本館6階で開催する「デジタルホビーフェス」というイベント会場の入り口に、IoTデバイスの設計などを手掛けるベンチャー企業のハタプロ(東京都港区)が開発した小型ロボット「ZUKKU(ズック)」と、デジタルサイネージとして活用するタブレット端末を置いて実施する。

 具体的には、ZUKKUがイベントを案内し、集まってきた来場者の性別・年齢を画像センシングセンサーと深層学習アルゴリズムにより識別。その人に合った動画をタブレット画面に流す。動画の内容は、デジタルホビーフェスに出展する玩具の紹介になる。「興味があったら見ていってね」とZUKKUが案内するというものだ。

 同フェスのテーマは、いわゆる「ステム(STEM)」。サイエンス(科学)、テクノロジー(技術)、エンジニアリング(工学)、マスマティクス(数学)を示すもの。今回のイベントでは、ロボットやVR(バーチャルリアリティー)、デジタル工作キットなどの商品が棚に並ぶことになる。STEMに興味を持つ親子などの来店が見込まれるが、実際にどんな年齢層の人が訪れるのかカウントできる。

未就学児中心の売り場は変わるか

 新宿伊勢丹本店の玩具売り場はこれまで、基本的に未就学児を対象にしてきた。ただ、このままでいいのかどうか、課題になっている。STEMをテーマにした今回のイベントでは、未就学児よりも年齢が高い子どもが多く来店する可能性もある。今回のイベントが年齢層の幅を広げ、新たな客層の来店を促す契機になるとの仮説がある。

 だから、イベントにどんな年齢層が来場したのか、小型ロボットと深層学習で把握しようというのが、三越伊勢丹の狙いだ。

 ちなみにZUKKUには、大手メーカー製の人識別学習済みの画像センシングセンサーをベースに、ハタプロの触覚センサー、人感センサー、感情表現カラーLED、音声認識マイク、スピーカー、IoT向け低価格SIMでの常時ネット接続などを基盤に組み込んでいる。ZUKKUで取得した識別データを、IBMのクラウドサービス「Bluemix」および「Watson」をベースにした、ハタプロ開発のクラウド型マーケティング管理システムに蓄積して可視化している。

 その可視化した画面イメージが、下の図だ。ハタプロの伊澤諒太・代表取締役CEOは「将来的には、売り場の需要予測や販促施策立案、付随するデジタルサイネージ広告配信の自動最適化なども実施できるようになる」と話す。

伊勢丹新宿本店本館6階で開催される「デジタルホビーフェス」に訪れる人の性別・年代などが時間帯別に集計される。右端は高精度な画像認識力がある小型ロボット「ZUKKU」
伊勢丹新宿本店本館6階で開催される「デジタルホビーフェス」に訪れる人の性別・年代などが時間帯別に集計される。右端は高精度な画像認識力がある小型ロボット「ZUKKU」