九州大学は学生1人ひとりに対して、授業中と前後の学習状況をリアルタイムに把握し、自ら積極的に継続して学習できる人間の育成を進めている。個々の学生が単位を落としてしまうかどうか、予測することも可能になった。

 「学生が授業のペースについていけているのか、リアルタイムに把握できるので、遅れ気味の学生が目立つ場合には演習を取り入れるなどして追いつけるようにするなど、柔軟に対応できるようになった」

 こう話すのは、九州大学基幹教育院、同大学院システム情報科学府の島田敬士准教授だ。下の図は、縦軸が授業に使う電子書籍のページ番号、横軸が時間。教員が開いている電子書籍のページ番号、学生が開いているページ番号が分かる。教員が別の資料を開くと(図中の「資料変更」)、学生も一斉に移ることが分かる。教員より下にある遅れ気味の学生は、授業についていけていない。そこで教員は演習などを取り入れて、遅れ気味の学生が授業についてこられるように時間を与えるといった対応ができる。

学生と教師の閲覧ページを表示して、授業の見える化を可能にした
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 国立の総合大学では珍しく「パソコン必携(2013年4月~)」の九州大学では、学生全員がノートパソコンを持って授業などに臨む。昨年から1年生約2700人を対象に、電子書籍を取り入れた科目では、上記のような授業を行っている。

 電子書籍を使う科目では、学生にその有効な使い方をあらかじめ教えている。学生は先生が説明しているページをしっかりと開き、理解できない箇所や質問したい部分にマーカー機能で印を付けるなどうまく使うことで、学習の理解度向上に生かしている。

授業外の学習状況も把握可能

 電子書籍を使っている科目では、学生による予習・復習といった授業外での学習状況も把握できる。下の図を見ると、学生が何時に電子書籍の教科書を開いているかどうかが分かる。

学生が何時に電子書籍を開いているかが把握できる
学生が何時に電子書籍を開いているかが把握できる
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 九州大学では、短時間で予習ができるようにちょっとした工夫をしている。例えば、通常20分かかる予習時間を3分程度に短縮できるようにした(3分はあくまで目安で学生によって、資料の内容によってまちまち)。具体的には、重要度を考慮して電子書籍の教材を自動で要約した予習用教材を作って、配布しているのだ。

 授業の前には必ず小テストを行い、予習でどこが理解できていなかったのか、学生に再確認させるようにしている。この予習教材を最後まで読んでくる学生の方が小テストでの理解度が良いことから、自動要約が適切に機能していることがうかがえる。

 授業では、予習で理解できなかった箇所について教員の説明を熱心に聞くようになる。授業の終わりにも小テストを行い、最初は分からなかった学生が授業を受けることで理解できたかどうかを確認している。

 授業を聞いても理解できず、最後の小テストで間違った項目を復習できるよう、電子書籍用の復習資料は小テストの結果に応じて自動作成して学生に渡す。

 もちろん、学生が復習しているかどうかも把握できる。どのページをどのくらいの時間をかけて開いているのか確認できるのだ。1~2週間後にはさらに小テストを行って、理解の度合いを確認している。この段階でも理解できていない学生向けには、改めて復習資料を作る。

 将来的には、小テストを実施して理解できているかどうか確認して、理解できていないことについては、また復習資料を作成して渡すといった“無限ループ”を自動的に回していくことができるようになるという。

 データを基に自動的に教材が作られるとはいえ、教員の役割は重要だ。「最終的には、復習資料を作って渡すだけでなく、教員が学生に会って話をしないとダメかもしれない」と島田准教授は指摘する。ちなみに九州大学では、教員への質問窓口や大学の先輩が務める学習サポーターに質問できる機会が設けられている。

1、2年の学生を対象に基幹教育

 学生が理解できるようになるまでここまで丁寧にフォローしている大学は珍しいかもしれない。大学の多くは学生の自主性に任せており、学習プロセスまではチェックしていないのが現状だ。

 九州大学では2014年4月から、基幹教育を実施するようになった。基幹教育とは「主に1、2年の学生を対象に(高年次や大学院向けもある)、主体的、能動的に継続して学習できるような人間(アクティブラーナー)になってもらうことを目指す教育プログラム」(島田准教授)だ。

 「なぜ学問を学ぶのか」といった、大学で学ぶ意義について創造的・批判的に吟味し、絶えず主体的に学び続ける態度(学びの基幹)の育成を目指す基幹教育セミナーを開いている。さらに課題協学科目も実施。様々な学部を集めて、グループ作業や個人演習を通して幅広い視野を持って問題を発見する姿勢、問題の解決を目指して学び続ける態度と技能、専門を異にする他者と協働できる能力を養っている。

 基幹教育を通して、学生が自ら積極的に継続して学べるアクティブラーナーになったか把握するためには、テストだけでなく、学生の学習プロセスを分析する必要がある。そこで九州大学は、京セラ丸善システムインテグレーション(東京都港区)が提供する電子書籍ソリューション「Booklooper(ブックルーパー)」を導入した。学生が一人一台のパソコンを持っている絶好の環境を生かし、学生の学習ログを収集することに決めた。

 2015年4月に、まずは1年生の約2700人を対象として、ブックルーパーを利用したデジタル教材配信を開始した。情報系科目を中心に、教材資料を電子書籍で提供するようになったわけだ。こうして、学生の学習プロセスを可視化できるようになった。それをフィードバックして、学生の学習意欲向上やモチベーションアップ、成績向上につなげようとしている。

 九州大学は1学年当り約2700人。2016年度は、約5400人の学生が情報系科目を中心に電子書籍を利用して基幹教育を受けており、学習プロセスのログを収集している。ちなみに、同大学の電子書籍システムでは、約2万人の学生がいつでも利用できる環境を提供している。

 学生1人ひとりのログを収集することで、個々の学生が単位を落としてしまうかどうか、予測することも可能になった。授業の出席や授業外学習、レポート提出、小テストの結果などの学習状況をデータ化。過去の最終試験の結果と学習状況データから単位を取れるかどうか予測できるのだ。

 予測結果が悪い学生に対しては、事前に面会してアドバイスなどができるというわけだ。今は電子書籍を活用している科目は一部だが、ほかの科目も順次電子化されれば、学生の学習プロセスがデータで把握できるようになり、アクティブラーナーになっているか、精緻に把握できるようになる。