AIなどのデジタル技術が自動車やロボット、医療・介護などリアルな世界に入ってきた。日本企業が新たな時代に勝ち残るには、新たな組織と体制が求められる。本特集の第2回は経営共創基盤(IGPI)の冨山和彦代表取締役CEOが考える「AI経営」を紹介する。
オムロンの社外取締役を10年間務めた、経営共創基盤(IGPI)の冨山和彦代表取締役CEOは「デジタル革命の第3ステージは、日本企業にとって大チャンスだが、大ピンチでもある」と指摘する。その冨山代表は最近、『AI経営で会社は甦る』という本を出し、話題を呼んでいる。
AI経営とは、深層学習技術に代表される、極めて有効なツールであるAIをうまく活用して儲かる製品・サービスを提供できる経営体制のことだ。
日経ビッグデータ2017年1月号で冨山代表は「デジタル革命は、パソコンが出てきた1980年代に始まってダウンサイジングが起こった。まさに破壊的イノベーションであり、汎用コンピューターメーカー同士の戦いから『インテル・マイクロソフト時代』になった。次が90年代半ばのモバイル・ユビキタス革命。この破壊的イノベーションもバーチャルな世界での出来事だった。今回の第3次デジタル革命は、リアルな世界で起きる。自動運転や医療・介護、建設系、交通系などでの応用だ」と明快に語った。
『AI経営で会社は甦る』では、今起きているデジタル革命第3ステージの本質を鋭くとらえている。同書を読めば、本格的なAI時代を見据えてどう会社の舵取りをすればいいのか、そのヒントを与えてくれるだろう。
冨山代表のインタビュー記事と同書を参考にしながらAI経営のポイントをまとめたのが、下図だ。

ホンダとオムロンは、まさに社会や企業、個人が抱える課題を的確に見つけ出して、自社の強みとAIに代表されるデジタル技術を掛け合わせて解決策をいち早く提供しようとしている(ポイント2)。
冒頭で紹介したホンダのR&DセンターXは、自社の強みとデジタル技術を掛け合わせて、ロボティクス、エネルギーマネジメント、モビリティの3領域で新しい価値を生み出すためのフラット型組織だ(ポイント5)。冨山代表はR&DセンターXのアドバイザーを務めている。
面白い仕事でAI人材を採用
ホンダの松本取締役は「冨山さんとは、もともと会社として付き合いがあった。昨年お会いして『今の日本は面白くない。面白いことをやりましょう』と意気投合した」と話す。
一握りの優秀なAI人材を確保・活用するうえでも、R&DセンターXはうまく機能するような仕組みになっているという。この点について、松本取締役はこう解説する。
「優秀なAI人材の採用については高額報酬も必要だが、面白い仕事かどうかがポイントだということで冨山さんと話が盛り上がった。優秀なAI人材はほんの一握りしかいなくて、パートタイムであれもこれもやりたい人たちだ。そういう自由度を求めており、世界中にネットワークを持って仕事をしている。だからプロジェクト単位で働いていただく」
R&DセンターXでは、とにかく従来とは異なるアプローチの面白いと思える仕事に入ってもらう。「苦労もあるけれど、楽しく仕事をしていただきたい。また、プロジェクトありきであり、社内外から手を挙げてもらっている。しかも、いろいろなプロジェクトを掛け持ちしてもらっている感じだ」(松本取締役)と言う。
なお、人数については公表していないが、「少数は精鋭になる」という考え方で進めており、あまり多くない。
オムロンでも、昔から優秀な研究者にはマルチに働いてもらうといった考え方がある。人事制度として契約社員制度があり、終身雇用でなくプロジェクトベースで働くもの。外国人も含めた数人がこの制度を利用しているという。
宮田CTOは「外部に『これはすごい!』という優秀な人材がいれば、共同研究を申し出る。例えば、AIコントローラーである種の飛び抜けた制御アルゴリズムを開発したい場合、世界中にいる能力の高い人材をすぐにピックアップできる。そして、ピンポイントでその人材に直接アクセスしている」と話す。
トライ&エラーを高速に回す
オムロンは今年4月、宮田CTOが統括する技術・知財本部にビジネスクリエーション室を設置した。この組織は、AI経営を実践するうえで重要な役割を果たす。ずばり、新しい事業のネタが実際にものになるかどうか、トライ&エラーを高速に繰り返して検証する組織だ(ポイント5)。
宮田CTOは「それぞれの事業部が大きくなって、トライ&エラーが少なくなり、既存の事業を続けようとするようになった。創業期のオムロンがそうだったように、くるくる回す力を強化するためにビジネスクリエーション室をつくった」と狙いを説明する。
現在オムロンの事業ドメイン(ものづくり、ヘルスケア、モビリティ、エネルギーマネジメント)には、20~30の新しい事業のネタがあり、ビジネスクリエーション室がトライ&エラーを繰り返す。顧客の課題を解決する新たな価値であり、儲かる可能性が高い事業のネタだと検証できれば、事業部に渡して事業化に乗り出すという。