ヤフー子会社のIT企業のIDCフロンティア(東京都千代田区)は、九州を中心に介護事業を展開するウチヤマホールディングス(福岡県北九州市)などと共同で、介護・看護職員の行動をセンサーで取得し、業務のムダを削減するなどの取り組みに乗り出した。今年3月にかけて合計91個のセンサー機器で、約12億件にもおよぶビッグデータを取得。機械学習を活用して分析し、31業務に要した時間などを割り出したところ、業務記録に最も時間を要していることなどが判明した。

作業ごとに要している時間の割合
作業ごとに要している時間の割合

 IDCフロンティアは、ウチヤマHD傘下企業の北九州市にある介護付有料老人ホームで、今年1月から3月まで、介護士22人、看護師5人を対象にデータを取得した。今回の目的は介護士や看護師の実際の行動を手間なく把握することだ。「そうした実態が定量的に把握できていないため、改善ができない面があると考えた」(IDCフロンティア データビジネス本部基盤開発部の大屋誠部長)。

 分かったことは、業務内容の記録が1日のうち大きな割合を占めていることだった(図)。介護業務では約1割が「個人記録」の作業だった。1日8時間とすると約50分となる。ウチヤマHDの内山文治社長は、20人の職員がいるとして記録時間が半分になれば1日に約8時間の時間が生まれ、1人分の作業量が生み出されることを示した。

各フロアの時間・業務ごとの作業内容を分析した
各フロアの時間・業務ごとの作業内容を分析した

 また、データで各フロアの作業量を可視化して職員と検討した結果、「人手が不足した際に、フリーの人が互いにフロア間でヘルプすれば効率化する」(IDCフロンティアの大屋部長)といった声も上がった(図)。このほか未習熟な職員の作業時間が、他の職員と比べて思ったほど長くないといったことも分かったという。

 カメラで各部屋や廊下、ステーションなどの動画を撮影して把握することも選択としてはあるが、プライバシーの問題から一般的なセンサーを選択した。胸ポケットに付ける小型の専用装置と、スマートフォン内蔵の2つのセンサーから情報を取得する。

介護士が記録した「行動ラベル」を正解データに

 取得した情報は加速度のほか、専用センサーでは気圧、対面温度、湿度、地磁気、スマホでは角速度、方位、照度である。合計で約12億件のレコードを取得しており、容量は3.9ギガバイトに上るという。このほか居室のベッド横などには、照度、温湿度を取得する館内設備用センサーを設置した。それらのデータをクラウド上に集約し、スマホで介護士などが自ら記録した実際の「行動ラベル」を正解として機械学習を実施。合計31種類(介護24種類、看護25種類)の業務の行動をセンサー情報だけで判断できることを目指した。なお、各担当者のフロア内の場所は、館内設備用センサーのIDとスマホのIDを照合することで割り出した。胸ポケット装着用、スマホ、館内設備用を合わせたセンサー機器の数は合計91個である。

胸ポケットに付ける専用センサー
胸ポケットに付ける専用センサー

 1カ月間の前半の15日分などのデータで学習し、その後評価と改善を行うことを繰り返した。介護の実施時は複数の業務が並行する場合もあるため、特定の時刻の行動を個別に推定するのではなく、1日の間の業務に伴うとみられる行動の開始時刻、行動の継続時間を推定することにした。分析の結果、開始時刻は「休憩」「朝礼」の行動を9割以上、「申し送り」「モーニングケア」の行動を6割以上の精度で認識。継続時間については、9つの行動で8割以上、それもあわせて合計15の行動で6割以上の精度で認識できたという。これらの情報を用いて、最終的に1日にどの行動をどの程度の時間行ったのかを独自の機械学習で推定するのが最大の目的だ。

スマートフォンの作業内容の登録用アプリ
スマートフォンの作業内容の登録用アプリ

 センサーは主に加速度の情報を利用したが、専用センサーとスマホのセンサーを併用した理由は大きく2つある。1つは機械学習の正解データを作るため。当初、職員が実際にスマホ上のアプリで実施した作業を登録していった。後から行動を追加して登録することも行った。もう1つがそれぞれのセンサーの特性に得意・不得意があることだ。今回、専用センサーはスマホにBluetooth経由で接続し、データをサーバー側に送信する必要があった。バッテリーに関しては、スマホは毎日充電する必要があったが、専用センサーは1週間程度は連続で利用することができた。

 実験にはIDCフロンティアとウチヤマHD以外に、レッドハット(東京都渋谷区)と九州工業大学も参加した。レッドハットはデータを収集・蓄積するクラウド環境のアプリケーション基盤「OpenShift Container Platform」を提供。「今後、他社や他の業種などに展開し、データの量や種類、頻度が増えても、容易かつ迅速に拡張できる構成にした」(レッドハット)という。九工大はIDCフロンティアとともに、機械学習による行動の認識やデータ分析に取り組んだ。今回の機械学習の手法をはじめとした一連の取り組みについては、九工大とIDCフロンティアが情報処理学会で論文を発表している。

 今後、センサーデータを基にした行動認識の精度を改善していく一方で、今回の仕組みを「他の産業にも横展開していきたい」(IDCフロンティアの大屋部長)としている。対象としては飲食業や運送業などが想定されるという。

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