AIなどのデジタル技術が自動車やロボット、医療・介護などリアルな世界に入ってきた。日本企業が新たな時代に勝ち残るには、新たな組織と体制が求められる。本特集の第1回はホンダとオムロンのAI活用体制を取り上げる。

 人工知能(AI)やIoT、ビッグデータに代表されるデジタル技術の大波が、自動車やロボット、医療・介護といったリアルな産業領域に押し寄せてきている。日本企業は、パソコン、モバイルによる過去2回のバーチャルな世界でのデジタル革命で敗北してきた。これまで世界的に成功してきた自動車やロボットなどリアルの世界では、デジタル革命に勝ち抜くことができるのか?

 デジタル革命第3ステージへ既に手を打ち始めている先進企業の取り組みを参考にしながら、勝ち抜く条件を探った。

 まずは、自社の強みとAIを掛け合わせて新しい価値を提供すべく、いち早く動き始められるかどうかだ。

 取り組み始めた1社がホンダだ。東京・赤坂に新設した「HondaイノベーションラボTokyo」では、社内外の研究者や技術者数十人が集結して、同社の強みとAI、そしてIoTから生まれるビッグデータを掛け合わせて新しい価値の開発に挑んでいる。では、ホンダの強みとは何か?

ホンダR&DセンターXの拠点の1つであるHondaイノベーションラボTokyo。東京・赤坂にあり、人が集まりやすく、すぐに議論がしやすいフラットな環境
ホンダR&DセンターXの拠点の1つであるHondaイノベーションラボTokyo。東京・赤坂にあり、人が集まりやすく、すぐに議論がしやすいフラットな環境

ホンダの強みの源泉はアシモ

 「ホンダがヒト型ロボット『ASIMO(アシモ)』で確立した高いレベルのロボティクス技術と深層学習(ディープラーニング)技術、そしてビッグデータを掛け合わせることで新しい価値を生み出すことができる」

 本田技研工業取締役専務執行役員で本田技術研究所代表取締役の松本宜之氏は、今年4月に発足した新組織「R&DセンターX(エックス)」が担う役割を語るなかで、ホンダが今までにない新しい価値を生み出せると力強く語った。

 その根拠として、アシモで培った「5本指」は人間の指のように繊細な動きができるうえに、深層学習技術によって獲得した「機械の眼」を掛け合わせることで、革新的なことを実現できるという。さらに自動車やバイクなどを通じて獲得し得るビッグデータを掛け合わせると、より大きな価値を生み出せると期待する。

 「ホンダは創業時から、生活の質を上げるために技術を開発し、研究に取り組んできた。ロボティクスについては、人をアシストするというより、人が持っている能力をさらに高めるものを開発する。例えば、下半身を怪我した方がいらした場合、体を動かす装置だけでなく、そのうちに装置を外しても歩けるようにするという新しい概念のロボットだ」(松本取締役)と言う。

 松本取締役は「人間に付加するという感じだったのが、人間が本来持っている機能を取り戻すようにする。そういうロボットが人に寄り添うシステムなどを当社では『人と協調するAI』としてCI(Cooperative Intelligence)と定義付けている。そうしたものの先には、家庭に入り、介護などにも対応する」と語る。

 具体的には、無人店舗などで使えるロボットの開発もあるという。松本取締役は「労働不足に対応するため、いろいろな作業を自動でできるようにするなど、ホンダのフィロソフィーに合っていることをどんどんやる」と意欲的に語る。

オムロン、AI活用で一日の長

 社会、顧客の課題を解決するためにAIを活用しようとするのがオムロンだ。同社執行役員専務CTOの宮田喜一郎技術・知財本部長は「当社は100以上もあるベンチャー企業の集まり。創業以来、ベンチャー魂で社会課題を解決する事業を次々に投入してきた結果だ」と話す。

 そのオムロンは制御技術を得意としており、第3次AIブームのはるか昔からAI技術を取り入れてきた。今年4月には「AI搭載マシンオートメーションコントローラー」を発表した。

 昨年から一部の顧客にこのAIコントローラーをサンプル出荷しており、顧客や自社の現場で実証実験を重ねている。装置の異常を推定・分析して装置の異常とその原因に関する因果関係の知見を高めることで、来年からの商品化を目指している。

 「今は、故障予兆の条件を人間がインプットしているが、コントローラーに搭載しているAIが学習して条件を見つけられるようになる。ハードウエアの価値はコモディティー化していくが、顧客と一緒に作り込んでいるAIアルゴリズムが勝負のポイントになる」(宮田CTO)とみる。

 オムロンはもの作りの現場(工場)の特性に合わせてAI開発を進める。AIコントローラーが使われる工場は大きく「工場層」「製造ライン層」「装置層」の3つの階層に分けられる(下図)。その3つの階層を人の中枢神経系に例えると、工場層では、「大脳思考的AI」としてビッグデータのマイニングによって、工場全体の製造条件の因果分析を行う。数秒~数分単位での分析が求められる。

オムロンによる工場でのAI活用の考え方
オムロンによる工場でのAI活用の考え方

 製造ライン層では、同じく大脳思考的AIと位置付けるが、工場層よりは小さいミドルデータをマイニング、機械学習する。それによりライン全体の製造条件や装置異常の因果分析、プログラムを使わず機械学習による装置間の異常監視や制御などを行う。求められるレスポンスは、より早く数ミリ秒~数秒のレベルだ。

 装置層で必要なのは、即座に反応する「脊髄反射的AI」となる。各種センサーデータを高速に収集して、特徴量データを蓄積、時系列データベースを作成し、機械学習によって異常監視・制御を行う。

 装置層では装置そのものでデータを分析し、リアルタイムに異常を監視して制御するAIが必要だ。レスポンスは数ミリ秒というリアルタイム処理が求められる。 

課題の発見には実証実験

 AIはあくまでツール。新しい価値を生み出すには、顧客が抱える課題を的確につかむことがポイントになる。だからオムロンは様々な顧客と実証実験を繰り返しながら、真の課題を見いだそうとしている。真の課題が見つかったら、得意の制御技術とAIで解決策を開発する。

 オムロンの顧客である製造業では近年、多品種少量生産やグローバルでの最適地生産の流れが加速している。一方で、熟練技術者の不足や人件費高騰という課題を抱える。そうした課題を克服して設備の稼働率向上、高品質な製品の安定的な生産を進めるために、AIやIoTを活用するニーズが高まり続けていることをオムロンはつかんでいる。

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