ケーブルテレビを運営するジュピターテレコム(J:COM)は4月1日付の機構改革で、「データ戦略企画部」を設立した。部門別に配置していたデータ活用・分析スタッフを集約し、全社でのデータ活用の高度化戦略を企画、推進することが目的だ。マーケティング部を改称した組織となる。
「インフラであるケーブルを提供する技術部門、毎月の請求をする情報システム部門、顧客と対話をする営業やカスタマーセンター部門…、各部署の分析要員を集めて、全社横串でデータ分析できるようにした」
グループ戦略本部副本部長兼データ戦略企画部長の平田晃氏は、同部設立の背景をこう説明する。
日経ビッグデータは4月14日に、LINE(東京都港区)が各部門のデータサイエンティストを集めて全社のデータ専門組織を設立したことを報じたが、ネット企業ではない一般の事業会社でも全社横断のデータ活用の動きが広がる動向の一例と言える。
同社はこれまでも、データ分析に基づく施策で成果を上げてきた。昨年は、同軸ケーブルの伝送路の流合雑音への対策に取り組んだ。多数の家庭から局舎へ向かう上り回線で雑音が集まると、インターネット回線の速度低下や電話の障害を招く。そこで局舎に集まる信号の波形などを分析して、雑音が高まる原因を推定して、大きく高まる前にメンテナンスをするようにした。それにより雑音を10%減らし、保守人員のコストも削減できたという。
こうした実績も踏まえて、昨年秋から経営陣の間でデータ活用の全社組織を作ることの議論が進み、4月に機構改革が実現した。
企画と分析のチームで構成
データ戦略企画部は、企画チームとアナリティクスチームの計6人で構成される。企画チームで各部門のニーズを把握し、仮説を作り、アナリティクスチームで分析を実行する。
従来各部門で実施していた分析を高度化させたり、各部門が持つデータを組み合わせた分析や活用に取り組んでいく。

例えば、ケーブルテレビのセットトップボックス(STB)端末からは顧客の操作データが集まる。個人を特定しない形で視聴の傾向やSTBの使われ方を分析して、番組制作やSTBの開発にフィードバックしていく。「視聴率は長年見てきたが、録画の状況、視聴に至るまでの動線といったものは分析できていなかった」(平田氏)ものを高度化していく。
また、同社は約2900人の営業員による販売活動が特徴だが、営業エリアをどう回ると効率的か、収益に貢献するLTV(顧客生涯価値)が高い顧客をどうやって獲得するかをデータによって示していく方針だ。例えば、持ち家に住む顧客は長年利用する傾向にあるが、賃貸住宅では2年で解約ということもある。「営業員は経験的には分かっているが、データで気づきを与えたい」と平田氏は目論む。
「全社部門になったので、現場からの期待は高まっている」(平田氏)。一方で、課題はその期待に応える体制の強化だ。「まず人材を集めたところ。今後採用や育成で人員体制を増強したり、外部企業の助言を得たりしていく」(平田氏)方針だ。分析人材が一カ所に集まるので、スキルが高い人材による教育で部署全体のレベルアップが期待できる。
同社が持つデータは多岐にわたる。約500万の加入世帯へのケーブルの状態やSTB端末の操作、ネット配信する動画の視聴データ、月74万件の入電があるコールセンターの会話をテキスト化したデータなど。さらには、営業員が顧客の説明のために活用するタブレットを通じて顧客の関心がデータ化される。営業員の作業負担も考慮する必要はあるが、営業への反応などアナログな情報もデータ化できる。
電力やMVNO(仮想移動体通信事業者)事業への参入、テレビ通販のジュピターショップチャンネルへの出資など、事業領域の多様化で顧客のライフステージ、ライフサイクルまで把握できるようなデータが集まるはずだ。横断的な活用が実現できれば、大きな効果が期待できる。