フジクラはビッグデータを活用して健康経営を実践し、成果を出している。人事部門に約3人のデータ分析チームを配置し、日々の歩数や血圧、脈拍などのバイタルや健康診断のデータを分析。従業員個別に個人ページで警告したり、事業所ごとに問題点をあぶり出したりして、PDCAサイクルを回し続けている。経営面では収益向上も続いている。
人事部の健康経営推進室でビッグデータ分析に乗り出したのは2014年。ただし経験者はいない。技術・開発部門出身の大橋重徳主席技術員が、独学と日本IBMの分析ツール「SPSS」の教育プログラムを受けノウハウを積み重ねてきた。
当初は全社の分析ができるようにするデータの整備が大橋氏の主たる任務。ただ分析に習熟するにつれ、高血圧の従業員に対し適切なタイミングでアラートを出すためのアルゴリズムを開発するまでになった。さらに生産部門の技術者からも「分析について教えてほしいと依頼されるようになった」(大橋氏)と言う。
SPSSを活用し、数万人規模のバイタルデータを集約し容易に分析できるようになった。事業所ごと、日時の活動状況をヒートマップで可視化するのも容易だ。「個別対策で効果が上がらない場合でも、事業所の特徴を踏まえた施策を打てる」(健康経営推進室の浅野健一郎副室長)。
健診データのクレンジングに苦労
実は事業所間での健康データの比較が容易になったのはつい2016年のこと。健康診断データの“クレンジング”が必要だったのだ。本社では3つの健康診断事業者と契約していたが、データの項目や単位が統一されていなかった。「要検査などの判定基準も違っていた」(浅野副室長)。2013年に各事業者との交渉を始め、3年かけて統一した。システム改修に必要な費用も支払い、全社データを正確に比べられるようになったのだ。
各種のデータが揃ったので、IBMの「Watson」による複数の情報を組み合わせた分析も始めた。「従業員に注意を促すための分析をすると、思いもよらない閾値が提案されるが、適切なことが多い」(大橋氏)。

フジクラが健康経営への取り組みを始めたのは7年前。重視するのがウオーキングによる運動とそれに伴う生産性への効果だ。各社員に歩数計を配布し、そのデータをスマートフォンや社内の血圧計の脇に置いた装置などから登録できる。1日3万~10万件もの登録がある。
当時は膨大なデータをExcelで分析しており、2012年度から各従業員への健康増進に向けた介入を始めた。例えば、お酒を飲む機会が多い本社で節酒のプログラムを実施したところ、4年間で肝機能障害のリスク者が約10%減った(図)。このほかメタボリックシンドロームの対象者が約5%減り、ウオーキングイベントに参加する従業員の生産性が高い傾向にあることなどが確認できた。

ウオーキングイベントに参加して完歩した従業員を基準にすると、不参加の従業員は同社が定めた生産性の指標が6ポイント以上低かった(図)。イベントに参加したけど完歩しなかった従業員は約4ポイントの低下だった。
こうした一連の取り組みに連動し業績は好調だ。介入を始めた2012年度に64億円だった営業利益は2016年度に342億円まで右肩上がりに増加。営業利益率は1.3%から5.2%まで向上した。