米フォード・モーターは今年に入り、IoT(Internet of Things)、ビッグデータ、クラウド、モバイル領域への投資を積極化させ、新会社の設立や外部企業の出資を急いでいる。事業展開のカギを握るのは、3月に設立した新たなモビリティ(移動)サービスを開発・提供する新会社、フォード・スマート・モビリティである。
同社は「自動車メーカー」から「モビリティカンパニー」への転換を目指している。2015年1月には、カリフォルニア州パルアルトにビッグデータ研究センターを開設した。同センターでは、自律運転自動車の研究や、米アルファベット(グーグルの持ち株会社)傘下のネスト・ラボと協力し、スマートホームとコネクテッドカーのデータ連携で実現する新サービスの開発にも取り組んでいる。
フォード・スマート・モビリティが提供するサービスの内容は、「顧客体験の向上」「柔軟なモビリティ利用体験」「ソーシャル・コラボレーション」に大別される。顧客体験の向上に関しては、「位置情報を利用した駐車場の空きスペースの検索」や「テレマティクス保険」といった従来のサービスの向上を進める。柔軟なモビリティ利用体験については、遠隔操作・自律運転機能と連動した「自動パーキング運転(Remote Repositioning)」や、利用者同士の「自動車交換(Car Swap)」も含めたシェアサービスなどの開発を、世界各地で行っている。
「車交換」を社員限定で実験
例えば、米アトランタで研究している自動パーキング運転は、パーキングの入り口などで自動車を乗り捨てると、遠隔運転で自動車を駐車スペースに運ぶものだ。将来的には、病院の入り口で降車したら、車が自律的に駐車スペースまで移動し、帰りには自動車が玄関まで迎えに来るようなサービスを想定しているという。
自動車交換は専用アプリを用いて、フォード本社の社員限定で実験中だ。ユーザーはあらかじめ自車情報と個人情報を登録。セダンを持っている人が週末に4WDに乗りたい時など、交換を希望している人(自動車)を検索して、うまく条件が一致すれば車を交換して利用できる。自動車は現在、所有、シェア、またはレンタルして利用されるが、交換という新たな利用法がどんな価値を生むか探っているという。
また、渋滞の激しいインドのベンガルールでは、レンタカー事業を手掛けるズームカーと協力し、近隣地区のユーザー同士でカーシェアリングのテストを実施している。カーシェアリング自体は珍しくないが、世界中の都市や独自性がある地域のデータを収集することで、自動車に対する詳細なニーズを把握し、サービス開発に生かすことができる。
米フォードでエンタープライズ&エマージングITディレクターを務めるリック・ストレイダー氏は、「コネクテッドカーは、もはや高級車だけの付加価値ではない。また、世界全体で見れば、自動車を所有するよりも、必要な時にレンタル、シェアしたいと考える層もいる。そうした顧客に対して『最適なモビリティ体験』を提供するには、IoTで取得したデータを活用・分析し、アプリを通じてあらゆるサービスを提供することが不可欠だ」と説明する。
ピボタルに198億円の投資
フォードは2016年1月、モバイルアプリの「FordPass」を発表した。同アプリでは、ライドシェアリングや駐車場予約サービスなど、フォード・スマート・モビリティで商品化されたサービスが利用できる。また、独自のモバイル決済「FordPay」で、駐車料金や提携ショップでの買い物の支払いをすることも可能だ。なお、フォードスタッフによる自動車に関するアドバイスも、無料で受けられる。
今後もモバイルアプリの開発には注力していく。同社は5月5日、米EMC傘下でクラウドベースのソフトウエア開発会社である米国ピボタルソフトウエアに対し、1億8220万ドル(約198億円)を投資すると発表している。
