産業データ活用の一大経済圏の実現にまい進するGEの戦略を解き明かす特集の第2回。LIXILは、日本でのGEの代理店であるソフトバンクを通じてPredixの採用を決定した。GEが豊富な実績を持つIoT分野ではなく、職人の割り当てに活用する。背景にはLIXILの希望があった。

 日本ではソフトバンクの法人部隊がGEの代理店となって、インダストリアル・インターネットやPredixクラウドを顧客へ売り込んでいる。

 ソフトバンク法人事業開発本部の赤堀洋本部長は「Predixによる産業分野の改善などは今後極めて有望だと考えている。2020年までには年500億円のビジネスにしたい。将来的には、当社としてPredix担当のデータサイエンティストも用意する」と意気込む。

Predixを導入するLIXILの小和瀬CIO
Predixを導入するLIXILの小和瀬CIO

 ソフトバンクによる第1号のユーザーとなったのが総合住宅設備機器メーカーのLIXILである。日本だけでなく世界で初めて外販されたPredixを導入する企業になるという。グループの施工会社であるLIXILトータルサービスがPredixを採用し、マンションや戸建てのユニットバス設置工事を実施する職人の割り当てに活用する。

 GEは当初、LIXILの工場への導入を提案したという。製造ラインが停止する際の状況をPredixが予測して警告。事前に対処できるようにするというものだ。これに対してLIXILの最高情報責任者(CIO)を務める小和瀬浩之上席執行役員は「人手が多くかかる、非効率な業務を自動化したい」として人員の割り当て業務での活用を逆提案したのだ。

 こうした経緯で日本では、まだ活用例が少ないIoT以外の分野からPredixの導入が始まった。

 工事は現場の状況や難易度によって、派遣する職人のスキルなどを見極めてマッチングするのが難しい。以前は専門の担当者が実施していたものだ。これをPredixの持つスケジューリング機能などを利用し、データのシミュレーションによって最適な配置を割り出すことにした。

 LIXIL向けのPredixのサービスは標準機能を利用せず、現在GEが開発中である。今年6月にも本格稼働する予定で、「人員の割り当てにかかるすべては自動化できないが、工数をおよそ3分の1に削減できる」(小和瀬CIO)と見込む。導入や運用コストは非公表だが、初期投資はさほど大きくないとみられる。LIXILは主として、毎月の利用料金を支払う形だ。

 世界では、米総合エネルギー会社であるエクセロン、カタールの液化天然ガスのラスガス(RasGas)など、エネルギー系の企業からPredixの導入が始まっている。

長年のノウハウをPredixに移植

 Predixクラウドは、サービスや機器や人、あらゆるモノがつながるプラットフォームとなる(下図)。従来GE製のエンジンやタービンなどの機器だけを対象としていたが、2014年秋にはGE以外の機器にも対応した。「顧客の拠点にはGE以外の機器もある。顧客のことを考えれば統合的に管理できるようにするのは当然のことだ」(GEデジタルのマヨラン氏)。

Predixクラウドを通してサービスが進化し続ける
Predixクラウドを通してサービスが進化し続ける

 これまでGEがインダストリアル・インターネットなどの顧客企業に提供してきた、機器を管理するためのAPM(アセット・パフォーマンス・マネジメント)と呼ぶ機能群もPredixクラウドで近々利用できるようにする。機器に接続して状況を取得したり、その状態を分析したりする機能を約20個用意する。

 米GEのAPMプロダクト・リーダーのデレック・ポーター氏は「顧客の様々な場所にある機器のデータを把握して、パフォーマンスやアウトプットの品質、そして安全を考えていく必要がある。それには社内の各部門で情報をサイロ化させてはいけない」と説明する。

 例えば、APMの「デジタルツイン」と呼ぶ機能は、機器から取得したデータを基にサイバー空間(デジタル)上で機器の状態を再現する仕組みである。サイバー空間に実世界にある双子がいるようなものだ。

 サイバー空間上の機器に対して、様々な条件を与えて、故障などの可能性を予測する。飛行機であればサイバー空間側のエンジンを利用して、メンテナンスの内容や時期による稼働時間の変化をシミュレーションするといったことが可能になる。このほかAPMには風力発電など産業に特化した管理機能も用意されている。

 さらにGEは近日、Predixクラウドにスマートシティ関連のサービスを6個追加する。

 例えば、ネットワークカメラ機能の付いたインテリジェントなLED街灯などから得た映像データを分析し、街にいる歩行者の数や賑わいを推測したり、クルマの映像を分析することで駐車場における最適な誘導管理などをしたりするものだ。スマホなどのモバイルデバイスのセンサー情報を使って、屋内での人などの位置を割り出すといった機能も用意する。

アプリ市場で機能が増えていく

 PredixクラウドにはGE以外の企業も、自社で開発をしているアプリやサービスを提供できる。

 Predix開発の責任者であるムッカマラ氏は「Predixクラウドは産業分野の『Windows OS』のようなものである。Windowsというプラットフォーム上にPowerPointやExcelのような優れたアプリがあることで、初めてPredixクラウドを使ってもらえる。顧客がいることでデベロッパーやパートナー企業も集まってきて、それを見て顧客も利用するようになる循環を生むのだ」と強調する。

 例えば、物流や郵便の事業者が利用する大型仕分け機を開発・販売する米ピツニーボウズは、緯度経度の位置情報から住所データを出力するAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)などを提供している。このほかの企業もデータマネジメントや業務ワークフローを管理する機能などを提供している。

 これらPredix上で提供するアプリやサービスの利用料金の体系は一般には公表されていないが、「提供したアプリなどを他の企業に使ってもらうことでマネタイズができるプラットフォームでもある。プライシングの方法についても設定できる」(ムッカマラ氏)。