三越伊勢丹ホールディングスが運営する伊勢丹新宿本店の婦人靴売り場で、独自開発した女性用パンプス「8cmのハイヒール」が飛ぶように売れた。今年3月の発売直後から追加注文が入り、1カ月半足らずで100足を販売。ハイヒールの中でベストセラーとされる定番の商品でも、この婦人靴売り場では年間約300足の販売数だというが、8cmのハイヒールは年間500足ぐらい売れるとみられている。ハイヒール分野の中では異例の売れ行きだという。

 そのヒットの理由が取材で明らかになった。ヒットの裏には、会員数が約260万人のクレジットカード「エムアイカード」の購買データと接客による定性情報の分析をベースにした仮説と検証があった。

ハイヒール購買層に異変

 伊勢丹新宿本店の婦人靴売り場は、ターゲット層ごとにいくつかのゾーンに分かれている。ヒットが生まれたのは、2万円以下の価格帯の商品をそろえた20代~30代の女性をターゲットにしたゾーンだ。売り上げの62%は20代と30代など40歳未満の顧客。ところが、ハイヒールのベストセラーモデルについては、40歳以上が45%を占めていた。しかも、ここ2年間、40代のシェアが上がっていることが、エムアイカードの購買データから分かった。

 「これまでの常識では考えられないこと。年齢を重ねるごとにヒールが低くなるのがこれまでの傾向だったから。でもそこに40代女性の潜在ニーズがあるのではないかと考えた」と、三越伊勢丹婦人雑貨統括部婦人雑貨第一商品部バイヤーの宗友良諭氏は話す。

 伊勢丹の靴売り場には、シューカウンセラーがいて、足の形を見て最適な靴を顧客に薦める。年齢とともに筋力が衰えて足の幅が広がってくるために低いヒールのパンプスなどを薦めることになるが、40代女性の中には「それではない」と言う顧客がいた。「どうもお客さまは8cm以上の高いヒールのパンプスを探しているようだ」という仮説を立て、接客の中で検証していった。

 接客を通じた仮説検証の結果、筋力が弱くなり始める40代をターゲットにした「履きやすく疲れにくい8cm以上のハイヒール」を商品化することになった。昨年9月のことだった。「今の40代女性はファッションを楽しんでいる人が多く、オンとオフのスイッチははっきりしている。高いヒールの靴を履くときは履く。ただ、足に負担をかけているのではないかと考えた」と、宗友氏は解説する。

 履きやすくて疲れにくい8cmのハイヒールを商品化するのに半年。開発期間は通常の商品の2倍かかったという。靴メーカーやスタイリスト、バイヤーで修正を繰り返した。

データ分析などから40代女性のニーズをつかみ、異例の大ヒットとなった「8cmのハイヒール」
データ分析などから40代女性のニーズをつかみ、異例の大ヒットとなった「8cmのハイヒール」

 まずは、かかとに注目。足の幅が広がると、大きめのサイズに切り替えることになるが、問題があった。かかとのサイズが合わないのだ。年齢を重ねてもかかとは大きくならないからだ。8cmのハイヒールは、かかとは小さいままで、足の幅を少し広げてストレスをなくした。

 8cmのヒールになると、かかとが上がり、足がキレイに見える。ただし、つま先とかかとを結ぶ線の傾斜がきつくなり、足に負担がかかる。ヒールの高さはそのままで足の負担を軽減するために、靴の前の部分に高さ1cmの上げ底をつけたことで、見た目は8cmだが履き心地は7cmのハイヒールにした。「1cm違うだけで足の負担が軽くなる」(宗友氏)と言う。

 データによって40代女性にハイヒールへの高いニーズがあるという仮説を立て、接客を通じて検証。履きやすくて疲れにくい「8cmのハイヒール」のヒットにつながった。データに裏付けられているからこそ、スタイリストが仮説を基に接客で検証して、40代女性の見えないニーズを発見することができた。

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