大企業とスタートアップの提携例を取材し、大企業が目的にあったスタートアップと協業関係を続け、成果を出してくための5つのポイントを見いだした。 今回は「第3条:AI活用の生命線、データは出し惜しまない」「第4条:IoTこそ大企業の出番、製造コストの資金を供給」などを紹介する

【第3条】AI活用の生命線、データは出し惜しまない

 大企業は社員や資金、オフィススペース、顧客基盤や販路など様々なリソースを持っている。スタートアップとしてはこれらのリソースを活用できるのは大きなメリットだ。

 中古車販売大手のIDOMは虎の子とも言える、販売データをスタートアップに提供し、新サービスを共同で立ち上げた。IDOMで新規事業を担当する北島昇執行役員は「リソースを出し惜しんだら何も前に進まない」と言い切る。IDOMはスタートアップに新たな提案をしてもらうイベントを2015年末に開催。そこで、インターネットメディア運営のトイロ(東京都渋谷区)を見いだした。

 トイロはIDOMに対し、今の若者世代はクルマを探す際に「かっこいい」や「モテる」などの話し言葉で検索するとして、そうした利用者を集客するキュレーションメディアと連携した販促策を提案した。

 北島執行役員は「テクノロジーと発想において我々にはできないこと。実現したいことのベクトルは一致しており、実現に必要となるデータを惜しまずに提供した」と説明する。

 IDOMがトイロに中古車の販売データを提供。そのデータを分析しながら、各車種のモデルごとに、「かっこいい」や「モテる」など新たな属性タグを付ける。そして検索エンジンからもアクセスされやすいように最適化した。「実際のデータを活用させてもらったことで、どのように実装すべきかを的確に判断できた」(トイロの佐瀬和久代表取締役社長)。

 こうしてトイロが立ち上げたキュレーションメディア「Carlor」による集客は好調だ。北島執行役員は「想定以上に売れており、粗利はおよそ2倍」と明かす。

IDOMは販売データなど、出せるリソースを極力提供した
IDOMは販売データなど、出せるリソースを極力提供した

 AI活用では、大企業が持つデータが生命線となる。AIスタートアップのエーアイ・トウキョウ・ラボ(東京都千代田区)は今年6月、北海道を基盤にドラッグストアを展開するサツドラホールディングスの傘下に入った。エーアイ・トウキョウ・ラボの北出宗治代表取締役社長は「培ってきたAIのノウハウを実店舗で実際の顧客のデータで試して、モデルを磨くことができる」と、サツドラが持つビッグデータに期待する。

 サツドラは完全子会社にはせず51%の出資にとどめた。「他の業界の顧客のビジネスを手掛けるなどで新たな知見も得てほしい」(富山浩樹代表取締役社長)との思いがある。スタートアップにしても第三者割当増資で成長していく夢もある。

【第4条】IoTこそ大企業の出番、製造コストの資金を供給

 スタートアップと言えば、ソフトウエアと優秀な人材がいれば低コストでビジネスができるというイメージがあるかもしれない。しかしIoTではこの常識は通用しない。

 前述したキヤノンMJと介護支援ビジネスに取り組むZ-Worksの小川誠代表取締役は、「精度を出すため、特別にカスタマイズしたセンサーを設計して製造する必要がある。これに資金が意外とかかる」と明かす。レオパレス21と組むグラモ(埼玉県新座市)も「BtoBを意識しているので高くてもしっかりとしたものを設計して提供している」(後藤功代表取締役社長)と言う。同社は賃貸物件向けにスマートロックや、室内設備を外から操作可能にするモジュールなどを開発し提供する。

 一方、資金を提供したからと言って囲い込むのも避けた方がいい。Z-Worksの小川代表、グラモの後藤社長とも「他に横展開できないとなると、スタートアップとしては困ってしまう」と口を揃える。スタートアップは提供先の企業や業種を広げていくことで急速に成長するのが目的である。

