三井住友銀行は個人向け商品におけるデータベースマーケティングで成果を上げている。2015年2月にシステムを刷新し、営業店を通じた施策の成約率(コンバージョン率)が2割向上した。ターゲティングする顧客のリスト抽出を自動化し、分析ロジックの作成や現場とのコミュニケーションに時間を割けるようになった。

 データ分析はリテールマーケティング部リモートマーケティンググループ内に6人のスタッフを置いて実施している。「チームのミッションは『顧客の見える化』『有望顧客のターゲティング』『(マーケティング)展開支援、評価』『(レポート作成などの)計数管理』の4つだ」と、同グループの橋本宗則・上席部長代理は説明する。

結婚する人を推測する方法

 2008年にSAS Institute JapanのMA(マーケティングオートメーション)ツールを導入して、様々な施策を展開してきた。

 銀行には大量のデータが集まる。顧客の勤務先などの属性、商品別残高などの資産状況、入出金の履歴、営業店とのコンタクト履歴、ネットバンキングサービスやWebサイトの利用状況、ATMの利用状況など…。こうしたデータから顧客の実像を探り、資産運用やローンなど求めるであろう商品や情報を理解して、対面営業、コールセンター、ダイレクトメール、ネットバンキングの画面、メールなどを通じて情報を提供する。

 大量のデータがあっても、そのまま役立つわけではない。解釈が必要になる。例えば、入出金のデータなら、支払い先の企業名から旅行会社、学習塾、保険会社などを判別し、出費の用途を推測する。そのためには、企業リストと業種を結びつける辞書が必要だ。「地道だがこの辞書のメンテナンスがターゲティングの善し悪しに影響する大切な業務だ」と橋本氏は語る。

 データを整備した上で、「1.顧客の属性」「2.結婚/昇進/退職などのライフイベント」「3.ライフスタイル」を推測するモデルを用いて顧客を分類し、商品の推薦などに活用する。

 分類法は例えば、「女性が住所変更をして、公共料金の引き落としが止まった」「男性が住所変更をして家賃の金額が上がった」「結婚式場へ大口の振り込みをした」──、こういった条件から結婚すると判断できる予測モデルを開発。営業現場へ提供する顧客リストや、営業店などで利用するCRM(顧客関係管理)画面を通じて情報提供する。

データベースマーケティングの取り組み
データベースマーケティングの取り組み

100近いデータマートを用意

 大量のデータを蓄積したデータウエアハウスから、こうしたライフイベントを迎えたような人、特定のライフスタイルの人などを切り出して、マーケティング施策に活用できるようにする。こうしたデータマートは100近く用意している。一つの予測モデルは1カ月半から2カ月ほどかけて作り上げ、成約率などの結果を見て手直しをしていく。

 従来、データマートへの切り出しは分析チームが毎月3~4日かけて手動で行っていたが、2015年2月のシステム刷新で自動化した。データソースの更新頻度に応じて、毎日または毎月自動更新するようになった。

 その分、分析スタッフは予測モデルの開発などに時間をかけられるようになった。現場の要請に応じて実施する一回限りの分析なのか、今後も現場で求められそうなデータで「資産化」すべきかを意識するようになった。

 同時期にデータソースを拡充。ネットバンキングのページ遷移データなどもマーケティング施策に活用できるようにした。この結果「営業店で把握しにくい、顧客にアプローチするきっかけやコミュニケーションの質を上げられる情報を提供できるようになった」(橋本氏)と言う。

 刷新の翌年度、データ分析に基づいて営業店では気づかない顧客プロフィル情報も加えて、資産運用商品を提案すべき顧客リストを作成したところ、リストからの顧客獲得率は前年度と比べて2割向上した。

成果は分析精度だけでは決まらない

 ネット通販やネット広告などであれば、顧客をターゲティングした後は顧客層に適した文章や画像を用意してデジタルな手段でアプローチする。分析精度が成果に直結しやすい。一方、銀行の場合はリアルチャネルでの営業が中心だ。データ分析が成果に結びつくかは、営業やコールセンターのスタッフがデータをどう活用するかに左右される。彼らにデータ活用の意義を十分理解してもらうことが重要になる。

 橋本氏は、コールセンターでの「一言クロスセル」施策を実施したときに実感した。これは、問い合わせをしてきた顧客に対して、対応終了時に、顧客が関心を持ちそうな商品を薦める施策だ。どんな商品を薦めるべきかはCRM画面を通じてコールセンターのスタッフへ情報提供する。

 施策を実施したところ、成約率は5%とダイレクトメールの5倍にも達し、分析担当者としては大変喜んだ。しかし、コールセンターの現場では「100人に声をかけて95人に断られるのは大変なストレスだ」と受け止められたという。分析者と営業現場は数字の受け止め方が異なる。橋本氏は「より高精度にすべきだ」と強く感じた。

 営業スタッフに、なぜこの商品を薦めるのかというロジックを深く理解してもらえれば、顧客対応への熱意も高まり、効果が上がる可能性もあるだろう。

機械学習で予測モデルを調整へ

 三井住友銀行のデータベースマーケティングは着実に成果を上げているが、さらなる効果向上へ橋本氏は2つの課題意識を持っている。1つはデータの鮮度だ。橋本氏は「他業界にはないようなデータも持っているが、遅いものだとデータが手に入るのは2カ月後。これでは顧客の関心は別のところにいっている」と説明する。

 もう1つは「通帳残高、商品購入のデータとして出る前のニーズ、興味に関するデータが本当は必要」と明かす。ローンを利用したい、投資をしたいと思う瞬間に提案すれば高い効果が期待できる。

 金融商品は商品点数が少なく購入頻度が低いため、消費財などのネット通販で主流の協調フィルタリングなどのレコメンド手法は使いづらい。データから購入の予兆をいち早く捉え、商品を推薦できれば高い効果を得られるはずだ。Webサイトの利用データなどを活用することで、顧客理解を進めたいと橋本氏は考えている。

 人工知能の活用も描く。「投資信託商品を買いそうな顧客を見つけ出す予測モデルは約2000の変数の中から30の説明変数に絞り込んでいる。30の変数は変えず、成果を見ながら機械学習でパラメータやアルゴリズムを微調整することはできるはず。モデルをフルに変更するには1.5~2カ月かかるが、今後は機械学習で小刻みにマイナーチェンジしていけるのではないか。時間さえあれば取り組みたい」と橋本氏は展望する。

 橋本氏は他社から三井住友銀行に転職し、前職から数えると15年ぐらいのデータベースマーケティング、データマイニングの経験を持つ。他のスタッフも分析に加えてシステム、CRMなどの得意領域を持ち、分析は完全内製化した。分析のプロが、いかに成果を上げていくか。地道なデータ整備、スタッフの力を有効活用するための自動化、社内の関係部署への働きかけなど、本業の分析はもちろん、それ以外の様々な業務にも力を入れるべきだということが、三井住友銀行の取り組みから学べる。

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