産業データ活用の一大経済圏の実現にまい進するGEの戦略を解き明かす特集の第3回は、変貌する同社の開発スタイルに迫る。その象徴がサンラモンのオフィスにある「デザインセンター」だ。GEのエンジニアと顧客が一緒に課題を解決したり、新しいコンセプトを考えたりする施設となる。

 メンバーが集まって立ちながらミーティングできるスペース、ペンで自由にメモできる壁、無料で朝食や昼食をとれるオープンな食堂──。GEソフトウェアセンターはさながらアップルやグーグルなどシリコンバレーの有名IT企業のオフィスそのものである。課題が生じると関係するメンバーがすぐに集まって、対応策と締め切りを迅速に決めて散っていく。

GEデジタルのシリコンバレーオフィス(米サンラモン)では、スタートアップ企業のようなオフィスで活発な議論が交わされている
GEデジタルのシリコンバレーオフィス(米サンラモン)では、スタートアップ企業のようなオフィスで活発な議論が交わされている

 IoTの製品やサービスの開発では従来にないものを指向したり、短期間での立ち上げを求められたりすることが多い。思いもよらないような競合の登場などでビジネス環境が変化し、サービス仕様に大きな変更が求められることも頻繁に起こる。

 こうしたIoTの特徴への対応に、「ワークアウト」と呼ぶムダを省いて重要な課題に集中するためのGEの一般的な会議手法、シリコンバレー流の迅速に改善しながら進める開発手法の「ファストワークス」の手法の組み合わせが有効だ。GEはこれをPredixを活用した顧客との開発プロジェクトに適用し始めている。

 ワークアウトとはGEの社内で長年実施している、会議のファシリテーションや結論のまとめ方の手法である。LIXILグループも来日したGEの担当者を交えてワークアウトを実施している。具体的には以下のような手順で進められていく。

(1)利害を持つ関係者の会議を招集
(2)解決すべき課題を特定するための意見出し(付箋紙に匿名で書いていくことが一般的)
(3)課題を影響度の大小、実行までの時間の長短の2軸でプロット。解決すべき優先順位を可視化
(4)最高優先度の課題の原因追究と解決策の検討
(5)次のアクションと担当者、スケジュールについて合意

シリコンバレー流の開発手法を取り入れた
シリコンバレー流の開発手法を取り入れた

顧客との連携施設を開設

 サンラモンのオフィスには「デザインセンター」と呼ぶ、GEのエンジニアと顧客が一緒に課題を解決したり、新しいコンセプトを考えたりする施設が併設されている。リラックスした雰囲気で意見を交換するためのカフェやシアターなどもある。

 顧客が訪れて、ワークアウトとファストワークスを活用しながら新しい製品やサービスのコンセプトを固めていく。デザインセンターにはファストワークスを支援するための設備も用意されている。例えば、プロトタイプを作るための電子部品などの自販機、3Dプリンターなどだ。

 こうした環境に顧客が来て、「3日間ほど議論することで新たな発想が生まれる。1年間に約300社の顧客がやってきて、450以上のワークアウトセッションが実施されている」(デザインセンター&イノベーション ディレクターのウディ・テネティ氏)。

 顧客側の体制も成功のカギを握っているという。「顧客は社内を横断した、ビジネス、ソフトウエアエンジニア、IT、CIOなどで来るケースが多い。GE側も含めて、データサイエンスやセキュリティ、ユーザー体験、デザイナーの担当者まで揃って、相互に影響し合うべきである。全体で15人ぐらいがベストではないか」(テネティ氏)。

 Predixの代理店となったソフトバンクも東京・豊洲周辺に専用施設を開設しており、顧客にワークアウトを本格的に提供していく考えだ。

誰でも使いこなせるUIを規定

 Predixには顧客も利用できるソフトウエア開発の環境が用意されている(下図)。顧客企業のソフトウエアエンジニアはこの画面上のプログラムで必要とするアプリやサービスを指定することで、「機能をレゴブロックのように組み込んでいく」(GEデジタルのマヨラン氏)。

Predix用のサービスやアプリは開発環境から組み込む
Predix用のサービスやアプリは開発環境から組み込む
開発ガイドラインと共通モジュールがあり、スマホなどでも同じUIを実現できる
開発ガイドラインと共通モジュールがあり、スマホなどでも同じUIを実現できる

 ユーザーインターフェースについてはソフト部品が用意されており、開発ガイドラインも定められている。これらにのっとって構築すれば、別の機器の管理画面であっても同じ感覚で操作することも可能となる。

 これによってパソコンやタブレット、スマホでも基本的に同じデザインと操作感を保てる。「本社で管理している責任者と、遠隔地の現場で設備を運用している担当者が別のデバイスを使っていても、同じ画面と情報を見ながら意思の疎通が容易になる」(マヨラン氏)。

非営利団体でもPredixを普及

 GEはインダストリアル・インターネットやPredixを世界に広げるため、もう1つの布石を打っている。

 製造業のデータ活用を推進するため、米AT&T、米IBM、米インテル、米シスコシステムズと2013年12月に立ち上げた非営利の業界団体「インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)」である。GEはあくまで創設メンバーの1社としての位置づけであり、代表は務めていない。

 既に、NECや富士通、富士フイルムや富士電機、コニカミノルタなどの日本企業も含め、250社以上の企業が参加している。

 IICの目的はIoT時代の企業連携を実現することだ。参加企業同士が連携して「テストベッド」と呼ぶグループを作り、新たな製品やサービスに取り組んでいる。現在、14のテストベッドがあるが、「そのうち4つがPredixを活用することを公表している」(IICのバイスプレジデントのジョセフ・フォンティーヌ氏)。

 現時点で日本企業は富士通がシスコと、1つのラインで複数の製品を製造するテストベッドへの取り組みを国内で実施中。製造する機器に付けたセンサーの情報をクラウドで集約して管理することを想定している。

 IICはドイツが国策として進めている「インダストリー4.0」との連携について2015年初頭から本格的な検討を進めてきた。ABB、米ヒューレット・パッカード・エンタープライズ、米IBM、シスコ、独シーメンス、独ボッシュなどの有力な製造業が両方の取り組みに参加しており、今年3月には連携で合意に至った。

 対抗陣営さえ魅了し、Windowsやアップルのアップストアの成功を超える産業用プラットフォームの構築へ──。GEはデータとアルゴリズムを武器とするシリコンバレー流の次世代製造業へと一気に変貌を遂げようとしている。

IICに参加する主な企業と連携
IICに参加する主な企業と連携
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