AIなどのデジタル技術が自動車やロボット、医療・介護などリアルな世界に入ってきた。日本企業が新たな時代に勝ち残るには、新たな組織と体制が求められる。パナソニックでは、「AI経営」に向けたの新組織が設立された。

 IGPIの冨山代表が社外取締役を務めるパナソニックも、AI経営の実践に乗り出している。今年4月、宮部義幸代表取締役専務が統括するイノベーション推進部門にビジネスイノベーション本部を新設した。同社のカンパニー単独ではできない、あるいはやりにくいサービス事業などを生み出し、各事業は5~10年で100億円規模を目指す。既に仕込んであり、近々2つぐらいのプロジェクトを発表する予定だ。

 ビジネスイノベーション本部は先端研究本部にあったAIやICT関連を移した組織で、130~140人の所帯になる。本部長は宮部専務。副本部長は、SAPジャパンでイノベーション責任者だった馬場渉氏が務めているが、シリコンバレーのオフィスに常駐してイノベーションの仕組みを伝えて、刺激を与えているという。

 同本部はプロジェクト推進室、IoT事業推進室、AIソリューションセンターの3組織から成る。モノではなくサービス中心の新規事業および、IoT技術・AI技術に基づく新規事業の創出を目指す。

 プロジェクト推進室は、サービス中心の事業化プロジェクトを起業し推進する。どういう領域にAIネットワーク技術を使うかを考える。また、若手社員の育成プログラム「NEO(Next Entrepreneurs Opportunity)」を運営している。NEOの狙いは事業の種を見つけること。新しい領域・ビジネスモデルに挑戦し、次代を担う社内起業家を育成する。

 2018年に100周年を迎えるパナソニックとしては若い社員を対象に起業家を育成して、次の100年に取り組む事業を生み出したいとしている。公募は随時行っており、しかるべき若手人材を選抜する。2018年度には具体的なアクションを起こす計画だ。

 IoT事業推進室は、機器をネットにつなげて顧客との継続的なつながりをつくる。モノとモノをつなげることによる新たな価値を創造して事業を革新していく。データを吸い上げてクラウドに保存して分析する基盤の役割を果たす。

 AIソリューションセンターは、AI技術やデータ解析によって、新たなソリューション事業を創出。データを価値に変え、社会・生活の様々な課題解決に生かしてより良い暮らしを創造する。ビジネスイノベーション本部の実働部隊であり、約100人の所帯で3組織の中では一番大きい。

AIでモノ主体からサービス主体へ

 AIソリューションセンター戦略企画部の井上昭彦部長は「AIは大きなチャンスをもたらす。AIの活用によって、パナソニックをモノ主体からサービス主体に変えていく。当社の強みはデータホルダーであること。チャンスを多く持っている会社だ」と話す。

 「ホップ・ステップ・ジャンプでモノ主体からサービス主体に変えていく。カメラの事業や放送系の事業などは当社の強み。これがホップになる。AIによって機器に付加価値を付けることがステップ。そしてデータを活用して新しいサービスを生み出していくことがジャンプだ」(井上部長)と言う。

 その井上部長は5月25日、人工知能学会全国大会に登壇して、「パナソニックにおける人工知能分野の研究開発事例紹介」と題してプレゼンをした。

 パナソニックがAI活用によって新サービスの創出に取り組んでいる車載、B2B、家電、住宅の4領域から6つの事例を説明した。

 車載では「障害物検知・危険予測」、B2Bでは「スポーツ映像解析(競泳)」と「水中インフラ点検」と「大規模セキュリティシステム」、住宅と家電の重なる領域では「生活支援ロボット」、B2Bと住宅が重なる領域では「目的指向対話の取り組み」である。

 それぞれについてホップ(強み)、ステップ(AIによる付加価値)、ジャンプ(データ活用による新サービス)を示した。例えば、障害物検知・危険予測では、ホップは仮想視点や全周囲カメラ、カメラモジュール、ナビゲーションなど。ステップは深層学習技術による高精度障害物検知、ジャンプは危険予測AIになる。

毎年100人のAI人材を育成

 パナソニックはこうしたAI活用を進めるため、人材の確保、活用に積極的に取り組む。1年半前から「Panasonic AI Hub」構想を展開する。柱は「AI人材育成」「計算機環境の整備」「データ共有」の3つだ。

Panasonic AI Hubの概要
Panasonic AI Hubの概要
AI人材育成、計算機環境、データ共有の整備で、AI技術者の力を底上げする

 AI人材育成については、毎年100人のAI人材を育成して現場に送り込む。3年間で300人のAI人材の育成を目指している。既に育成した100人のAI人材が現場で働く。大阪大学とともにAIの基礎講座を開き、機械学習、データマイニング、深層学習を身につけさせている。応用先としては画像認識、自然言語処理、データ分析の3つだ。

 大阪大学やAIスタートアップ企業、社内にいるAIエキスパートが指導に当たる。実際のデータを活用する実践コースを作り、既に育成した100人から30~40人を選抜して学ばせることも計画している。

 計算機環境の整備では、1台当たり11テラフロップスのGPU(画像処理用半導体)マシン数台を導入したり、クラウドを活用したりしている。一般的に1回学習させるのに1週間はかかる。学習時間の短縮が課題になっているという。

 データについては、店舗データや画像データなどをリスト化して社内公開している。購入しているデータはすぐにも使える。ただし、顧客のデータについては、アクセス先を示すだけにしており、必要に応じて顧客と交渉できる体制を敷いている。

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