本田技研工業(ホンダ)は太平洋上に浮かぶマーシャル諸島共和国で、電気自動車(EV)3台とソーラー充電ステーション4機を使った実証実験を進めている。走行、充電などのデータ分析により、将来の離島ビジネスの可能性を探る。
実験の舞台となったマジュロ(マユロ)環礁は小島が連なって細長い楕円を描いており、幹線道路は1本、約48kmしかない。そこにホンダが「FIT EV」3台と太陽光発電システムと連携する充電設備「ソーラー充電ステーション」4機を持ち込んだ。消防署、保健省、教育省に配車されており、政府職員が使用する実験だ。
マーシャル諸島においてEVと充電関連インフラを普及させ、同国の持続可能な発展に貢献する可能性を検証する。実証実験では、データ収集・解析事業を手掛けるアプトポッド(東京都新宿区)の協力を仰いでいる。
実験がスタートして約1年半。「EVおよびソーラー充電ステーションに対する高いニーズがあることが分かった」と、本田技術研究所R&DセンターXエネルギーシステムの武政幸一郎主任研究員は話す。その裏付けになるデータがある。EV1台当たり1カ月の平均走行距離は約1000km、1日当たりの走行距離は30km以上になる。
マーシャル諸島共和国政府はEVおよびソーラー充電ステーションの導入に前向きだ。というのは、同国はディーゼル発電機4台(2015年10月時点)で電気を供給しているが、米国から重油を輸入しているため多大なコストがかかるからだ。ちなみに、発電機は全部で7台あるが、3台は故障して稼働しているのは4台となっている。
日本で走行データなどを把握
今回の実験の大きなポイントは、遠く離れた日本の本田技術研究所で、データ活用によってEVやソーラー充電ステーションの利用状況を把握している点だ。下図がシステム構成になる。

EVが充電するたびに、EVが数秒に1回収集している走行距離、充電回数、電力消費、充電時間、電池の劣化状況などのデータをクラウドサーバーに送信している。そうしたデータを本田技術研究所の端末で確認できるというわけだ。
EVに対する高いニーズを踏まえ、今後はソーラー充電ステーションが何機あれば、EVを何台走らせることができるのかなども算出していく。
武政主任研究員は「EVやソーラー充電ステーションが系統電力(国が供給する電力)に影響を与えないかどうか、検証している」と説明する。前述したように、マーシャル諸島の系統電力は発電コストが割高なうえに、安定しておらず停電も多い。「実際、データを収集しているので、系統電力が停電している状況も把握できる」(武政主任研究員)のだ。
晴れている昼間には太陽光から充電するが、夜間には現地の系統電力を使うことになる。また、EVの数に比べてソーラー充電ステーションの数が少ないと、充電が集中してなかなか充電ができない。「昼間でも系統電力から充電することになってしまうと考えている」(武政主任研究員)。EVの台数増加が系統電力に影響を与えると、マーシャル諸島政府による電力系統の強化も必要になってくる。
なお、高温多湿な環境下でも、電池の劣化については問題ないことも検証できたという。搭載している電池は、ホンダ社内検証時において走行距離7万kmで約2%の劣化しか起きていない。
ホンダのビジネス開発統括部スマートコミュニティ企画部コミュニティ企画課の加納いづみ主任は、「世界の離島には、EVとソーラー充電ステーションに対するニーズがある。今後の離島ビジネスの可能性を探るうえで、マーシャル諸島での実証実験は大きな意義がある」と話す。