AI特集の第3回はディープラーニングの活用事例を取り上げる。音声や画像の認識精度が上がるだけでなく、その結果として、活用範囲が大きく広がっている。三越伊勢丹は店内レイアウト最適化のABテストに、シャープはお掃除ロボットの会話機能に活用した。

 機械学習の一種であり、人間が教えなくても抽象的な特徴量を抽出して、課題を解ける点で優れているのが、ディープラーニング(深層学習)技術だ。ここ1~2年、特に画像や音声認識の分野で活用が進んでいる。

ディープラーニングで音声認識精度向上

 NTTの研究所は、ディープラーニングを活用して音声認識技術サービスの精度を向上させた。大学の講義など一般的な音声を対象にした場合、従来方式の単語正解精度が71.8%なのに対して、ディープラーニングを単純に活用した方式でも77.3%になるという。

自由な話し方の音声をより高精度に認識
自由な話し方の音声をより高精度に認識

 利用企業はコールセンターにおいて、消費者の問い合わせとオペレーターのやり取りを音声認識して、テキストデータ化している。クレームに関する声や、新たな新サービスのヒントになる声などに分類して、活用しているのだ。

 NTTの研究所では常に音声認識技術の改良に取り組んでいる。「いま使われているディープラーニングを活用した音声認識技術は、自然に話をした言葉の認識で単語正解精度77.3%を実現している。さらに深層学習言語モデルを加えて分析することで、81.4%を達成している」と、日本電信電話NTTコミュニケーション科学基礎研究所の山田武士・企画担当主席研究員は解説する。

 ヤフーは5月、同社の音声認識エンジン「YJVOICE」にディープラーニングを導入し、運用を始めた。従来技術に比べて誤り率が約3割改善している。騒音下での認識率を上げるという機能の改善だ。全社共通のインフラとして位置づけていき、外出先でのスマートフォンを通じた音声検索の性能改善などに活用し顧客満足度の向上を目指す。

深層学習で高精度な雑音除去も実現
深層学習で高精度な雑音除去も実現

 シャープは、お掃除ロボット「ココロボ」の音声認識に、ディープラーニングを活用している。ココロボは、人間の音声を認識して、返事をする。「おはよう!」と言えば、「おはよう!」と返してくれる。2年ほど前までの機種では、100語程度の言葉しか認識できず、例えば、「おはよう」は認識できても、「おはようございます」は認識できなかった。100語程度の音声パターンしかココロボに搭載しているメモリーに登録していなかったからだ。

 音声認識の能力を高めるために、ココロボに通信機能を装備。ココロボに話しかける人間の言葉をクラウドに送り、そこでシャープ独自開発のディープラーニング活用の音声認識システムで認識し、その言葉に関連する言葉をココロボから発声する仕組みに切り替えたのだ。

 認識できる語は数倍に増え、より自然にココロボに話しかけられるようになった。シャープは、掃除機ロボットをはじめ、冷蔵庫や洗濯機、エアコンなどをクラウド連携して、音声認識機能などを搭載していく戦略がある。その1つの狙いは、家電が持つ豊富な機能をより使いやすくすることで利便性を実感してもらうこと。そしてもう1つは、家電の使い方を通して顧客を知ることにある。

 「日曜日にゴミの量が増えるのは、土曜日に何かをやっているからに違いない。冷蔵庫は室内の温度を分かっている。データがどんどん集まってくれば、そのデータを分析して新たなサービスを展開できる」と、シャープ 健康・環境システム事業本部の阪本実雄副本部長兼インテリジェント家電推進センター所長は話す。

画像認識率向上で新たな事業

 映像解析もディープラーニングが得意とするところだ。スタートアップ企業のABEJA(東京都港区)は、監視カメラを使って顧客の店内の回遊状況を把握し、店舗レイアウトや在庫、店舗スタッフのシフトの最適化を実現するソリューションを提供している。

 ディープラーニングを活用して映像を解析することで、監視カメラに映った顧客の性別や年齢を判別できるという。店舗は一般に、POSレジを通った顧客の購買商品データは持つが、店内を回遊して購買に至らなかった来店客のデータは保有していない。ディープラーニングで来店数やその属性データを生み出し、最適化を可能にする。ABEJAのソリューションの顧客数は数十社に上っているという。

 そのうちの1社が三越伊勢丹ホールディングスだ。三越独自の菓子のセレクトショップ「菓遊庵」の店舗レイアウトを最適化するために、ABEJAのソリューションを使った。1つの試みは、よく売れている商品の置き場所に関する洞察だった。1週間ごとに置き場所をAパターン、Bパターンと変えてみた。いわゆるABテストだが、結論はよく売れる商品を奥に置いてもその商品の売れ行きは変わらず、顧客の回遊範囲が広がったことが分かった。

 米シリコンバレーで働いていたABEJAの岡田陽介代表取締役CEOは、「米グーグルや米フェイスブックがディープラーニング技術に投資するなど、騒ぎ始めていた。日本に戻ったら、当時は機械学習もディープラーニングもまだやっていなかった。最初は小売業で画像(の分析)かなと思い、ディープラーニングありきで事業を始めた」と話す。

 冒頭で紹介したトライアルもディープラーニングの活用にも乗り出す。具体的には、万引き犯の行動をAIに学習させて、入店と同時にアラートを出して、防ぎたいとする。万引きを専門とする警備員のノウハウも取り込んでいく。これも一種の予測だ。

AI活用で確実な効果を得る

 ディープラーニングなど機械学習の活用事例を紹介してきたが、AI活用で忘れていけないことがある。ブームだからといってただ闇雲に活用してはダメだということだ。AIを活用することで、確実に売り上げが上がったり、コストを下げたり、価値のある新しいサービスを提供できたりといった、成果が見えなければ、手を出しても意味はない。

 その意味では、2008年にいち早く無人ダンプトラックを商用化したコマツの考え方が参考になる。人工知能を活用した無人運転車は既に世界で100台弱走っており、この分野で先行している。無人ダンプトラックの開発を牽引した黒本和憲取締役は商用化の経緯をこう話す。

 「まさに必要に迫られて商用化した。鉱山はとても過酷な現場。超大型の有人ダンプトラックが24時間、365日、例えば4km離れた場所を行ったり来たりしている。夜中には事故がしょっちゅう起きる。人間がやる仕事ではないし、もともと人間には酷な仕事、だから無人化した」

 無人トラックは、中央管理システムの指示に従って動く。ただし、周囲に対する安全センサーを持っているので退避行動は無人トラックが行う。精緻な運行ルートを割り出す中央管理システムと末端の無人トラックがインテリジェンス(知能)に関して役割を分担しているわけだ。

 コマツは必要に迫られて無人ダンプトラックを商用化したのである。AIを活用するうえでは、明確な成果を常に見ながら、地に足が付いた事業化が必要になる。ブームに踊らされず、活用することで得られるメリットをしっかりと押さえていく必要がある。

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