高速バス事業の統轄管理を行っているWILLER EXPRESS JAPAN(大阪市)が、202台のバス全車に眠気検知システムを導入して半年。走行中の衝突事故がゼロになった。

 「眠気検知システムを全車導入した昨年10月以降、高速バス走行中の衝突事故はなくなった」

 WILLER EXPRESS JAPANの平山幸司代表取締役は、こう話す。これまでは軽微な事故が年間4~5件は発生していたというから大きな成果だ。

 眠気検知システムは運転手の眠気やその予兆を検知すると、首にかけた振動センサーがブルブル震えてアラートを出す。「運転手が覚醒しない事例はない」(平山代表)と言う。

 頻繁にアラートが出るときには、各営業所にいる運行管理者がバスに設置しているカメラで車内の画像を見て、あまりに眠そうなら運転手に音声メールを出して、次のサービスエリアで休憩を取るように指示している。

高速バスの運転席
高速バスの運転席

 高速バス「WILLER EXPRESS」は毎日21路線で計280便を運行している。全国にピンク色のバス停を70カ所設けている。利用者は年間約259万人になる。女性の利用比率が68%と高いのが特徴だ。

 平山代表は「高速バスが道路を間違えたりするときがあるが、運転手が覚醒している状態で間違えたのか、眠気でボーッとしていて間違えたのか把握できるようになった」と眠気検知システムの導入効果を説明する。

運転手が共通して眠くなる時間

 半年間のデータから見えてくるものは、いくつもある。

 例えば、運転手が共通して眠気を生じる時間帯が見えてくる。時間帯だけでなく、眠くなる道路形状も見えてくる。「一般道では、運転手は緊張しているので眠くならないが、高速道路などの平坦な道に入ると一気に眠気が出てくるといったことが分かる」(平山代表)と言う。

 運転手1人ひとりの特性も顕著に分かる。夜に弱い人は、いくら寝ても、夜になると眠くなる。その場合は、夜行乗務から昼行乗務へ勤務変更をさせる場合もある。疲れが右肩上がりにたまる運転手や急にガクッと眠くなる運転手もいる。運行管理者が把握するだけでなく、運転手本人にフィードバックすることで、休憩の取り方などを工夫できるようになった。

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 WILLER EXPRESSは定期路線バスなので、法令によれば連続運転時間は4時間であるが、同社は約2時間ごとに休憩を取れるようにダイヤを工夫している。眠気検知システムを導入するようになってからは、「眠気が出たら休憩を取っていいということを事前に運転手に説明するルールにするなど、運行管理者の運転手への指示が明確になった。運転手の眠気状態をリアルタイムで把握できるようになったからだ」(平山代表)。

 WILLER EXPRESSは現在、高速バスの走行が終わったら、眠気や急加速・急減速などの走行データを基に、運行管理者が運転手にアドバイスをしている。「運転手も当初は脈波センサーを耳たぶに付けるのを嫌がったが、2カ月も経つと『付けて良かった』と思うようになってきた」(平山代表)と言う。

導入2カ月で眠気予兆が精緻に

 WILLER EXPRESSが導入した眠気検知システムは、富士通の「FEELythm」。耳たぶから脈波を1秒以下の頻度で測定して、眠気を検知している。独自の検知アルゴリズムによって脈波の周波数解析をして、眠気レベル(眠気検知、眠気予兆、覚醒)を判定して、運転手と管理者にリアルタイムに通知している。

 運転手に合わせて眠気判定の基準値を自動的に設定している。「眠気の感覚は人によって異なるために、使い始めてすぐにマッチングする人と、そうでない人がいる。一般に眠いという感覚は個人差が大きく、独自の自動学習機能によって眠気判定の基準値を更新し、個人差や日々の状態による精度のバラツキを解消。より正確に個人の感覚に近づいた検知を行っている。20~50時間でより精緻な検知になる」と富士通は説明する。

 平山代表は「導入1カ月以内では、運転手が眠気を感じないときにもアラートを出すなど、無駄なアラートが飛ぶことがあった。しかし、2カ月ぐらい使うとほぼ精緻な測定ができるようになった」と話す。

 WILLER EXPRESSの運行管理者は富士通が開発した分析ツールを使って眠気マップを作り、どこを休憩場所にしたらいいか、運行ルートの最適化を進めている。

安全運転でサービス価値向上

WILLER EXPRESSの高速バス
WILLER EXPRESSの高速バス

 高速バスはとかく格安会社に流れがちだが、WILLER EXPRESSは徹底した安全運転の実施によってサービスの価値を上げて利用者の拡大につなげている。平山代表は「眠気検知システムの導入は最低限のことだと思っている。こういう設備投資をしなければ、バス運行サービスをやってはいけない」と主張する。

 眠気検知システムの全車導入だけでなく、「衝突被害軽減ブレーキ」を導入している。道路上の車両が歩行者をミリ波レーダーで検出し、衝突の可能性が高いとシステムが判断したときに警報やブレーキ制御によって衝突回避操作を補助する。

 衝突の可能性がさらに高まったと判断したときは、自動的にブレーキを作動させることによって衝突回避を支援したり、衝突被害を軽減したりする。今夏には、全車両の99%が衝突被害軽減ブレーキを備えることになるという。

 運転手の健康管理にも力を入れるなど、高速バスの安全運転を追求。「安心・安全」という価値を顧客に訴求することによって、事業拡大を図っている。