大企業とスタートアップのマッチングサービスを提供するCreww(東京都目黒区)と東大大学院工学系研究科の松尾研究室(松尾豊特任准教授)は、人工知能(AI)を活用して連携の可能性が高い組み合わせを見いだすアルゴリズムを開発した。また、スタートアップが「統計的には今後X%成長する」と成長の可能性を測るアルゴリズムも開発。ともに基本的に無償で公開していく考えだ。
Crewwは東大・松尾研と2016年夏から共同研究を続けており、マッチングの精度が実用化に向けて十分な域に達したと判断し、今年7月以降サービスで本格的に活用していく。Crewwの伊地知天代表取締役は「スタートアップの中には、実力があるのにシナジーがある大企業と巡り会えていなかったり、成長の可能性を逃していたりする場合がある。こうした障壁をなくしていきたい」と狙いを語る。
IoTやAI、ビッグデータ活用の関連などCrewwには約2800社のスタートアップが登録しており、オープンイノベーションを推進したい大企業とのマッチングサービス「コラボ」を提供している。参加するスタートアップへの告知→大企業と各スタートアップでの情報交換→参加スタートアップによるプレゼン→大企業による採用までのプロセスを3カ月で支援している。この後、両者が協業を進め、「市場でのテストまでこぎ着けた、コラボレーションのシナジーが見込めるケースを“正解”としてモデルを構築している」(伊地知代表取締役)。

Crewwはこれまで80回以上のコラボを開催し、毎回10社前後のスタートアップが最終プレゼンテーションに臨んでいる。合計で3120件の提案事例のうち347件が市場化のテストまで至った正解と判断してデータを入力し、アルゴリズムを開発した。
具体的には、東大・松尾研が以前から研究してきた手法を基に以下のような方法で、モデルを作成した。
まずすべての事例について、「決定木学習」と呼ぶ手法で、資本金や創業年などの企業基本情報に加えて、新規事業の推進体制、理念など450の項目についてどのような情報があるのかを分析した。全ての事例で全項目の情報があるわけではないので、この処理によって、情報を穴埋めする。その項目が「ゼロ」や「空白(Null)」となることで、予測精度に大きな影響を与えることを回避するのが目的だ。過学習になるような不要なデータの削除もしている。
その後、データセットから複数のアルゴリズムを生成して最適化する「アンサンブル学習」をして、「グリッドサーチ」でパラメーターを調整しながらモデルを作成する。
実際に提供する際には連携の可能性が高い300社をリストで提示。ある大企業のコラボの場合、エントリーしてきた50社のうち、26社がそのリストにあり、24社はリストに入っていなかった。これに対して大企業側は、9社を最終プレゼンテーションに採用。そのうち8社はリストにある企業で、1社はリスト外だった。最終的に市場化テストにつながる協業を決めた5社はすべてリスト内の企業だったという。ただ「採択していない企業も新たな連携の可能性が高い」(伊地知代表取締役)という。
スタートアップの成長可能性が分かる
Crewwと東大・松尾研は企業マッチングのほか、スタートアップの成長可能性についてもアルゴリズムを開発した。「スタートアップは将来の可能性を基に評価されるべきだが、それについての明確な指標がなく、実力があるスタートアップに資金が供給されていない可能性がある」(伊地知代表取締役)。
モデルを作る際に活用した情報としては、企業の基本情報のほか、資本金や資金調達、株主の構成などである。国内外のスタートアップの資金調達情報なども入力している。構築したモデルを利用することで、企業情報を入力すると「統計的には今後X%成長する」といったサービスを提供できるようになる。
Crewwの伊地知代表取締役は「金融機関が活用することでスタートアップにとってプラスになるし、大企業によっても新たなシナジーを生み出す効果がある」として、今回開発した「マッチング」と「成長可能性」のモデルについては、基本的に無償で公開していく考えだ。