 大企業側はこうしたスタートアップの要望を理解し、提携や出資に臨むべきだろう。IoTでなくても、AIでは先端技術者を獲得するために多額の資金が必要になってきている。また、IoT機器の製造はEMSのような事業者に依託するのが一般的だが、発注に際し信用も調査される場合がある。この際に信用を補完してあげれば提携関係がプラスに働く。

 一定の自由度を持たせることは、大企業側にもメリットがある。「他でブラッシュアップしてそれをフィードバックしてもらいたい」(レオパレス21のコーポレート業務推進本部コーポレート業務推進統括部の早島真由美理事統括部長)。

 レオパレスはグラモ対応物件をクラウドで集中的に管理できるようにした。「ここは当社の独自部分」(同コーポレート業務推進第1部企画課の村上史隆次長)としており、ここから果実を得ようとしている。

 具体的には、入居者へのサービスと同時に業務の効率化にも使っているのだ。スマートロックは入居者が変わってもセンターからカギの設定を変更するだけでいい。カギ交換業者の作業に立ち会う必要はない。この仕組みはレオパレスが管理する40万戸のうち年間1万戸に導入していく予定だが、当初から年間4億円の費用削減が見込まれる。

 もちろん開発したサービス、技術の権利の扱いは交渉次第。IoTやAIベンチャーのオプティムのインダストリー事業本部の休坂健志執行役員は「他にも展開させてもらいたいから、この程度の価格で提供できますと交渉することも必要」と言う。いずれにしても「特許や技術の権利の範囲は最初に決めておくべき」(同)。

大企業とスタートアップそれぞれの思惑
大企業とスタートアップそれぞれの思惑

【第5条】最初のステップは3カ月、迅速に判断をする

 ビジネスが激変するなか、その環境に迅速に対応するべきなのは、スタートアップに限らない。大企業にとってもそうだ。しかし、スタートアップと付き合ったことがない大企業が文化をいきなり変えるのは難しい。

Crewwの「コラボ」による 各ステップの内容
Crewwの「コラボ」による 各ステップの内容

 そうした前提を踏まえて、前述のCrewwは大企業とスタートアップのマッチングを3カ月間で実施し、期限を区切って各ステップが滞りなく進むようマネジメントする。

 「コラボ」と呼ぶマッチングサービスは年々需要が増しており、Crewwはこれまで80回以上のイベントを実施してきた。必要なコストは1回当たり1000万円程度からという。

 それぞれの案件に対してスタートアップに募集してもらう形だが、Crewwもデータベースや過去の実績を基にマッチングを仕掛けたりしている。ただ、IoTやAI、ビッグデータ分野を中心に2800社ものスタートアップが登録しており、「月に60社ぐらい増え続けている」(Crewwの伊地知天代表取締役)。

 そこで、東京大学大学院工学系研究科の松尾研究室(松尾豊特任准教授)と、AIを活用して大企業とスタートアップをマッチングする仕組みを開発中だ。合計で数百の因子から適切な組み合わせを見いだすという。

 Crewwのサービスを利用しない企業であっても、これらのステップや考え方はスタートアップと組んでいくうえで参考になるだろう。Crewwの伊地知代表は「本来、連携を必要としている歴史ある大企業が、スタートアップと遠い。そうした遠い関係にある企業こそ支援していきたい」と話す。


 大企業で「イノベーションを起こせ」と命を受けても、社内の関係部署との議論に時間を費やし身動きできない「イノベーション難民」が急増中だ。打開策となり得るスタートアップとの連携だが、この5カ条を踏まえず社内の常識で物事を進め、悪い評判を広げる企業もある。

 例えば案件が決まってからプロジェクト試行予算の確保に回ったり、そもそも試行に見合う対価を支払わなかったりする企業は評判が悪い。スピードを求め、資金的に余裕のないスタートアップはそうした企業とは組みたくないだろう。

 また、これまで新事業に投資しなかった大企業が予算を振り向け始めているが、「予算化されると、その成果を問われる。失敗の原因をスタートアップにできるようにもしておきたい」といった声も聞かれる。スタートアップ側にもこうした大企業を見極める必要があるだろう。

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