大手の製造業やスタートアップなどが自社の強みを生かして、介護分野を新たな市場として開拓し始めた。各社の強みを持ち寄ることで介護現場の抱える人手不足などの課題を解消し、新事業を育成するのが狙いだ。

 キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)は6月、IoTスタートアップのZ-Works(東京都新宿区)に出資し、センサーとスマートフォンを活用した介護支援事業に本格的に乗り出すことを発表した。

 共同で「居室見守り介護支援システム」として、有料老人ホームを中心に提案していく。2020年までに約7000室への導入を目指している。

 キヤノンMJの総合企画本部経営戦略部の横坂一部長は「自前では実現できない知見を得る一方で、スタートアップに営業網や顧客など当社のアセットを活用してもらいたいと考える。これを契機に10人弱の介護支援の専門部門を設置した」と説明する。

 特徴は複数のセンサーの情報を組み合わせて、入居者の状態を精緻に把握することだ。Z-Worksが、非接触の心拍、ドア、多機能の各種センサーとクラウドサービス、スマートフォンアプリを提供する。

 クラウド側に行動翻訳エンジンと呼ぶ機能があり、センサーから得た複数のデータを組み合わせて、入居者がどのような状況にあるのかを判断する。Z-Worksの小川誠代表取締役は「浴室内にセンサーを設置することは防水や電源確保の面で現実的ではない。そこで脱衣所やベッド周りのスペースに設置した複数のセンサーの情報をもとに、浴室の利用が長時間になっていることを推測し、アラートを出すといった処理をする」と強みを語る。

 また、クラウド側でセンサーによる感度や仕様の違いも吸収する。「センサーはハードウエア製品であり、短期間に陳腐化してしまう。そこで常に新しいセンサーを採用し、従来のセンサーとも連携できるようにしている。現在合計で30種類のセンサーを活用できる」(小川代表取締役)。

キヤノンマーケティングジャパンがZ-Worksと組んで提供する介護支援サービスの構成
キヤノンマーケティングジャパンがZ-Worksと組んで提供する介護支援サービスの構成

センサーを生かすミネベアミツミ

 自社センサーの強みを生かすのが、機械加工品事業、電子機器事業を手掛けるミネベアミツミである。高精度荷重センサー技術を生かして「ベッドセンサーシステム」を開発し、介護市場に参入する。「精肉店の秤、体重計、トラックのスケール、車載用センサー、ゲーム機器でも使用されている。この分野で当社は60年の歴史があり、当社調べではトップクラスの供給力がある。それが競争力になっている」(ミネベアミツミ電子機器製造本部電子デバイス部門センシングデバイス事業部システム技術部の能登雅俊部長)。

 ベッドの4つの脚の下にセンサーを設置。分解能10万分の1という性能(体重50kgであれば0.5g単位で測定可能)を生かして、ベッドに乗った人の参考体重、体の動き(体動)、活動量推移、呼吸波形(リズム)をリアルタイムにモニタリング可能にする。ミネベアミツミの社内研究では、センサーから推定した呼吸数や心拍数と既存の検査機器での値に相関が確認できているという。

 データは100ミリ秒ごとに取得し、ベッド下に置いたログ取得端末で生データを解析して、ベッドに寝ている、体が動いたなどの情報をWi-Fiを通じて送信する。ベッドをIoT化する仕組みと言える。

ミネベアミツミのベッドセンサーのイメージ
ミネベアミツミのベッドセンサーのイメージ

 まずは介護施設への導入を想定している。体動からベッド上の体の位置を把握し、転落しそうな人を発見して、介護士が事前に対応できるようにする。体重測定のような検診業務を軽減することもできる。

 ミネベアミツミは、キヤノンと競合に当たるリコーと共同で事業展開し、2021年3月期に30億円の売上高を目指す考えだ。リコーは自社のデジタル複合機の遠隔サポートシステム「@Remote」などで培った技術を応用し、ログ取得端末からのデータ収集、蓄積を担当する。

 既に多くの介護施設にシステムを提供している強みを生かして、販路開拓や顧客サポートもリコーが担当する。

 リコーの事業開発本部副本部長ヘルスケア事業センター所長でヘルスケアマーケティング室室長の村上清治理事は、「ベッド上の身体の動きでどこまでいけばアラートを出すのか、それは介護施設によってしきい値が違う。ここがビジネスのポイントで、既存システムではアラートが出過ぎて使えず、機能を切ってしまうのも少なくない」と指摘する。

業務をセンサーと機械学習で把握

 一方でヤフー子会社のIT企業のIDCフロンティア(東京都千代田区)と九州工業大学は、介護・看護職員の行動をセンサーで取得し、業務の実態を把握することに挑んだ。

IDCフロンティアと九州工業大学が実験で利用したスマホと専用センサー
IDCフロンティアと九州工業大学が実験で利用したスマホと専用センサー

 今年1月から3月、九州を中心に介護事業を展開するウチヤマホールディングス(福岡県北九州市)の北九州市にある施設に、スマホ内蔵も含め合計91個のセンサー機器を導入。約12億件にもおよぶビッグデータを取得して分析し、31業務とそれに要した時間を割り出した。

 結果として、食事やトイレの対応のほかに、業務の記録作業に思いのほか時間を要していることなどが判明した。「実態が定量的に把握できていないため、改善できない面がある」(IDCフロンティア データビジネス本部基盤開発部の大屋誠部長)。

 今回、九州工業大学大学院工学研究院の井上創造准教授とともにセンサーの情報から職員の行動を推測する機械学習の手法を開発した。「ある時点を考えた時、複数の作業が並行していることが多い。各作業の開始や継続時間の推定に厳密ではなく多少の幅を持たせることで、作業によっては高い精度で推定できるようになった」(井上准教授)。

 今後、機械学習による推測精度が低かった業務について改善を図るほか、他の産業での測定も検討しているという。

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