機械学習の活用領域は幅広い。AI特集の第2回は、あきんどスシローにおける入店までの待ち時間から、大林組における建物の電力需要まで、様々なデータを基にした予測への活用事例を紹介する。

 機械学習を活用して待ち時間の予測精度を2~3割改善したのが、回転寿司最大手のあきんどスシロー(大阪市吹田市)だ。

 スシローは休日ともなると、2時間待ちといった状況が多く発生しており、「顧客の満足度を引き下げかねない」(スシローの田中覚情報システム部長)状態が続いていた。

 そこで待たずに入店できるよう、スマホのアプリで来店を予約できるサービスをこの3月に始めたが、特によく混雑する店ではアプリの提示した時間と実際に入れる時間に大きなズレが出ることがあった。予約も多いが、キャンセルする顧客も多いためだ。席に着いた顧客が思ったよりも長く滞留することもある。

 そこで、店ごとの“癖”を、機械学習によって精緻に把握することに乗り出した。具体的には、1組が席に着いてから次の顧客が何分後に入れるのかどうかの待ち時間を学習し、予測に利用する。

13万4400パターンを学習

 曜日・店舗別に30分ごとの待ち時間を学習し、予測する。そのパターンは400店舗×7日×24時間×2(30分おき)で13万4400パターンに上る。これだけの数を学習し、予測するためには、「機械学習が必要不可欠だった」(田中部長)。予測したい「次の顧客が席に着けるまでの時間」の実データは、店員が顧客を席に案内する際に入力する端末の情報を使う。

 今後、キャンセル率や顧客の滞在時間の予測も加味して、さらに精度を上げていく計画だ。待たずに済むなら来店する客も増え、同社の収益向上に貢献するはずだ。

 外食ではすかいらーくも、機械学習で顧客の反応を予測している。

 「ガスト」の公式アプリ利用者へのワン・ツー・ワン・マーケティングの精度を上げるために、今年から機械学習ツールの習得と試験的な活用をスタートした。約300万人のアプリ利用者にクーポンを配信する際、これまでの経験や勘に頼ったターゲティングよりも、機械学習を使ったターゲティングのほうがクーポンの利用率が3倍程度向上することを確認した。

新商品の需要を誤差1%内で予測

 新商品の需要予測に機械学習を活用しようとしているのは、アサヒビールだ。実は同社は昨年、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールを活用して新商品の需要見込みを立て、流通在庫の適正化を図ったが、必ずしも満足がいく結果が得られなかった。発売前後の販売数量と似たような動きをした過去の類似商品を抽出。BIツールを使って需要の強さを見通していた。

アサヒビールは新商品の需要の予測に活用
アサヒビールは新商品の需要の予測に活用

 ただし、類似商品といっても所詮は違う商品であり、販売時期など条件が異なり違う動きがあった場合、その理由が分からないことがあった。最終的には、販売のベテランが持つ経験と勘に頼らざるを得なかったという。

 今回、本格的な需要予測に乗り出すことになり、機械学習の1つであるNECの「異種混合学習技術」を導入する。既に過去の販売データを基に、この技術が需要予測に使えるかどうかを検証。発売後の需要予測については、ほぼ使えるレベルの精度を得たという。

 発売日から28日(4週)後までの需要を予測。検証では誤差率10%以内の商品も多く見られた。中には1%以内の商品もあったという。一部で突発的な需要減少を予測できないケースもあった。例えば、競合が新商品を投入して、需要が急落したケースだ。そこで、カレンダーの情報や出荷情報、気象情報、チェーン採用情報などに加えて、競合の出荷情報のデータも入力したところ、需要予測の精度が上がったという。

競合の情報を加えることで予測精度を改善
競合の情報を加えることで予測精度を改善

 アサヒビール経営企画本部デジタル戦略部の松浦端部長は「使えるめどが立った。近々判断して、今年夏から秋にかけて新商品の需要を予測して流通在庫の最適化を図りたい」と話す。今回のプロジェクトを担当する経営企画本部デジタル戦略部の山本薫担当副部長は、異種混合学習技術を採用した理由をこう話す。

 「予測精度と結果の解釈性を両立させていること。つまり『なぜその予測結果が得られたか』、理由が説明できるからだ。また、小売業での事例も多く、需給分析のノウハウがある」

 異種混合学習技術は、条件によって予測する計算式(アルゴリズム)を変えている。一例を説明しよう。まず予測対象日が日曜日かどうか。日曜であれば専用の予測式がある。日曜日でない場合は、発売1週間の合計出荷数で、次の条件が変わる。一定量より多い場合は、例えば商品カテゴリーがビールかそうでないかで選択して、予測式が決まる。予測式を選ぶ条件をたどることで、結果の解釈性(選択条件)を理解できるというものだ。予測式そのものもAIが作り出すのが、異種混合学習の特長だ。

需要の予測で電力量を3割削減

 異種混合学習技術を活用して、電力量の需要を精緻に予測しているのが、大林組だ。既に今年4月から東京都清瀬市にある技術研究所で、電力需要予測システムを本格稼働させている。過去の電力需要や気象、気象予報などのデータを機械学習で分析して、常に30分ごとの電力需要を1週間分予測している。30分ごとにその条件に応じて予測式(アルゴリズム)を選択して、算出している。

大林組は30分ごとに予測式を選択して電力需要を予測
大林組は30分ごとに予測式を選択して電力需要を予測

 「4月からデータを取って、毎月細かいデータを見ながら運転がうまくいっているか確認している段階。ベースとなっている電力需要予測については数ポイントのズレで済んでいる」

 大林組の技術研究所には、最大で700kW発電できる太陽光発電機、500kW×6時間分の蓄電池、発電量457kWの発電機(ガスエンジンなど)がある。精緻な電力量の予測を基に、契約電力量を2500kWから1700kWまで約3割下げたうえで、全体のランニングコストを下げるというのが目標だ。そのために、太陽光発電機や蓄電池、発電機をどう動かしたらいいか、計画を立てている。

 なるべく太陽光発電機を使えば、ランニングコストを抑えることができる。土日の電力使用量は200kW程度になるので、晴れていれば電力を購入せず太陽光発電機だけで賄うことができる。前日までに蓄電池を放電して新たに蓄電する容量を確保すれば、太陽光発電で余った電力を蓄電池に充電できる。結果、平日に購入する電力も減らせるのだ。

 「ランニングコストを下げるうえで重要なのは、異種混合学習技術を活用した電力需要予測だ。10~20の予測式を自動で算出し、見直しも自動でやってくれるので、この技術を採用した」と、大林組技術本部の小野島一統括部長は話す。アサヒビール同様、なぜこの予測式を選択したのか、因果関係を知ることができる点も選択した理由だ。

契約電力を超える場合に備えて休日に蓄電池を充電
契約電力を超える場合に備えて休日に蓄電池を充電

 自ら検証したことによって、大林組は異種混合学習技術を活用した電力需要予測システムを他社に売り込む。現在、3~4社に提案しているという。「3.11以降、いざというときのために、太陽光発電機や蓄電池、発電機を導入する企業が増えている。しかし、効率的に運用できている企業は少ない。なぜなら精緻な電力需要予測に基づいた最適運用ができていないからだ」と、技術本部企画推進室の岩波洋部長は説明する。

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