深層学習を活用するビジネスが、人の「眼」を代替する分野から立ち上がってきた。処理速度の向上や、自動化による人手不足対策、強力な仕事支援が期待される。特集第1回はSOMPOホールディングスの取り組みを紹介する。

 「いい保険を提案しますよ」。自動車ディーラーの営業員が商談成立後、顧客の自動車保険証書をタブレット端末で撮影してたった10分。顧客にメリットを訴求できる損害保険ジャパン日本興亜(損保ジャパン日本興亜)の保険商品の見積書を作成した。自動車保険に精通したベテランでも1時間程度はかかっていた作業が大幅に短縮されるので、成約への効果はてきめんだ。

タブレットで保険証書の表裏を撮影するだけで深層学習の学習モデルでデータ化。同じタイプで顧客にメリットがある損保ジャパン日本興亜の自動車保険見積もりを10分程度で表示する
タブレットで保険証書の表裏を撮影するだけで深層学習の学習モデルでデータ化。同じタイプで顧客にメリットがある損保ジャパン日本興亜の自動車保険見積もりを10分程度で表示する

 損保ジャパン日本興亜の代理店は、代理店システム(SJN-NET)からアプリ「カシャらく見積もり」を起動し、保険証書を撮影する。8月から順次、この仕組みを導入している。実は、この仕組みに深層学習(ディープラーニング)技術を活用している。

自動車販売の現場で売りやすく

 今回、同社がこの仕組みを導入した理由は、主に自動車ディーラーへの支援強化だった。自動車ディーラーはクルマの商談に2~3時間もかかるのが現状だ。だから、それから自動車保険を提案することに多くのディーラーが二の足を踏んでいたようだ。特に家族連れの顧客の場合、子どもがもう待てないという状況になるという。

 仮に自動車保険の提案フェーズに入っても、顧客が現在加入している保険の補償内容を、損保ジャパン日本興亜の補償に読み替えて代理店システム(保険料計算システム)へ入力するため、最適な補償内容の提案まで時間を要するのが大きな課題だった。提案するための知識やスキルに個人差があり、品質の平準化も課題だった。さらにタブレット端末は携帯しやすさはあっても、入力しづらく手間がかかるという課題もあった。

 こうした様々な課題を解決するために目を付けたのが、深層学習だった。個人情報をマスキングした大手5社の保険証券や車検証の画像を約3000枚ずつ用意。深層学習アルゴリズムにレイアウトを学習させた。要は、保険証券のどこに何が書かれているのかを識別できるようにしたのだ。

 実際は各社3000枚を用意するのは難しかったので、約500枚ずつ確保し、機械的に傾斜させるなどして画像数を増やしたという。

 損保ジャパン日本興亜は、今年2月から実証実験を開始して3月には「使える」との判断を下した。昨年10月に開発を開始した当初は、既存の光学文字認識システムも試したが、会社によっては保険証券などのレイアウトが微妙に変わる場合があり、その都度変更が必要になる。深層学習なら多少のレイアウト変更に対応できるため、採用を決めた。

スマートフォンで保険証券の裏表を1枚ずつ撮影して「読取・読替結果」のボタンをタップすると(左)、内容を解析して読取・読替結果を表示する(右)
スマートフォンで保険証券の裏表を1枚ずつ撮影して「読取・読替結果」のボタンをタップすると(左)、内容を解析して読取・読替結果を表示する(右)

保険提案の“打数”を増やす

 「実証実験の段階から、担当役員にはどんなものを作ろうとしているのか、説明してきた。アプリの開発経費はそれなりにかかるので、ちゃんとお金をかけるべく、効果について明確に説明してきた」と、今回のビジネスオーナーを務めた損保ジャパン日本興亜自動車営業推進部システム支援グループの中尾統吾特命課長は話す。

 損保ジャパン日本興亜の深層学習の活用については、上述したように効果が明確で数字的にもインパクトを持つ。「クルマの商談後に自動車保険を提案すれば、確実に“打数”が増えるので、“打率”が同じであれば契約数は確実に増えていく。これまで自動車保険に不慣れなディーラーは、手間がかかっていた見積もり作業をコールセンターに投げていたが、これからはカシャらく見積もりを使えるので、コールセンターへの見積もり依頼が減り、その分の経費が下がると期待されている」(中尾特命課長)というわけだ。今回のアプリによって、タブレットの活用が一気に進むとみている。

 アプリ開発に当たっては、深層学習技術の活用を得意としているAIスタートアップ企業の協力を仰いでいる。「技術的なディレクションは当社が行った」と、SOMPOホールディングスデータ戦略統括/チーフ・データサイエンティストの中林紀彦氏は説明する。

 今回のシステムの学習と実行は、グループ専用の「AI工場」で行っている。AI工場はデータ集約用のアマゾンウェブサービス(AWS)と、データをリアルタイムに解析して学習モデルを構築、蓄積するAIセンターと、両者を接続するNTT東日本のネットワークから構成されている。

 まずはiPadを使う損保ジャパン日本興亜の代理店が、カシャらく見積もりを導入していく。現状では約4万台のiPadが代理店で使われている。追って、WindowsやAndroid搭載タブレット向けアプリを投入していく。

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