米ゼネラル・エレクトリック(GE)がインダストリアル・インターネット戦略を打ち出して3年。産業データ活用の一大経済圏の実現にまい進し始めた戦略を現地から3回にわたって報告する。
カリフォルニア州のシリコンバレー地区のサンラモンにある米ゼネラル・エレクトリック(GE)の「GEソフトウェアセンター」(写真)。2011年に開設した同センターのオフィスにはソフトウエアエンジニアを中心に約1300人が在籍。GEは3年間で1000億円を投じており、同社の変革を先導し、将来にわたり収益を引き上げる役目を担っている。

昨年9月中旬にはソフトウエア部門の総責任者であるビル・ルー氏がGE全体のデジタル戦略を牽引する最高デジタル責任者(チーフ・デジタル・オフィサー=CDO)に就任することを発表。GEデジタルという新部門を発足させて、GEソフトウェアセンター、グローバルIT部門、各事業のソフトウエアのチーム、買収したカナダのウォルドテックの産業用セキュリティ部門を統合し、ルー氏が率いることとなった。
ソフト事業が1兆円超の製造業
GEはさらにソフトウエアへのアクセルを踏み込む。それから2週間後の9月末、米サンフランシスコでGEが開催した戦略説明会。そこでジェフ・イメルト会長兼最高経営責任者(CEO)はソフトウエア事業の売上高を2020年までに2015年見通しの3倍となる150億ドル(約1兆6500億円、1ドル110円換算)以上に引き上げることをぶち上げたのだ。
世界最大級の製造業であるGEが、ソフトウエアでも世界の大手企業に肩を並べることを意味する。例えば、ソフト大手の米アドビシステムズ(現在5000億円超)の規模を上回り、独SAP(同2兆4000億円弱)の規模にも迫る。
この戦略の中核を成すのが、エンジンやタービンなどの産業機器の稼働状況をセンサーで取得したうえで、効率改善などに活用する「インダストリアル・インターネット」、2013年から提供を始めている産業データの予測分析用ソフトウエアの「Predix」である。
GEはインダストリアル・インターネットの進化版と言えるPredixに集中投資しており、単なるソフトから「統合プラットフォーム」に変貌を遂げている。今年2月にはPredixの各機能を利用するためのクラウドサービス「Predixクラウド」を発表し、顧客への提供を正式に始めている。
「(初期のWebブラウザーであるネットスケープナビゲーターを開発した投資家の)マーク・アンドリーセン氏が指摘したように、『ソフトウエアが世界を飲み込む』世界が実際にやってきている。次の100年を考えたら、ソフトウエアにデータサイエンス、アナリティクス、ユーザーエクスペリエンスの概念は必要不可欠なものだ」(米GEのPredixのエンジニアリング・ディレクターであるヒマ・ムッカマラ氏)。
Predixクラウドは産業用ソフトウエアのエコシステムも実現しようとしている。スマートフォンの「iPhone」から欲しいアプリをダウンロードして、すぐに利用できる米アップルのアップストアのような仕組みだ。
アップルはiPhoneにより、消費者の情報収集、生活、購買スタイルを一変させた。インターネットとコンピューティングパワーがイノベーションを生んだ。GEは企業活動から生まれるデータを持つ企業、アルゴリズム開発企業を集めた産業データの経済圏を築いて、企業活動にイノベーションを起こそうとしている。
機器単体ではなく全体で最適化
GEがPredixクラウドで狙うのは、電力や航空、鉱山、医療、都市などの各産業領域である(下図)。高額な機器を現場に導入して、日々人力で高いコストをかけて運用しているような産業である。

こうした産業の機器に備えられたセンサーから、ネットワーク経由でビッグデータを収集して分析。その結果を基に最適な運用や保守の方法を提案していくのである。
それによって、(1)スケジューリング&物流の実現、(2)コネクテッドな製品の開発、(3)インテリジェントな環境の実現、(4)保守管理の最適化、(5)分析力の向上・活用、(6)設備性能の最適管理、(7)オペレーションの最適化といった効果を見込む。
日本に駐在する米GEのGEデジタル ソリューションアーキテクトのラジェーンドラ・マヨラン氏は、「これまでも性能を向上させてきたエンジンのみで効率をさらに1%改善するというのは難しいかもしれない。しかし、航空機であれば飛行のルートやメンテナンスまで含めれば改善が実現できる場合が多い」と説明する。
例えば、航空会社に対しては、機体やエンジンの特性などに応じて最適な飛行ルートを提案したり、エンジンから出力される大量のセンサーデータを蓄積・分析することで最適な保守の時期を知らせたりしている。航空会社はエンジンの保守の時期をあらかじめ知ることで、突然故障して欠航を招くといったことが回避できる。飛行距離で一律にメンテナンスするよりもコストを最適化できるわけだ。
一方、鉱山分野においては大型の無人建機の走行経路を最適化したり、地面状態に合わせたアクセルやブレーキの制御を行ったりといったことで燃費を抑制する。鉱山の事業全体の作業員などのオペレーションの最適化にまで踏み込んで、人件費の削減に取り組むといったことまでも想定している。