宿泊予約サイトなどがサイト利用状況などのビッグデータを活用して、宿泊施設へ収益を最大化する宿泊価格を提示するサービスが広がる。ズバリと推奨価格を提示するのか、担当者の意思決定を支援する情報の提供に徹するのか、立場は分かれる。

 スタートアップ企業のメトロエンジン(東京都港区)は、インターネット上から集めたビッグデータを活用して、宿泊施設に推奨価格を提示するサービス「メトロエンジン」を提供する。全国3万5000施設に対応しているという。

 同社が着目したのは、宿泊客の予約行動だ。場所と予算が決まっている宿泊客はまず宿泊予約サイトでその条件を入力し検索をする。検索結果として条件に合致したホテルが多く出てくるが、その中から絞り込むためにレビューの評価と写真などから判断すると仮説を立てた。そこで、ネット上で公開されているレビューや写真を集め、機械学習で解析し数値化して、施設の魅力度を算出した。

 また、競合施設の客室単価や在庫数増減の推移、地域のイベントデータなど様々なデータを毎日収集し、エリアの未来の宿泊需要を予測するモデルを作る。この需要データと競合施設の魅力度の比較により、推奨価格を算出している。

メトロエンジンの推奨客室単価の設定方法
メトロエンジンの推奨客室単価の設定方法

予約サイト、SNSからデータ収集

 メトロエンジンでは、施設向けの運営サポートにも力を入れている。

 ネット上に掲載されている施設のレビューを取りまとめ、独自の評点を付けている。清潔感、サービス、料理など様々なカテゴリーごとに評価しており、施設の強み弱みがすぐに分かるという。現在10以上の宿泊予約サイトからレビューを集めているが、今後はSNSや掲示板などからも取得できるようにし、今年中には数十サイトに対応する予定だ。

 また、インターネット上から集められたイベント情報も管理画面でまとめて見ることができる。主催者が発表している想定動員数も表示されるので、需要の参考になる。

 現在はホテルの予約、宿泊、顧客などを管理するプロパティ・マネジメント・システム(PMS)と連携するための開発を進めている。今秋には開発が完了し本格稼働する予定だ。PMSと連携することによって、推奨価格が最適かどうかの評価ができるようになるという。

 「PMSと連携するための初期開発には時間がかかる。引き合いは多いが待ってもらっている状態だ」と代表取締役CEOの田中良介氏は話し、大手PMSから対応を進めている状況だという。

 「ホテルは自社サイトで予約につなげたいという要望も強い。メトロエンジンで自社サイトに集客できる仕組みを構築することにもチャレンジしたい」と田中氏は今後の展望を語る。

Booking.com独自データで予測

 オランダのBooking.comは、世界で130万以上の施設を登録し、毎日140万泊の予約が発生している世界最大級の宿泊予約サイトを運営している。日本国内の登録施設数は1万2000軒を超えた。

 同社は無料サービス「RateIntelligence」を通じて、360日先までの当該エリアの需要データや登録した競合施設(5施設まで)の料金データを閲覧可能にしている。需要データは、Booking.com内で発生するデータから算出する。予約の利用状況やユーザーが施設を検討する動きを基にして、エリアを絞り込んで需要を予測しているという。

Booking.comが提供する競合と自社の価格やエリアの需給推移グラフのイメージ
Booking.comが提供する競合と自社の価格やエリアの需給推移グラフのイメージ

 「需要データは訪日外国人が多い東京や京都などのエリアで利用価値が高い。欧州において強みをもつBooking.comはインバウンドのお客様の利用が多いのが特長だ」とBooking.com Japanブッキングスイートスペシャリストの田原口摂氏は説明する。

 さらに付加価値の高いサービスが「RateManager」だ。同サービスはPMSと連携させることで推奨価格をズバリ提案する。しかし日本のホテルで使われるPMSとは連携が進んでいない。そこで今秋、RateMangaerをPMSと接続しなくても推奨価格を提案できるようにする。Booking.comの130万の施設データと、連携先の航空会社の予約状況データなどを用いて、推奨価格を出すのに問題ないレベルになってきたという。

Booking .comが提供する1部屋の推奨価格の画面イメージ
Booking .comが提供する1部屋の推奨価格の画面イメージ

 月額1万円からの費用は下げる方針。PMSと接続するサービスは「RateManager Plus」という名称として、3サービスを展開していく。

 欧州ではすでにPMSと接続して推奨価格を提案するサービスの効果検証は進んでいる。推奨価格通りの価格設定をすると、売り上げを販売可能な客室数で割った値(RevPAR)は世界平均で7%上がったという。

意思決定支援に徹するリクルート

 宿泊予約サイト「じゃらんnet」を運営するリクルートライフスタイルは来年春、宿泊施設向けに新サービス「レベニューアシスタント」の提供を始める予定だ。じゃらんnetの利用状況などから導き出される需要予測データを活用し、宿泊施設の適正な価格設定を支援する。

 同サービスはPMSと連携させて利用する。宿泊施設単位・エリア単位での現在と過去の予約状況の比較、エリア単位で宿泊需要予測、宿泊施設単位での販売数予測、競合宿の価格設定状況といったデータを提供する。利用料金は未定だが、宿泊施設の部屋数に応じた月額課金となる。

 リクルートライフスタイルのネットビジネス本部旅行事業ユニットプランニンググループの宮田道生グループマネジャーは、「宿泊価格を最終決定するのは宿になる。我々はデータサイエンスを使い、その意思決定を支援する情報を提供する」と説明する。

 宿泊施設自身の過去データだけで販売数を予測するより、じゃらんnetのデータも加えることで精度が高くなるのが特長だ。じゃらんnetは、2万6416軒の宿泊施設(2017年6月時点)が登録しており、予約受付人泊数(2016年4月〜2017年3月)は9644万人泊に達する。

 レベニューアシスタントの実証実験は昨年初めに始まった。当初は、推奨価格の提示を目指していた。しかし宿泊施設へヒアリングをしていくと、「推奨価格に価値を感じないクライアントの声もあった。宿泊施設がこれまで勘(K)と経験(K)と度胸(D)のKKDで決めていた精度を上回るとは約束できない。人工知能(AI)技術は過渡期なので信用に足るところをまず提供したい」(宮田氏)と考え、当初は意思決定を支援するデータを提供していく。

 導入先に実際にレベニューアシスタントを運用してもらいニーズを見ながら、推奨価格の提示も検討してきたい考えだ。

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