九州大学は昨年から、電子教材を活用する講義の教師へのリアルタイムフィードバックを実施。講義の改善に取り組んでいる。今年度前半には、新1年生2700人、15クラスを対象にある必修科目の講義状況をリアルタイム把握。教師による学習効果の違いなどが一目瞭然となった。

 九州大学は一昨年から情報系科目を中心に、学生1人ひとりに電子教材を使わせて、授業中と前後の状況をリアルタイムで把握。自ら積極的に継続して学習できる人間(アクティブラーナー)の育成に取り組んでいる。

 学生個々の状況に合わせて学びやすい環境を提供するのが、アクティブラーニング。それに対して、教師が通り一辺の講義ではなく、現場の状況に応じて講義の進行を調整していくというのが、アクティブティーチングだ。九州大学は最近、このアクティブティーチングに力を入れている。

 学生が講義内容の理解で苦戦しているのであれば、講義のスピードを落としたり、説明を強調したり、補足したりできるように教師をサポートするのが、教師向けリアルタイムフィードバックだ。

テスト結果で講義資料を自動生成

 昨年後半、九州大学は講義前に実施するテストの正答率が低い設問に対して、これを解くために必要な資料を自動的にマイニングする技術を開発した。

 この技術の効果を検証するため、2人の教師を対象に実験をした。教師Aには同機能を使って正答率の低い設問に関する資料を教材として表示。教師Aはその資料を基に説明を強調したりした。その結果、学生が教材にブックマーク(電子しおり)した件数は23件となった。

 それに対して、教師Bには同じ電子教材を使いながらも、正答率の低い設問に関する資料のリアルタイムフィードバックをしなかった。すると、ブックマークの件数は7件と低く、教師Aに習った学生の方が事後テストの正答率も高くなった。

 図(授業進行の調整の効果)は、講義のリアルタイムヒートマップだ。青は、学生が講義について行けていない状態、緑は教師と同じペースで電子教材の同じページを開いている状態を示す。赤はそれより先のページを開いていることを示している。

授業進行の調整の効果
授業進行の調整の効果
青は、学生が講義について行けていない状態

 明るい色は予習してきた学生、暗い色は予習してこなかった学生を示す。予習してきたのに講義に遅れているのか、予習してきたから講義について行けるのか、リアルタイムで把握できる。この図からもリアルタイムフィードバック機能があった方が、学生のブックマークやマーカーの利用が多いことが分かった。

1年生全員の学習データを分析

 九州大学は2014年4月から、主に1、2年の学生を対象にアクティブラーナーになってもらうことを目指す教育プログラムとして、基幹教育を実施している。その1つとして今年度の春学期からは、新1年生2700人に対して、「サイバーセキュリティ基礎論」を必修科目にした。

 2700人全員が同じ資料で電子教材による講義を受けるのは、今回が初めて。これによって、10人の教師による全15クラスの講義を比較できた。

 図(閲覧ペースの可視化)は、講義状況を示したもの。学生1人ひとりに対して、クラスの他の多くの学生たちが開いているページと同じなら黒、前のページを開いていれば青(講義について行けていない状態)。先のページを見ていれば赤になる。図は1クラス(約200人)分を表示したもので、縦軸は約200行、横軸は90分の時間となる。

閲覧ペースの可視化
閲覧ペースの可視化
1行が1人の学生の90分間の閲覧状況に対応。黒は講師と同じページを、赤は先のページを、青は前のページを見ている時間

 前半は比較的黒いが、ところどころ赤くなっている。時間がたつにつれて青が増え始めていることが分かる。講義内容を理解できず、集中力が切れたのか、講義の後半にかけてついて行けなくなる学生が増える。

 全クラス、4週分を並べると、どのクラス(図中ではCourse)が、講義について行けなくなる人が多くなるか、把握できる(下図)。例えば、どんどん講義を進める教師の場合、複数のクラスで青色が増えていく。

学年全体の講義データの分析結果
学年全体の講義データの分析結果
同じ資料を使って講義している15クラスを4週間にわたって分析

 学生1人ひとりのブックマークやマーカーの使用状況や、資料の閲覧状況をクラス全体で集計すれば、受講状況のスコアを出すことができる。どのクラスが、よくブックマークやマーカーを活用したのかが簡単に把握できる。

 今回、2700人の学生を受講状況データを基に複数のグループに分類した。いくつか特徴のあるグループが見つかった。その中ですごいグループが見つかった。2人しかいないグループで、講義中は、教師が開いているページの先を見ていた。その結果、4週間を通して小テストはほぼ満点。正答率は98.8%だった。本当に中身が分かっているので、違うところを見ていたと推察される。

 さて、春学期の8週間の講義が終わると、8月中旬に最終成績が教師から上がってくる。その結果を分析して、9月に教師が集まって反省会を開く。

 サイバーセキュリティ基礎論の電子教材は各回で分量は異なり、約20~約80ページと差がある。教師は毎回、どのページに時間をかけて説明するのか、メリハリをつける必要がある。その際、参考になることがある。自他ともに認めるサイバーセキュリティ専門家の教師のデータだ。専門外の教師は、この教師のデータを参考にしながら、時間配分を考えたという。

 学生にとっては、約80ページの電子教材の中で、どのページが最も重要なのか知っているかどうかが、小テストの際にポイントになる。だから賢い学生は、教師が「重要だからよく覚えておくように」と言ったページにブックマークを付け、小テストの際にそのページを見て回答したりするという。

 こうしてデータから得た知見を共有し、講義内容の向上に結びつけていく。

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