ポッカサッポロフード&ビバレッジとその子会社で豆腐を製造・販売する日本ビーンズは、オプトホールディングとともに豆腐の適正生産量を予測する分析コンペティションを実施した。最も優秀だった予測モデルは一つの商品において、日本ビーンズの担当者の予測精度を15%上回った。日本ビーンズは5月から予測モデルを業務に取り入れ、精度のさらなる向上を図っている。

日本ビーンズの扱う「日本橋豆腐店シリーズ」の商品
日本ビーンズの扱う「日本橋豆腐店シリーズ」の商品

 冷や奴がおいしい夏に向けて、豆腐の消費はピークを迎える。同時に、豆腐メーカーが頭を悩ませる季節でもある。気温や店舗の特売状況によって販売量が大きく変動し、適正な生産量の予測を間違うと多くの廃棄商品が生まれるのだ。

 「豆腐はその日に作ったものをその日に配送する『日配』分野。豆腐を作る際には大豆を6時間ほど水につけなければいけないので、注文を受けてから作っては間に合わず、事前にある程度生産すべき量を予測しなければいけない」

 日本ビーンズ常務取締役戦略部長の織田浩司氏は、豆腐生産の難しさをこう説明する。生産すべき量は、日本ビーンズ物流部の担当者が前日までの平均販売数と小売店の特売情報に、長年の勘と経験を加味して決定していた。しかし「なかなか当たらない」(織田氏)というのが実情だった。

 ポッカサッポロは昨年に日本ビーンズへ出資をして、初めて日配商品の分野へ進出した。同社は群馬県伊勢崎市に工場を持つ豆腐製造の大手だ。

気象と特売情報で販売量を予測

 ポッカサッポロフード&ビバレッジ経営戦略本部経営戦略部マネージャーの勝又嘉之氏は、「データの観点からどんな経営課題が解決できるか」を考えていた。その中で、オプトホールディングのビッグデータ研究機関「オプトデータサイエンスラボ」を知った。

 同ラボは、データを活用したい企業とデータサイエンティストを結びつけるデータ分析コンペティションのプラットフォーム「DeepAalytics」を運営する。1500人ほどのデータサイエンティストが登録し、様々な企業が出す課題をデータ分析で解決することを目指す。企業だけでなく経済産業省も活用している。

 大学時代は人工知能研究に取り組んでいた勝又氏は、このDeepAnalyticsに興味を持ち、ポッカサッポログループの中でも最も難しい問題である豆腐の適正生産量の予測に活用しようと決断した。生産量を適正化できれば、同社の収益改善に貢献すると同時に、食品廃棄の削減という社会問題の解決にもつながる。

 コンペは2016年2月16日~3月31日に実施した。予測モデル作成用に提供したデータは2014年~2015年のもの。まず、気象庁の東京、神奈川、埼玉、千葉33地点の日別の気象データ(気温、湿度、降水量、風、天気)と、NTTドコモの環境センサーネットワークによる関東を中心とした55地点の1時間ごとの気象データ。さらに、日本ビーンズの豆腐製品の日々の特売予測データを提供した。これは日別、商品別の特売の実施によって商品販売量がどれくらい上振れするかの予測値だ。特売情報は営業が収集している。

 さらに粒度の細かいデータを多数用意することで予測精度が向上する可能性はあったが、完成した予測モデルを現場で運用する際に、データが多すぎては手間がかかる。むやみに増やすことはしなかった。

 これらのデータと2014年の商品の日別販売実績(予測対象の5商品)を基に適正な生産量を予測するモデルを作成してもらった。そして、2015年の気象データや特売予測データから2015年の日々の適正生産量を算出し、販売実績と照らし合わせて、予測対象5商品の総合の精度を競った。費用は賞金30万円に加えて企画料などをポッカサッポロが負担。予測モデルの権利はポッカサッポロが所有する。総応募数は113人、1665件に達した。

 その結果、特定の製品においては日本ビーンズの需要予測と比べて約15%の精度改善があったという。「勘と経験で培ってきたことを、1カ月半で追いついたことに驚いた」(勝又氏)一方で、そのアルゴリズムは「豆腐がどうして売れているのかをシンプルな説明変数を用いて説明していた」(同氏)と言う。最優秀作は機械学習を用いて予測していた。

 シンプルさ、分かりやすさは、予測モデルを業務で活用する際に重要だ。5月から日本ビーンズの物流部が予測モデルを活用している。複数の優秀モデルの中から実用的なモデルを採用した。モデル通りの予測値、これまでの予測値、それらを総合的に判断した予測値を記録し、実際の販売量と見比べて成果を判断している。織田氏は「構造が分かりやすく修正しやすいので、一番いいところを探っている」と語る。

 この予測モデル活用は生産量の適正化に加えて、もう一つのメリットをもたらす。「勘と経験も精度は高いが、情報を集めて分析、検討、数量の決定は猛烈な手間と時間がかかる」(織田氏)のが実情だ。しかし、誰でも理解できる予測アルゴリズムを使うことで、経験の浅い担当者でも判断がしやすくなる。また、予測値と実績値を見比べて、モデルを改善するサイクルを回すこともできるようになった。

データ整備には一苦労

 プロジェクトを推進する上では苦労もあった。いわゆるデータクレンジングの手間だ。勝又氏は「データは解析のためには作られていない。打ち間違いがあったり、数字以外のコメントが入っていたりする。工場の基本的な業務を理解していないと、データの間違いは理解できない。私は現場と解析のつなぎ役を果たした」と言う。

 日本ビーンズは3月に主力ブランドを刷新し「日本橋豆腐店」として全21アイテムをそろえた。調理に時間がかけらない共働きの若年層が増えていることを踏まえ、今夏は、すぐ食べられるたれ付きのおぼろ豆腐に売り上げ拡大の牽引役を期待する。そのためには品切れは絶対に避けたいところ。新たな予測モデルにかかる期待は大きい。そして今後は、データに基づく需要予測を他の食品にも横展開していく方針だ。

気象データなどを用意して、データ分析コンペティションを実施した
気象データなどを用意して、データ分析コンペティションを実施した
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