富士フイルムは、全社におけるIoT(Internet of Things)の推進に向けた体制の確立を加速している。経営陣にIoTの担当を置き、データ活用を支援する研究所を立ち上げた。さらに研究開発と各事業部同士の連携などをITで支援することで、IoTを活用したサービスや製品の開発を加速する。
6月29日付けで柴田徳夫執行役員が常務執行役員に昇格し、新設のIoT推進担当となった。IoT担当としてデータサイエンティストを擁するデータ活用の研究所、ITシステム基盤の両方を掌握し、全社のデータを研究開発の各セクションで生かす体制を構築していく。
柴田常務執行役員が掌握するのがIoTや人工知能(AI)についてのデータ活用を統括する「インフォマティクス研究所」だ。今年4月、同社の15個目の研究所として、神奈川県開成町の先進研究所内に設立した。近々、都内にも分室を設置予定である。
メンバーとして情報科学や計算科学、画像処理などの分野のデータサイエンティストを約20人集約した。富士フイルム R&D統括本部インフォマティクス研究所の杉本征剛副所長は「これまでは個人技だったが、AIやIoTの急速な流れの中では全社で対応していく必要がある」と説明する。
インフォマティクス研究所の目的は、(1)データを使った革新的な材料などの発見、(2)IoTやAIを活用したイノベーティブな製品やサービスの開発、(3)データ活用の人材育成──である。例えば、(1)は物理的な特性から新材料を発見しようとする他の研究所にデータによるアプローチを提供することで、これまでのハードルを乗り越えることを目指す。(2)は全社のサービスや製品、技術を掛け合わせていくが、高速なプロトタイピングにも取り組んでいく。(3)は現場でデータ活用できる人材を育成するほか、社内にいるデータサイエンティスト人材の見いだしにも取り組む。

グループのハブとなるデータ基盤も整備
データの面でも全社の統合を目指す。昨年10月にビッグデータを蓄積し管理するデータレイク製品を導入した。富士フイルムの様々な事業部のデータを集約することで、「グループのハブとなり、事業部間のデータ連係を容易にする。セルフで活用し、他事業部の有用なデータに気づくなどの活用をしてもらいたい」(富士フイルムICTソリューションズ システム事業部 ITインフラ部の高津京子氏)との狙いがある。
データレイクの基盤には米ピボタルの製品を採用した。「ストレージ容量の追加などスケールアウトが容易にできることと、コストパフォーマンスの面から選択した」(富士フイルムICTソリューションズの横山立秀取締役兼システム事業部長)。現時点で70テラバイトの容量があり、容量には余裕があるという。
現在は約8種類のデータセットをデータレイクに格納している。具体的にはヘルスケアなどいくつかの事業のWeb販売ログ、店頭販売機の操作などのログ、生産実績など多岐にわたるデータが登録され始めている。現段階では、インフォマティクス研究所が支援しながら、各事業部のデータをデータレイクに登録している。実際にデータを掛け合わせた分析などは今後本格的に取り組んでいくが、「さらに多くの部署に使ってもらうため、データの整形や登録、分析を簡単にする仕組みを今年度中にさらに整備していく」(高津氏)との方針だ。