人工知能(AI)活用はその将来性が注目されるが、既にビジネス現場に深く浸透している。ビッグデータで予測精度が高まり、利益に結びつく事例も続出している。第1回はディスカウントストアのトライアルカンパニーの取り組みを紹介する。

 いま、人工知能(AI=Artificial Intelligence)の第3次ブームと言われている。新聞・雑誌で、この言葉を見ない日はない。「AIによって人間の仕事が奪われていく」といった類いの特集が一般誌でも掲載されるようになってきた。

 5月上旬、日本経済新聞朝刊一面トップに「日立、研究費に年5000億円。人工知能やロボ開発」という記事が載った。研究費を2016~18年度に3割増やすという思い切った決断だが、AIやロボティクス、センシングなどの分野に絞り込むという。

 なぜ、日立がそこまでAIなどに入れ込むのか? 答えは、収益への期待だ。本誌の取材に対し、日立製作所の研究開発グループ システムイノベーションセンタの矢川雄一センタ長は、「これからは、技術を生み出す研究開発からイノベーションを起こす研究開発になる。イノベーションとは、事業収益を上げるところまでやり切ることだ」と言い切る。将来、AIが収益を生み出すと考えているのだ。

 一方、既に多くの企業がAIを活用して収益拡大に取り組んでいる。各社は、画像や気象、顧客行動などのビッグデータを取り込んで、AIによる予測精度の向上に磨きをかける。

レジの渋滞を予測する店舗

トライアルカンパニーは、AIを活用して各防犯カメラの画像から店内の混雑状況を精緻に把握する(福岡県田川市の店舗)
トライアルカンパニーは、AIを活用して各防犯カメラの画像から店内の混雑状況を精緻に把握する(福岡県田川市の店舗)

 九州が地盤のディスカウントストアのトライアルカンパニー。今年7月以降に福岡県田川市にある店舗で、AIを活用した実験に取り組む。店内に設置してある防犯カメラの画像をAIで解析することによって、店内レジの10分、20分後の混雑状況を予測。なるべく顧客を待たせないように、レジを担当する店員の数を最適化する取り組みだ。

 田川市の店舗は、平日の来店者が1日約4000人、休日が5000~5500人で、トライアルの店舗の中でも10番目に入る人気店舗。ピーク時には5人程度がレジ待ちで並ぶことがあるが、これを3人程度に抑える。トライアルのようなディスカウントストアでは大量の商品をまとめ買いする顧客が多く、5人並ぶと列の後ろにいる顧客は長時間待たされることになるので、レジ待ちの人数を抑えることが大きな課題だった。

トライアルは防犯カメラ画像を分析して来店者数をカウント
トライアルは防犯カメラ画像を分析して来店者数をカウント

 なぜAIを活用するのか。トライアルはAIの中でも機械学習を使うが、トライアルのユニフォームを着た店員の特徴を学習して顧客と区別したり、店頭の人の出入りとレジ前にいる顧客の数との相関を自動的に見いだしたりできるという。入店者数と退店者数、その時点でのレジ前の人数から、10分後、20分後に必要なレジの台数や各レジに並ぶだろう人数を自動で予測してくれる。その予測状況に応じて、品出しの作業に当たっている店員をレジに回すなどの判断を行う。

 3~6カ月は、正解データ(実際に稼働しているレジの台数やレジ待ちの人数)をAIに入力して学習させる。今後は、人が重なって防犯カメラに映った場合の検出精度向上に、パナソニックの子会社でICTベンダーのPUX(大阪市)とともに取り組む。

 さらに、店内に設置する防犯カメラに映った顧客の年齢や性別もAIによって認識して、マーケティングに利用していく。顧客が棚の前でどのような行動をしたのか、購入した際のID-POS(販売時点情報管理)データと結びつけることで分析する。

 以前からPOSの導入によってレジを通過する顧客の購買データから、いつ誰がどんな商品を買ったのか、店側は知ることができた。しかし、これまで把握できなかった、購買に至るまでの挙動をはじめとして、購入を迷っているのかどうかなども分かるようになる。

 価格競争だけでは限界に来ている。レジでの混雑を緩和して顧客満足度を上げたり、マーケティングを高度化したりする必要があり、AIの活用を決めたという。

人工知能、進化の4段階

 総務省の「インテリジェント化が加速するICTの未来像に関する研究会報告書2015」によれば、人工知能(AI)は4つのカテゴリーに分類されるという。カテゴリー1は、単なる制御。温度が上がるとスイッチを入れ、下がると切るといったもの。カテゴリー2は、探索や推論の類い。将棋や囲碁などで、規定のルールに従って、手を探すといったことだ。検査結果から診断内容や処方する薬を出力するといった、与えられた知識ベースを使うような場合も該当する。

 第3次AIブームと言われる今は、2000年代から盛り上がり始めた機械学習が研究の中心であり、カテゴリー3に入る。「機械学習の時代は、インターネットの登場とウェブの広がりにより利用可能になった大量データを用いてコンピュータが自ら学習する技術が、それ以前から蓄積されてきたパターン認識技術と一体になることで発展した。統計的言語処理と呼ばれる、文法構造や意味構造を考えずに、訳される確率の高い訳を機械的に当てはめていく翻訳手法などに応用されている。グーグル翻訳などがその代表例である。ただ、当初は、学習の際に必要となる特徴表現のとらえ方を、人間が与えなければならないという課題があった」(総務省の研究報告書2015より抜粋)。

 カテゴリー4には、知識や思考に必要な特徴量を自ら抽出するディープラーニングが入る。「コンピュータは単なる記憶・演算装置から、与えられた乱雑な情報からその内容を認識し、推論、思考を自ら行う人間に近い存在に進化することが可能になったと考えられており、今後、人工知能分野が大きく発展すると期待されている」(同上)という。

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