企業の取引に関わるビッグデータを、人工知能(AI)などで分析して中小企業へ融資するサービスが相次ぐ。従来、銀行では借りられなかった小規模な事業者も融資対象にできれば、企業融資の市場は大きく広がると見込む。

 オリックスとグループ会社の弥生などは今年10月、会計ビッグデータによる与信モデルを活用した融資事業を、新設したALT(東京都千代田区)を通じて始める。「5年後に利用者5万人で数百億円規模の融資を狙う」(ALTのALT事業部シニアマネジャーの池田威一郎氏)と目標を高く掲げる。

弥生の会計データを分析し与信

 活用するデータは弥生の会計ソフトで日々記録される取引の仕訳データだ。それをAI技術開発のd.a.t.(東京都千代田区)とオリックスの与信ノウハウを活用して開発した与信モデルを使い、貸し出し可能な金額や金利を個別に判断する。

 ALTが貸金業者として登録して融資を手掛け、そのデータを集めてモデルを磨いていく。将来は与信モデルの外部提供によるライセンス収入も期待しており、千葉銀行、福岡銀行、山口フィナンシャルグループ、横浜銀行と業務提携契約を結んだ。

ビッグデータ与信に基づく融資の仕組み
ビッグデータ与信に基づく融資の仕組み

 池田氏は、「弥生は“事業コンシェルジュ”として、中小企業に役立つ存在になりたいと考えている。弥生の顧客を調査すると、85.0%が短期資金ニーズを有するが、借り入れ事務の煩雑さや、借り入れに時間がかかり過ぎるなどを理由に、36.5%の事業者が借り入れに至っていない」と説明し、そうした課題をビッグデータによる与信で解決し、事業の成長を手助けしたいと抱負を語る。

 米国で同市場は拡大している。スマートフォン・タブレット用カード決済アプリ提供の米スクエアは、取引データに基づき利用企業が資金を前借りできる「Squareキャピタル」を提供。2017年1~3月に4万件超の利用があり、融資金額は前年同期比64%増の2億5100万ドルに達した。

住信SBIは会計、カードと連携

 銀行は財務データなどのスコアリングを基にした融資で巨額の焦げ付きが発生した新銀行東京の記憶も新しく、ビッグデータ与信には慎重だった。しかし、「Amazonレンディング」など先行勢の好評を受けて、インターネット銀行や地方銀行を中心にサービスを開始し始めた。

 住信SBIネット銀行は昨年10月に「レンディング・ワン」を開始し、データ連携先を拡大している。当初は、クレジットカード決済代行サービスのゼウス(東京都渋谷区)と、今年3月にはクラウド会計ソフトを提供のマネーフォワード(東京都港区)と組み、両社の取引データを活用した審査による融資を開始した。今後も連携先を拡大していく方針だ。

 成功のカギを握るのは与信モデルの精度だ。リスクをとらず高い金利を提示しては競争力がなくなるし、金利を低く設定すると貸し倒れリスクを吸収できず収益性が悪化する。

 しかし、サービス開始前はデータがなく、どう機械学習させるかが課題になる。そこで同社は、「クレジットカードの取引であれば、特定の状態に陥っている店舗を実際より少し広めだが仮想的に貸し倒れと定義して、教師データとして機械学習させた」(菅野開ビッグデータ部長)。

 例えば、カード加盟店情報を共有する信用情報機関を通じて加盟店の破産情報が共有される。カード取引の状況、営業が共有している情報、カード会社の情報連携の中で、ある店舗は倒産したようだと知ることができれば、こうした情報が学習用データとなる。アルゴリズムは、「ディープラーニング(深層学習)は使途が限定されるので、複数の機械学習によるアンサンブルのモデル」(菅野部長)となっているという。

 サービスを開始して、「従来は財務諸表を出し、多くの質問を受けて、審査に1カ月かかるところが、すぐ貸し出しできるのはデータ活用の成果だ。銀行がここまでやるかと驚かれる」と、有泉俊介トランザクションレンディング事業部長は語る。

 今後、実際の融資データを使い精度を上げていく。「実際に貸し倒れが発生し始めると精度が上がって競争力のある金利が提供できる。先行者メリットがあり、上手に失敗できる会社が成功できるだろう」(菅野部長)とみる。

 銀行による中小企業への貸出金残高は約300兆円規模。ビッグデータとAIに基づく融資によって、これまで銀行では借りられなかった小規模事業者も借りられるようになり、「市場規模は数兆円、数十兆円あってもおかしくない。そこを切り開きたい」(有泉部長)。

 今夏にはリクルートグループも参入する。データが価値を生む新市場としてますます活況を呈しそうだ。

ビッグデータ与信による国内の主な融資サービス
ビッグデータ与信による国内の主な融資サービス
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