日産自動車系の車部品大手のカルソニックカンセイは、新卒採用で人工知能(AI)を活用して採用活動でミスマッチを減らし、効率化を目指す。
「AIの活用によって当社に適合した学生を素早く提案してもらって面接のオファーを出すことができるので、書類審査などの手間を大幅に省くことができると考えている。ものづくりの価値や当社の役割について、採用したい学生に時間をかけて丁寧に説明できると期待している。ミスマッチも防げると思う」
こう話すのは、日産自動車系の車部品大手のカルソニックカンセイ研究開発センター・本社グローバル組織活性化本部人財戦略企画グループの奥村健太郎主担だ。今年の面接の先行解禁日は昨年の8月1日から6月1日に繰り上がり、短期決戦になった。それだけに学生に対して面接のオファーを素早くできれば、大きなメリットだ。そこでAIの活用を決めた。
カルソニックカンセイは連結売上高1兆円超。国内約4000人(世界で約2万人)の従業員を抱えるが、国内では技術系を約30人、事務系で約10人の新卒を毎年採用してきた。「今年(2016年4月入社)は事務系は例年通りだが、技術系は約50人。2017年4月入社については、技術系はさらに多く採用する予定である」(奥村主担)と言う。定年退職で技術者の数が減るために、今のうちから自社に適した優秀な理系人材を確保したいとしている。
学生と企業の適合率を算出
同社が利用するAI活用の採用サービスは、教育ベンチャーのInstitution for a Global Society(東京都渋谷区、IGS)が展開しているグロバール人材評価・育成事業「GROW」だ。GROWは大学生を対象に、グローバルに活躍できる人材に必要な能力をウェブ上で評価。学生の成長を支援してグローバル人材を求める企業との適合率をAIにより算出する。さらに、その結果が妥当だったかどうか、機械学習を使ってアルゴリズムの精度を高めている。
具体的には、まず学生はGROWの専用アプリをダウンロードして、自分を評価してくれる同じ学部の学生や研究室・ゼミ、サークルの仲間、インターンシップ先の社員(メンター)などをGROWに招待。「表現力」や「共感・傾聴力」、「外交性」、「柔軟性」、「決断力」、「寛容性」といった25項目のコンピテンシー(下の表)に関して4段階で評価してもらう。
- 課題設定:状況を把握し問題と原因をみつけることができる
- 解決意向:課題を解決するための計画・方法を立案することができる
- 個人的実行力:何事にも進んで自ら取り組む
- 創造性:自分だけのアイディアを出すことができる
- 論理的思考:物事を深く考えることができる
- 疑う力:他者の意見を鵜呑みにせず、建設的な反論ができる
- 内的価値:自分の価値観で物事を判断する
- ヴィジョン:未来の目標を明確に持つことができる
- 自己効力:自分に自信を持ち物事を進めている
- 成長:難題も自身の成長のために取り組む
- 興味:知らない分野の情報を積極的に収集することができる
- 耐性:困難な状況でも決めたことをやり抜くことができる
- 感情コントロール:負荷のかかる状況でもストレスをコントロールすることができる
- 表現力:相手が理解しやすいように物事を伝えることができる
- 共感・傾聴力:相手の話を真剣に聴き、理解する努力を怠らない
- 外交性:知らない環境の中でも自ら飛び込んでいる
- 柔軟性:物事の進め方を適宜変更しながらコントロールできる
- 決断力:自分の考えと客観的な事実を照らし合わせて物事を決めることができる
- 寛容:考えや意見の異なる相手を受け入れる
- 影響力の行使:他者に考えを伝え共に仕事を進めている
- 情熱・宣教力:情熱をもって自分の考えを他者に納得させることができる
- 組織への働きかけ:チームワークを高めるための前向きな雰囲気をつくることができる
- 地球市民:世界の一員としての意識をもつことができる
- 組織へのコミットメント:組織の目的や目標の達成のために真剣に動くことができる
- 誠実さ:正しい行いをするように他者に働きかける
GROWに登録している学生数は現在1500人。IGSは2018年末までに10万人へ増やし、利用企業を500社にすることを目指している。
25項目のコンピテンシーについて合計で約100問の質問があり、それぞれの質問に対して4つの選択肢の中から選ぶ仕組みになっている。例えば、「彼/彼女は、問題の本質が何であるか見極めるために、納得するまで突き詰めて考えているか?」や、「彼/彼女は、話し合いの場では、自分の発言が強い影響力を及ぼすことが多いか?」「彼/彼女は、場当たり的にものごとを進めてしまうのではなく、目標達成までの段取りをつけて課題に取り組んでいるか?」といった約100の質問だ。
「他者評価を取り入れているところが大きなポイント。就職塾の影響や企業によく見せたい学生は本当のことを言わないインセンティブがある。だから、就活している学生本人は嘘をつくものという前提に立って、他者の客観的な評価によってより実態に近い本人像を浮き彫りにしている」とIGSの福原正大社長は説明する。
また、他者が評価する際の指の動きを計測しているという。4つの選択肢から選ぶ際に躊躇したり、考え込んだりといったことを指の動きを見て判断しているのだ。真剣に評価しているかどうかを見て、評価の確度が高いかどうか判定している。
企業は重視するコンピテンシーを選択
4月18日、企業の人事担当者が使う専用サイトがオープンした。カルソニックカンセイの奥村主担は早速使ってみるという。25項目の中から特に重視するコンピテンシーを4つ選んでリスト化。適合率の高い学生のリストが送られてくる予定だ。
奥村主担は「当社は『挑戦』『多様性』『学び』に近いコンピテンシーを選んで、適合率の高い学生のリストを送ってもらう。結果として、当社が必要としているグローバルで活躍できる人材を紹介してもらえる」と話す。
カルソニックカンセイでは、若手社員30人を5つのグループに分けて、約100の質問に答えてもらう。「約100の質問について、自己評価を6段階で評価した後に、他のグループメンバーについて自己との比較で5段階の評価を行う。目的は、自己評価だけでなく、他者評価も加味されることで、より客観的で実態に即したコンピテンシーを各社員において定義することだ。そしてそのデータがGROWの登録学生と紐づけをされることによって、より自社に合う学生を見つけ出すことが期待できる」と奥村主担は話す。